「お、いいきっぷが出たな」 昭和の青春18きっぷ&周遊券“使い倒し旅”のリアル 私はこうして“ビンボー乗り鉄”にハマった
- 乗りものニュース |

国鉄時代に登場した「周遊券」と「青春18きっぷ」は、若者たちの旅のスタイルを一変させました。1980年代に青春時代を過ごした“昭和ジジイ”の筆者が、かつての旅を振り返ります。
「青春18きっぷ」前夜の貧乏鉄道旅のリアル
「青春18きっぷ」の前身「青春18のびのびきっぷ」が発売されたのは、1982年3月1日。当時中学3年生だった筆者(杉山淳一:鉄道ライター)は、高校の合格発表の時期だったので、乗り鉄に行く気分ではなかったものの、その新聞記事を見ただけで「いいきっぷが出たな」と思ったことを覚えています。なぜなら当時は、フリーきっぷがほとんどなかったからです。
165系電車の臨時大垣夜行(画像:PIXTA)
小学生のときに東急電鉄の全線を乗り潰した頃は、東急電鉄にフリーきっぷがなく、乗車のたびにきっぷを買っていました。その後、次は首都圏の国電区間を全部乗ろうと思い立ちます。国電区間とは、当時の国鉄線のうち、首都圏と大阪圏の主に通勤電車が走る区間を指し、首都圏では山手線、京浜東北線、中央線快速、中央・総武線各駅停車、常磐線などが該当します。しかし、当時は東京で買えるフリーきっぷはありません。
そんなときに『種村直樹の鉄道旅行術』という本で「ワイド周遊券」と「ミニ周遊券」の存在を知り、時刻表で探すと「東京ミニ周遊券」を見つけました。
「周遊券」は、出発地から自由周遊区間までの往復乗車券と、自由周遊区間内が乗り放題となるきっぷをセットにした商品です。自由周遊区間外からの旅行者向けのきっぷなので、区間内の駅では販売されていません。
東京ミニ周遊券も都内での取り扱いはなく、東京から最も近い出発地として静岡駅が指定されていました。そこで、当時小学6年だった筆者は「東京都区内→静岡」の片道きっぷで移動し、静岡で東京ミニ周遊券を購入しました。この周遊券は出発地から自由周遊区間の往復で急行列車の自由席に乗れたので、急行「東海」で都内に戻り、有効期間7日間のうちの1日目はここで終わり。翌日から6日間で、券面の略地図が示す自由周遊区間の路線を制覇する旅に出かけました。
「東北ワイド周遊券」で今はなき鉄道へ
中学になると親に遠出を許されました。しかし、「東京ミニ周遊券」の範囲外を扱うフリーきっぷがありません。そこで「都区内~東海道線~御殿場線~身延線~中央本線」の一筆書ききっぷの旅や、友達を誘って「小湊鐵道~国鉄木原線(現・いすみ鉄道いすみ線)」を乗り継ぐ房総半島横断の旅に出かけたものです。もしも当時「青春18のびのびきっぷ」があれば、もっと安く旅ができたでしょう。だから「青春18のびのびきっぷ」が発売されたときは、行動範囲が広がると喜びました。
しかし、高校入学前の春休みには、「青春18のびのびきっぷ」ではなく「東北ワイド周遊券」を使いました。理由は「急いでいたから」。1980年に成立した国鉄再建法により、赤字ローカル線がいくつも廃止対象となり、「なくなる前に乗らなくちゃ!」と思ったのです。ワイド周遊券なら自由周遊区間内の急行と特急の自由席も乗り放題でした。「青春18のびのびきっぷ」を使い、普通列車でのんびり移動している場合ではありません。
「東北ワイド周遊券」の有効期間は10日間。この旅で初めて泊まりがけのひとり旅を許されました。このとき、旅行会社に勤めていた父の知人が旅館やホテルのクーポンを手配してくれました。中学を卒業したばかりの子どもですから、ホテルの予約ができないだろうという配慮だったのでしょう。大手旅行会社のクーポンだったおかげで、どこでも大人と同じ丁寧な対応でうれしかったものです。
東北の旅では、国鉄の21路線に乗りました。赤谷線、魚沼線、大畑線、黒石線、日中線など、現在廃止されている路線も含まれます。このほか十和田観光電鉄、南部縦貫鉄道、津軽鉄道にも乗りました。十和田観光電鉄では、子ども頃によく乗っていた東急3000系(初代)の中古車と“再会”し、懐かしい気持ちになりました。
北海道&九州は「ワイド周遊券」がテッパン!
