「レーダー無ェ!足は遅い!」対地攻撃に全振り「A-10」が歩んだ“七転び八起き”の半世紀とは? もうすぐ退役します
- 乗りものニュース |

アメリカ空軍のみで運用される対地攻撃専用のジェット機であるA-10「サンダーボルトII」。誕生のきっかけはベトナム戦争の戦訓でしたが、その後、幾度となく目標変更と近代化改修が施され、現役であり続けました。ただ、間もなく退役します。
米軍のA-10攻撃機がベトナムの空港に出現!
2025年現在、アメリカ空軍が運用する唯一の対地攻撃専用ジェット機、それがA-10C「サンダーボルトII」です。この機体は超音速で飛ぶスマートな外見の戦闘機とは異なり、無骨で特徴的な外見から、映画やゲームなどのエンターテインメント作品でも広く知られています。そのようなアメリカの攻撃機が、昨年(2024年)12月末にベトナムの首都ハノイにあるザーラム空港で開催された防衛展示会「ベトナム・ディフェンス・エキスポ」に参加して話題となりました。
「ベトナム・ディフェンス・エキスポ」に展示されたA-10C「サンダーボルトII」攻撃機。その周辺にはベトナム軍人の姿があった(布留川 司撮影)。
ベトナムとアメリカは、1960年代に始まったベトナム戦争で戦い合った、当時の敵国どうしです。会場となったザーラム空港は、戦争中アメリカ軍に攻撃されたほか、終戦後はアメリカ人捕虜を返還する際の引き渡し場所にもなった、ある意味でいわく付きの場所でもあります。
しかし、双方の外交関係は1995年の国交回復をきっかけに好転しており、2023年にはアメリカ政府トップのバイデン大統領(当時)がベトナムを訪問、両国の関係を「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げしています。今回の「ベトナム・ディフェンス・エキスポ」には、その関係をアピールするかのように、A-10のほかにもC-130Jをはじめとしたアメリカ軍の航空機や地上兵器も展示されていました。
ただ、A-10とベトナムには、現在の外交方針とは別に、この機体が生まれるきっかけとなった因縁めいた繋がりがあります。実はA-10の開発は、ベトナム戦争でのアメリカ軍の苦い経験を背景に始まったのです。
ジャングル戦では高性能な戦闘機はいらない!
アメリカは1964年のトンキン湾事件をきっかけにベトナム戦争に本格的に参戦しましたが、当時運用していた対地攻撃が可能なジェット戦闘機は核戦争を想定した機体が多く、ジャングルでの戦いが主体のベトナムには不向きでした。
「ベトナム・ディフェンス・エキスポ」ではA-10のほかに、日本の横田基地所属のC-130J「スーパーハーキュリーズ」輸送機、陸軍の装甲車なども展示された(布留川 司)。
戦闘機が地上で戦う友軍部隊を空から支援する任務をCAS(キャス;近接航空支援)と呼びますが、それに投入される機体は長時間戦場に留まれる滞空性能と、何度も反復して攻撃が行える多くの兵器搭載能力が求められます。特にベトナム戦争では、ジャングルに潜んでゲリラ戦を行う南ベトナム解放民族戦線(通称ベトコン)との戦闘が多く、開戦当初はこれに最適なジェット戦闘機が存在していなかったのです。
アメリカ空軍ならびに海軍は、CASに最適な機体として朝鮮戦争から使われている古い攻撃機A-1「スカイレーダー」を投入。この機体はジェット機ではなくレシプロエンジンで動くプロペラ機でしたが、低速ゆえに戦場に長時間留まることができたことから、CAS任務だけでなく、救難ヘリコプターとペアを組んで敵地に孤立した兵士を救出する戦闘探索救難任務(CSAR)でも活躍しました。
しかし、飛行速度が遅いということは、敵の反撃に対して脆弱ということでもあり、ベトナム戦争中は260機以上のA-1が撃墜されています。ちなみに、その多くは地対空ミサイルではなく歩兵や車両に搭載された小火器によってでした。
ベトナム戦争では戦闘機の対地攻撃能力の不足を補うために、既存の戦闘機の改良だけでなく、F-111「アードヴァーク」といった新型攻撃機まで開発されています。しかし、それとは別に地上部隊の支援に特化した機体を開発するために、CAS任務専門の攻撃機を開発する「A-X計画」を1966年より開始しました。この結果、誕生したのがA-10だったのです。
