「異形の激レアエアバス輸送機」今後飛ぶ? 新事業展開も運航会社が”終了”…なら日本じゃ見納め? 幹部に聞く
- 乗りものニュース |

胴体上部が大きく膨らんだルックスが特徴のエアバス産貨物機「ベルーガST」を用いて貨物輸送を手掛ける「エアバス・ベルーガ・トランスポート」が、2025年はじめに事業を終了しました。このことで「ベルーガST」は役目を終えることになってしまうのでしょうか。
後発機の出現で「他社さんの貨物運びますよ」事業もとん挫
ヨーロッパの航空機メーカー、エアバス系列の航空会社で、胴体上部が大きく膨らんだルックスが特徴のエアバス産貨物機「ベルーガST」を用いて貨物輸送を手掛ける「エアバス・ベルーガ・トランスポート」が、2025年はじめに事業を終了したと海外メディアが報じました。このことで「ベルーガST」は役目を終えることになってしまうのでしょうか。
神戸空港に飛来した「ベルーガST」(乗りものニュース編集部撮影)。
今回その件について、エアバスで国際戦略担当エグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるヴァウター・ファン・ヴェルシュ氏に話を聞くことができました。
この事業を担っていたベルーガSTはエアバス製旅客機「A300-600」をベースとし、エアバス製航空機のパーツを輸送する目的で作られた貨物機です。特徴的なルックスは、翼などの長尺の荷物を運ぶため。最大で幅7.1m、高さ6.7mの大型貨物を積載できます。「ベルーガ」は「シロイルカ」の意味で、このユニークな外観が由来です。製造されたのは5機のみで、世界的にもレア機のひとつです。
一方ベルーガSTは、後継機「ベルーガXL」の導入にともなって、当初の製造理由である航空機用パーツ輸送の業務から退役しました。そこで、エアバスは役目を終えたベルーガSTを、社外の顧客へむけた大型貨物の空輸サービスの担当機として活かす取り組みを開始。これを行う航空会社が「エアバス・ベルーガ・トランスポート」です。同社は2022年にサービス開始し、2024年1月に、独自の航空運航証明書(AOC)を持つ専用航空会社になったばかりでした。
そしてこの最初のミッションとして事業開始の公式発表前に実施されたのが、2021年12月の神戸空港への飛来です。これはエアバス製ヘリコプターを神戸空港内にある「エアバス・ヘリコプターズ」格納庫まで輸送するために実施。そして、事業開始の公式アナウンスがあった後も、海上保安庁などの国内顧客へむけ「エアバス・ベルーガ・トランスポート」が神戸空港内にある同施設へのヘリコプター輸送を何度か担当しています。
さらに2024年には、海上保安庁がエアバスグループ製ヘリコプターであるH225「スーパーピューマ」を3機追加発注したと発表しました。この機は「エアバス・ベルーガ・トランスポート」の立ち上げ以降、同社の手により、日本に運ばれてきた機体です。同社の事業終了は、これらの顧客納入待ちとなっている「スーパーピューマ」を含む、日本むけの航空機の輸送にも影響を及ぼす可能性も捨てきれません。
「元祖ベルーガ」使うの?使わないの?
また「エアバス・ベルーガ・トランスポート」の立ち上げは、当時、設計上ベルーガSTがまだまだ十分に飛行を続けられる余裕があったというのも理由です。同型機は機齢こそ25年以上経過している機もあるものの、離陸回数に相当する「総サイクル数」は、立ち上げ時点においては設計限度である3万回の半数程度の約1万5000回に留まっていたのです。
エアバスのヴァウター・ファン・ヴェルシュ氏(乗りものニュース編集部撮影)。
ヴェルシュ氏は「エアバス・ベルーガ・トランスポート」の事業終了を認めたうえで、筆者の質問に対し「海上保安庁をはじめ日本のクライアントへの納入に関しては心配しないでください」と話します。さらにベルーガSTは運航会社の事業終了によって、退役する可能性がないことも示唆しています。
「ベルーガSTはこれからもエアバスグループ内でこの能力を活用していきます。もともとは外部のクライアントむけにセットアップしたわけですが、需要を考えて、それではあまり意味がないということで事業を停止しました。しかし私達にとっては(ベルーガST)は重要なアセット(資産)です」
さらに同氏は続けます。
「今後は、たとえばグループ内のヘリコプターの輸送などにベルーガSTを使っていく予定です。一方で他社にその事業を他社に販売する、貸し出すということは考えていません。100%グループ内でベルーガSTを活用するということです」
エアバスグループは、主幹事業である旅客機以外にも、ヘリコプター、軍需産業、さらには宇宙産業も手掛ける世界的な総合航空機メーカーです。そうしたことから先述の「スーパーピューマ」輸送をはじめ、グループ内だけでベルーガSTが活躍できる場も多く存在します。
これは運航会社である「エアバス・ベルーガ・トランスポート」の終了が、そのままこの機の“お役御免”にはつながらないこと、そして、まだまだベルーガSTが日本でお目にかかれる可能性が多く残されていることを示している――といえるかもしれません。
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