やがて高校の長期休みになると、「北海道ワイド周遊券」や「九州ワイド周遊券」で旅に出ました。北海道、九州とも東京からだとかなり遠方ですが、この2つの地域を選んだのは、自由周遊区間内で完結する夜行列車があったからです。夜行列車で車中泊すればホテルや旅館の費用が要らないわけです。
当時、北海道内は札幌を中心に、4方面に夜行列車が出ていました。稚内方面は急行「利尻」、網走方面は急行「大雪」5号・6号、釧路方面は急行「まりも」3号・4号、函館方面は普通列車の41レ・48レです。どの列車も21時台前後に発車して、翌朝6時台前後に到着します。急行はすべて三段式B寝台を連結し、“走るホテル”というより“走る簡易宿泊施設”でした。自由席は「利尻」が3両、「大雪」「まりも」は2両でした。
周遊券さえあれば、夜に札幌周辺から列車に乗り、翌日は道北や道東、道南のローカル線を巡る旅を続けられました。急行の自由席は14系客車で、体を起こすだけで元の位置に戻ってしまう簡易リクライニングシートでしたが、乗り心地はまずまず。空いていれば向かい合わせにして足を伸ばせました。
釧路行き急行「まりも」から見た日の出は、素晴しい景色でした。根室本線の厚内を過ぎて、太平洋岸に出た頃です。水平線の向こう、薄明かりの空に強い光が現れ、「日の出か」と思うとそれは金星でした。その後、まるで金星を追いかけるように大きな太陽が昇りました。今でも鮮明に覚えています。
稚内行き急行「利尻」で思い出すのは、美深駅で見た光景です。真夜中の2時37分に美深駅に着き、7時5分発の美幸線の始発列車を待ちました。駅舎の外は濃霧に包まれており、扉を開けても足もとが見えないほど。幻想的というか、世界から隔離されたような寂しさ。駅の灯りも消えていて、4時間半もの間待合室の飲料自販機の灯りの下で星新一の全集を読んでいました。明るくなってから外に出ると、霧の向こうに駅前広場が現れました。
夜行列車でサプライズプレゼント!?
「九州ワイド周遊券」での旅も夜行列車を宿代わりにしましたが、車内で2晩を過ごしたらビジネスホテルに1泊するペースに変えました。というのも、北海道での車内7連泊では、後半は眠くて景色の記憶が残らなかったからです。
北海道では、眠いまま予定の乗り継ぎをこなしていくだけの旅になっていました。九州の旅では3日に1度はホテルに泊まり、シャワーを浴びてしっかり眠りました。
当時、九州では門司港駅を発着する夜行列車がありました。門司港~西鹿児島(現・鹿児島中央)間は鹿児島本線経由の急行「かいもん」、日豊本線経由の急行「日南」、門司港~長崎・佐世保間は普通列車「ながさき」です。
私の常宿は「かいもん」と「日南」で、北九州の列車に乗ったと思えば、翌日は南九州の列車を楽しみました。客車は12系。四角いボックスシートでなんとか寝そべりました。「ながさき」には乗りませんでした。博多から特急で日帰りできたからかもしれません。
門司港行きの急行「日南」には強烈な思い出があります。西鹿児島~宮崎間では普通列車として運行していたため、始発の西鹿児島から乗ると、帰宅する通勤客で混雑していました。ボックス席を独り占めできず、向かいの席には酔っ払ったおじさんが座りました。しばらくすると、そのおじさんが大声で私に話しかけました。
「おいっ、少年!」
私は「はいっ」と返事をしつつも、松本零士の『男おいどん』みたいな呼び方だな、と思っていました。すると酔ったおじさんは、「君も飲まんか」と緑色の瓶を差し出します。