対ソ連戦車部隊の急先鋒
A-X計画で求められた能力は、これまでの超音速で飛ぶ戦闘機とは真逆のものでした。長い飛行時間と低空域での良好な運動性能が要求された一方で、高高度や音速での飛行能力は求められませんでした。
「ベトナム・ディフェンス・エキスポ」に参加したのは在韓米軍のA-10で、今年(2025年)から退役が始まっている(布留川 司撮影)。
ただ、兵装積載量は1万6000ポンド(約7300kg)が要求されたほか、固定装備として格段の破壊力を持つ30mmガトリング砲を搭載。また、レーダーなどのセンサー類は搭載されず、その代わりにシステムを簡易化することで、価格の低減と高い稼働率の維持が要求されました。
A-10が、唯一無二の特徴ある機体形状になったのは、こうした要求を満たすためなのです。アメリカ空軍においてCAS任務専用に開発された唯一の攻撃機であり、言うなれば、機能性を追求した結果、従来の超音速戦闘機にある格好良さやスマートさは存在しないと言えるでしょう。
こうして、A-10は1977年に配備されましたが、開発のきっかけとなったベトナム戦争は2年前の1975年に終結しており、ベトナムのジャングルで実戦に参加することなく終わっています。
しかし、A-10の任務がなくなったワケではなく、その後はヨーロッパ地域でソビエト連邦(現ロシア)との全面戦争に備えて配備されています。なお、実際に戦争が勃発した場合はソビエト連邦の強大な陸軍戦力と対峙、アメリカ空軍の地上攻撃の先鋒となることが期待されていました。
幸いアメリカとソビエト連邦の全面戦争は起きませんでしたが、その後のアメリカ軍が参加した戦いのほとんどで用いられ、1991年の湾岸戦争、1990年代半ばに起きたユーゴ紛争、2001年のアフガニスタン侵攻、2003年のイラク戦争などに投入されています。
また、2007年からは既存のA型をアップグレードしたC型の配備も始まり、操縦席のグラスコックピット化やアビオニクスの改良などが行われました。特に一番大きな改良点は、目標を捜して照準するターゲティングポッドを新たに搭載した点で、これによりレーザーならびにGPS誘導の精密攻撃兵器を運用できるようになり、より高精度な攻撃が可能になっています。
現代戦では生き残れない?
当初は簡易的な攻撃機として開発されたA-10ですが、時代と共に改良され、前述したように最新の航空機搭載兵器も扱えるまでに進歩しています。しかし、近年ではその能力が疑問視されるようになり、アメリカ空軍は最新かつ高性能なF-35「ライトニングII」や無人機(ドローン)といった新しい装備に予算と人員を投入するために、A-10の退役を進めることを決めています。
A-10の前で米空軍のパイロット(右端)から説明を受けるベトナム軍人たち(布留川 司撮影)。
A-10は地上攻撃において優れた能力を持つ機体ですが、逆に地上からの反撃には意外と脆弱です。一番の理由はこの機体が中高度以下の高度で活動する低速機である点で、現在の発達した地対空ミサイルや対空火器の前では、撃墜される可能性が極めて高いのです。
2007年以降にA-10が活躍した中東地域での対テロ戦争では、敵が防空システムを構築できない武装勢力だったため、戦闘では上空から一方的な攻撃が可能でした。しかし、現在脅威となっているロシアや中国のような近代的な正規軍と対峙した場合、これらの軍が保有する防空システムの前で、はA-10が撃墜されずに任務を行うのは難しいでしょう。
実際、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻では、低空を飛ぶ攻撃機や攻撃ヘリコプターは、ロシアとウクライナ、双方の両陣営とも多くの損害を出しており、A-10も同じような戦場に投入されれば、似た運命をたどるのは明白です。
アメリカ空軍では2029年までに全てのA-10を退役させる計画です。A-10はアメリカ空軍で唯一の対地攻撃機であるため、その支援を受けられるアメリカ陸軍やアメリカ海兵隊からは信頼を寄せられていますが、政治的な判断や防衛環境の大きな変化がなければ、今後4年ほどで、この特徴的な機体が姿を消すのは間違いないでしょう。
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