もっと、自分の人生を大切にしたい。山田裕貴が極限状態の撮影で得た“新たな人生観”【映画『木の上の軍隊』インタビュー】
- マイナビウーマン |

取材・文:瑞姫
撮影:クロカワリュート
編集:錦織絵梨奈/マイナビウーマン編集部
ヘアメイク:小林純子
スタイリスト:森田晃嘉
太平洋戦争末期、伊江島の空と大地を焦がした凄惨な戦火の中、二人の兵士が恐怖と飢えに耐え忍びながら生死の狭間で身を潜めたのは、一本のガジュマルの木の上だった。映画『木の上の軍隊』は日本の敗戦を知らぬまま、二年もの間“任務”を続けた、実在した日本兵の衝撃の証言をもとに制作された物語だ。
山田裕貴さんが演じたのは、島から出たことがない、どこか呑気な若き新兵・安慶名セイジュン。スクリーンから伝わる彼の純粋かつ強く折れない眼差しの奥には、言葉にならない想いを背負い、山田さん自身が役と向き合い、生き抜いた日々がある。
「今日、デートの約束があったのに……で、死ぬわけですよ。どんなに願っても、戦争は始まる時に勝手に始まってしまう。それは、今を生きる現代の人たちも同じなんじゃないかと思います」
そう語る山田さんは現代を生きる私たちに伝えたいことを、一つひとつ言葉を選びながら力強くも丁寧に語ってくれた。
■“生き抜くこと”を描いた作品
「この作品は戦争映画なんですけど、それよりも二人の男の人が“どうにか生き抜こう”と思った話だということの方が、僕にとってはすごく大きかった」
そう語る山田さんの言葉からは、この物語が単なる“戦争の記録”ではなく、“命の物語”として胸に響いていたことが伝わってくる。月並みな言葉では語ることのできない、想像を絶する恐怖と極限状態での飢えの中でも、自我を持って“生き抜くこと”とはどういうことかを訴える作品だ。
「安慶名と山下上官のモデルとなった佐次田さんと山口さんの書き残したメッセージから、木の上で過ごした二年間がどんなものだったかを読んだ時に、“戦争だから”じゃなくて、“とにかく生き抜かなきゃって思っていた”そこが大事だなと思ったんです。二年という年月を描く撮影期間の一カ月間を、どう感じて、どう生きていくかを本当に考えていました」
台本を読むだけでは、意味がない。堤さんや平監督と会話してみて初めて感じることがあると挑んだ現場では、ほぼ干し芋、納豆、豆腐だけを口にしながら、一カ月におよぶ撮影を生き抜いた。
それは役作りという言葉では表現しきれない、まさに“安慶名”を生きること。実際に山田さんは、朝から晩まで続いた木の上での撮影によって「帰りたいのか、帰りたくないのか、分からなくなる」と語るほど、感覚が麻痺していったという。
「虫、大嫌いなんです。でも、虫が止まってても気にならない。本物のウジムシを食べた時も、“嘘をつきたくない”という気持ちが勝った」その言葉には、二人の兵士が残した記録を、命を懸けて真摯に受け取り、現代に語り継ごうとする覚悟が宿っていた。
撮影を終えた山田さんは、自宅に戻った瞬間を「家のドアを開けて、家だ、この部屋だ。あぁ……となったまま、放心状態でした。“帰ってこれたんだ”と。安慶名が抜けてないのか、僕がそうなったのか、不思議な感覚でした」と振り返る。その様子に、どこか安慶名の面影を重ねてしまう。それほどまでに、役と自身の境界が溶け合った一カ月間だったことが、痛いほどに感じられた。
■「今が平和だとも思ってない」
太平洋戦争終結から80年が経った今、語り継ぐべき事実に基づいたこの作品は、「無慈悲すぎる」と語る一方で、「今が平和だとも思っていない」とこぼした山田さんの言葉によって、さらにリアリティを増す。
「どんなに願っても、戦争は始まる時に勝手に始まってしまう。それは、誰かの思いや予定なんて関係なく、人の命が奪われる。今の日本に、それを止めるほどの団結力があるとも思えないし、もはや人類そのものの問題だと、僕は思っています。世界が平和になることを心から願っているけれど、それは今の世界では難しい」
戦争は今も昔も何か特別な場所で起きるものでなく、日常の延長線上に唐突に現れる。だからこそ、誰にとっても他人事ではなく、過去のことではない。そんな当たり前のことを、私たちはいとも簡単に忘れてしまう。安慶名を演じぬいた、今の彼が訴える言葉が重く響く。
「今の社会も、ちょっとしたことで人を攻撃し合い、ネット上では言葉の戦争が日常的に起きている。誰かを守るより、自分を守ることで精一杯。『木の上の軍隊』と同じで、銃がなくても言葉で人を傷つける“小さな戦争”が今、あちこちで起きている中、“とにかく生きる”ってことだけ。そんな社会を、僕は平和とは思えません」
■置き去りにした本音に目を向ける
また、インタビュー中に山田さんがふとこぼした「安慶名が“海が見たい”と言ったんですけど、同じ感覚になった」という一言に、この作品が彼に与えた深い影響がにじむ。
「もっと、自分の時間を大切にして、自分の人生を生きたいなと思いました。あの映画観たいなとか、今度ここ行きたいなとかっていう、自分の感情をいつも蔑ろにしてきたんです。“仕事だから、どうせ行けないし”って……。でも、やりたいと思えることを、ちゃんとやっていきたい。本当に、心の底から思いました」
同じように、小さな本音を飲み込んだ経験はきっと誰にでもあるだろう。「今じゃなくていいや」「また今度にしよう」そうやって日々の忙しさの中で、自分の感情や本音を置き去りにすることに、私たちは多分どこか慣れてしまっている。
だからこそ、戦争を“過去の出来事”として片づけるのではなく、“生きる私たち”にとっての問題として捉えた山田さんの言葉は、平和な時代を生きていると驕っていた私たちの胸に痛いほどに響いた。
◇Information
映画『木の上の軍隊』
終戦に気づかないまま二年間も木の上で生き抜いた二人の日本兵の実話に着想を得た井上ひさし原案の同名舞台劇を、堤真一と山田裕貴の主演で映画化。太平洋戦争末期、戦況が悪化の一途を辿る1945年。沖縄県伊江島に米軍が侵攻し壊滅的な状況になった島で宮崎から派兵された少尉・山下一雄(堤 真一)と沖縄出身の新兵・安慶名セイジュン(山田裕貴)は、敵の銃撃に追い詰められ、大きなガジュマルの木の上に身を潜めるーー。太平洋戦争終戦から80年、今を生きるすべての人に語り継ぎたい物語。
2025年7月25日(金)全国ロードショー
監督・脚本:平 一紘
原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案井上ひさし)
プロデューサー:横澤匡広 小西啓介 井上麻矢 大城賢吾
企画製作プロダクション:エコーズ
企画協力:こまつ座
制作プロダクション:キリシマ一九四五 PROJECT9
後援:沖縄県
特別協力:伊江村
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2025「木の上の軍隊」製作委員会
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