「いや、僕はまだ飲めないので……」と断っても「そんなことでどうするッ、いいか、私は次の都城で降りるッ。だからこれはおまえにやろう」と言い、私に瓶を握らせて降りてしまいました。
瓶には霧島と書いてありました。フタを開けると強烈な匂い。芋焼酎でした。好奇心で舐めてみましたが、そのままでは強すぎて飲めないし、コーラで割ってもオレンジジュースで割っても匂いが抜けません。大人になってからまた試そうと、自宅まで持ち帰りました。
今思えば、あのおじさん、酒を持って家に帰れなかったのでしょう。きっと奥さんに怒られます。あれだけ酔っていたらどっちにしても怒られそうですが。
「青春18きっぷ」デビューは友人とのシェア
「青春18きっぷ」での最初の旅は、1983年9月3日です。高校の同級生に誘われて、日帰りで日光線と烏山線に乗りました。このときの「青春18きっぷ」の利用期間は9月10日まで。当時は冊子タイプの5枚つづりだったので、同級生が余った2枚を筆者と使おうと思ったのでしょう。
当時は東京~宇都宮間の片道普通運賃が1500円、往復で3000円。「青春18きっぷ」は1万円なので、1日あたり2000円はおトクでした。日光線と烏山線は「日光・那須ミニ周遊券」のエリアですが、東京発の設定はなかったのかもしれません。「青春18きっぷ」では特急や急行に乗れませんが、周遊券対象外の線区も乗り降り自由なのが魅力でした。
1984年春の「青春18きっぷ」で、この同級生と大阪方面へ遠征しました。今度は2人とも「青春18きっぷ」を1冊ずつ買って、4泊5日の大遠征でした。「京阪神ミニ周遊券」もありましたが、大人1万3500円で、「青春18きっぷ」より少し高かったのです。周遊券のエリア内で特急や急行に乗ることもないですし、周遊エリア外の路線にも乗りたかったので、「青春18きっぷ」のほうが良かったのです。
夜行快速は「青春18きっぷ」の“最強パートナー”
この旅で初めて、「青春18きっぷ」の「1回分は丸1日(0~24時)有効」というルールを踏まえた長旅を実践しました。東京発大垣行きの普通列車、通称「大垣夜行」だと、東京駅23時25分発で、0時を過ぎて最初に停車するのが平塚駅(0時5分発)でした。つまり、東京から平塚まで870円のきっぷを買っておいて、平塚駅から「青春18きっぷ」を使えば、その後24時間にわたって使えるわけです。
大垣着は6時57分。乗り継ぎ列車は西明石行きで、7時15分発でした。当時は乗り継ぎを急ぐ「大垣ダッシュ」は見られず、のんびりしていたと思います。
この旅では鍛冶屋線、高砂線、三木線、倉吉線など20線区以上も乗り潰しました。でもとくに印象が強かったのは、高校野球春季大会(春の甲子園)の観戦でした。当初は予定になかったものの、前日の夜のニュースで東京代表の岩倉高校が決勝に進出すると知り、急遽駆けつけたのです。鉄道マンを養成する学校ですから、鉄道ファンとしては応援しなければなりません。
対戦相手はPL学園で、ピッチャーが桑田真澄、4番打者が清原和博でした。のちの大スターがいたチームが相手でしたが、なんと岩倉高校が優勝しました。PL学園の応援団が名物の人文字で「岩倉おめでとう」と掲げ、それを見てPL学園の矜持を感じ、応援に来て良かったと思いました。こうした臨機応変の予定変更も、「青春18きっぷ」や周遊券ならではのことです。
夜行普通列車は長距離普通列車の名残で、主に登山者や日帰りスキーヤーが利用していたと思います。「青春18きっぷ」と夜行普通列車の相性はとても良く、大垣夜行は後に「ムーンライトながら」として乗り鉄に愛されます。ほかに新宿発新潟行きの「ムーンライトえちご」、新宿発白馬行きの「ムーンライト信州」もよく乗りました。いずれも現在は運行を終了しており、もう乗ることはできません。
