マンU、ラッシュフォードに何があったのか。その姿はまるでC・ロナウド…悩める新星が覚醒するまで
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マンチェスター・ユナイテッドは16節、マンチェスター・シティと対戦するマンチェスター・ダービーで見事2-1と勝利。敵地での一戦ながら見ごと勝ち点3を手に入れた。その試合で鍵を握ったのが、ユナイテッドで10番を背負うマーカス・ラッシュフォードである。伸び悩んでいる印象が強かったラッシュフォードの身に何が起こったのか。(文:内藤秀明)
これまでのラッシュフォード
マンチェスター・ユナイテッドは16節、マンチェスター・シティと対戦するマンチェスター・ダービーで見事2-1と勝利。敵地での一戦ながら見ごと勝ち点3を手に入れた。その試合で鍵を握ったのが、ユナイテッドで10番を背負うマーカス・ラッシュフォードである。伸び悩んでいる印象が強かったラッシュフォードの身に何が起こったのか。(文:内藤秀明)
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昨年までのラッシュフォードは、やや伸び悩んでいる印象だった。
改めてキャリア序盤から振り返ると、トップチームデビューとなった2016年2月のヨーロッパリーグ・ミッティラン戦で、アカデミー上りの新鋭は2ゴールを決めて5-1での勝利に貢献。続くプレミア初出場となったアーセナル戦でも2ゴールを決めて、3-2での勝利の立役者になるなど、センセーショナルなデビューを飾った。
当時18歳だったイングリッシュの若きストライカーは、圧倒的なスピードと、右足から放たれる強烈なキックなどを持っており、この時点で他のトップレベルの選手たちと変わらないクオリティがあることを2試合で証明した。
それから3年が経過し、ラッシュフォードは順調に成長したと思いきや、そこから大きくプレーの幅が広がることはなかった。左サイドからのカットインやスピードを生かした裏抜け以外の得意なプレーを増やすことができず、オフ・ザ・ボールの局面ではボックス内でも棒立ちになることがしばしば。しかも右足でしかシュートを打てないため、相手にプレーを読まれることが多く、明らかに大きな才能を持て余していた。
結果、デビューした2015/16シーズンは11試合で5得点決めるものの、2016/17シーズンは32試合出場して同じく5得点。2017/18シーズンも35試合出場するものの、7得点のみ。リーグ戦で二桁得点に届くことなく、月日は流れていった。
転機となったのは、2018年の年末にオーレ・グンナー・スールシャールが監督になったことだろうか。モウリーニョ政権下では出場した試合のうちのおよそ半数が途中出場だったが、OB監督は就任を機に絶対的なレギュラーとして固定。練習でも居残りで監督と共にシュート練習を行うなど努力を重ねると、ワントップの位置で33試合に出場して10得点。ようやく二桁得点を記録した。
シーズン終盤はコンディション不良で、得点ペースを落としたが明らかに成長が加速したシーズンとなった。
爆発した2019/20シーズン
そして迎えた今シーズン、ラッシュフォードの加速は止まらなかった。オフ・ザ・ボールの動きやポストプレーの動きが苦手なこともあり、ワントップのではなく左ウイングに固定。より自身のスピードを生かせるポジションに主戦場を生かすと、コンディションの良さもあり、カウンターを中心に得点を重ねる。
またコンディションの良さはFKにも現れた。10月に行われたカラバオ・カップのチェルシー戦では、30m以上距離のある位置から、空中で2度軌道が変わるスーパーなゴールを決めて見せた。強いキックが売りの選手は、心身のコンディションの状態がFKの精度に反映されることが多い。イングリッシュ代表FWの状態の良さを感じるFKになった。
季節は秋から冬に移り変わり、ラッシュフォードの調子は維持するどころか、もう一段階上のレベルに上がる。特に際立ったパフォーマンスを披露したのは、12月初旬のリーグ戦2試合だろうか。
まずは12月5日に行われたプレミアリーグ15節トッテナム戦では、幾度となくゴールに迫り、最終的には2点をゲット。特に49分に決まった2点目のPKの起点となったドリブルの仕掛けは圧巻だった。対面するSBセルジ・オーリエをまた抜きでかわしてボックス内に侵入すると、カバーリングに追走するムサ・シソコの前に入ることで足を引っかけられてPKゲット。独力でチャンスを手にすると、そのPKを冷静に沈めて決勝点を決めた。
翌節16節のマンチェスター・ダービーでも圧倒的なパフォーマンスだった。スピードを生かした突破でゴールに迫り23分にPKをゲット。この試合でもPKを冷静に決めて大きな先制点をゲットした。このゴールも、ボックス内での急速な方向転換がPKを誘発しており、実にラッシュフォードらしいプレーだった。
この大一番の2連戦、チーム全体が素晴らしいパフォーマンスだったのは間違いないが、それでもラッシュフォードの個の力のおかげで勝ち切れたという印象が非常に強かった。その頼もしさに、かつてのクリスティアーノ・ロナウドを重ねたファンも多かったという。
気づけばリーグ戦16試合で10ゴール。二桁得点をシーズン半ばで達成した。
課題は大きく変わらず
ここまでラッシュフォードが変わったという論調で書いてきたが、自身の課題を完全に解決したかというとそういうわけでもない。これまでと比べて左足でシュートを狙うシーンは増えており、アントニー・マルシャルやジェシー・リンガードなど、特定の選手限定ではあるがスムーズなパスワークを見せることも増えてきた。
ただし背負った状態でのプレーやオフ・ザ・ボールの動きが苦手な部分は変わっていない。つまりここまでの成長は課題の克服というより、持っている武器をさらに磨いたことで実現したという印象だ。
もちろん欠点をなくすより、武器を磨くことで、選手として高いレベルを目指す選択肢もあるはず。ただし今のままでは、昨季でいうポール・ポグバ、今季でいうスコット・マクトミネイなど、中盤でキープしてタメを作り、ラッシュフォードがフリーになる局面を作ってくれる選手がいるからこそ輝けるという側面を忘れてはならない。彼らがいない時に消えてしまう現状をどうしていくのか。
ただ長所を伸ばすか、短所をなくすか。その選択は個々の資質によりけりである。ラッシュフォードに関しては、ここまで短所を克服することができず、その方向の努力が難しいのであれば、長所を伸ばす方向に振り切るのも悪くない。
ただその場合は、せめてスピードやキックなどの長所が常に輝く状態に、つまるところ、コンディション調整にだけは細心の注意を払いたいところである。22歳のスピードスターが今後どのような成長曲線を見せるのか、楽しみでならない。
(文:内藤秀明)
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