「青春18きっぷ」に続く新しいきっぷを
長野県の大学に進学すると、鉄道よりもクルマと峠ドライブに興味が移りました。さらに東京で就職して数年間は仕事がおもしろくて、「青春18きっぷ」の旅から遠ざかります。その間、国鉄はJRに変わり、周遊券も「周遊きっぷ」に名前を変えます。
しばらくして乗り鉄を再開しても、「青春18きっぷ」を使う機会は以前より減りました。フリーきっぷの種類が増えたからです。
例えばJR四国ではバリーエーション豊かなフリーきっぷを取りそろえ、うれしいことに特急指定席やグリーン車に乗れるタイプもありました。「北陸フリーきっぷ」(2006~2013年)やJR九州の「HAPPY BIRTHDAY♪KYUSHU PASS」(2015年)など魅力的な企画もありましたが、今は販売されていません。近年はフリーきっぷの見直しが進んで整理されつつあるようです。そうなると、全国の駅で乗り降り自由な「青春18きっぷ」の存在は、ますます貴重になるでしょう。
年齢を重ねるうちに、「青春18きっぷ」の使い方も変わりました。遠くを目指す旅から、フリーきっぷが設定されていないエリアを目指す際に使い、飛行機や新幹線の利用を組み込んだ旅も増えました。例えばLCC(格安航空会社)で新千歳へ飛び、滝川から釧路まで、日本一運行時間が長い普通列車「2429D」(現在は廃止)に乗り、釧路からLCCで帰る旅です。各駅停車の列車旅が目的ですから、「青春18きっぷ」がピッタリです。
「青春18きっぷ」は、「夏休みの学生のように、お金はなくても時間はたっぷりある」人に最適なきっぷです。大人になると学生時代より金銭的な余裕があっても、長旅をする時間がとれず、「青春18きっぷ」やかつての周遊券があっても、高校生の頃のような旅はできなくなります。
とはいえ、乗り鉄をやめたわけではありません。例えばJR東日本の「旅せよ平日!JR東日本たびキュン早割パス」(通称・キュンパス)は、とても魅力的です。平日限定ながらJR東日本管内乗り放題で、新幹線を含む特急列車も利用でき(回数制限あり)、「特に行きたいところはないけれど、列車で旅をしたい」と思ったときに最適です。このきっぷが旅のきっかけになることもありました。
今の若い人には、ぜひ「青春18きっぷ」で旅をしてほしいと願う一方で、昭和のオジサンにはあの頃の旅は難しくなりました。「青春18きっぷ」を卒業した世代に向けた、新しいきっぷがあったらいいな、としみじみ思っています。
実は損している?
ニュースを読んでポイントが貯まるサービスがあるのを知っていますか?ポイントサイトのECナビでは好きなニュースを読んでポイントを貯めることができるのです。(※ECナビはPeXの姉妹サイトです。)今日読んだニュースが実はお小遣いになるとしたら、ちょっと嬉しいですよね。
ポイントの貯め方はニュースを読む以外にも、アンケート回答や日々のネットショッピングなど多数あるので、好きな貯め方でOK!無料で登録できてすぐに利用できます。貯まったポイントはPeXを通じて現金やAmazonギフトカードなどに交換できます。
運営実績も15年以上!700万人以上の方がポイントを貯めています。毎日好きなニュースを読んでお小遣いを貯めてみませんか?
簡単無料登録はこちらYOUの気持ち聞かせてよ!
いいね | ![]() |
|
---|---|---|
ムカムカ | ![]() |
|
悲しい | ![]() |
|
ふ〜ん | ![]() |
