元祖は戦車ぽくなかった自走砲 足まわりの変遷 原点回帰する「大砲を楽に動かす努力」
- 乗りものニュース |
陸上自衛隊の19式装輪自走りゅう弾砲は、大型トラックの荷台に砲を積んだ外見のいわゆる「自走砲」です。自走砲といえば戦車のような外見のものが主流かと思いきや、その元祖は、実は19式と同じタイヤで走る装輪タイプでした。
自走砲 陸自の最新型は「トラック積み」
2012(平成24)年度予算の概算要求に「火力戦闘車」という、聞きなれない装備が初めて登場しました。言葉だけ見ても何だかよくわかりませんでしたが、2019年8月の富士総合火力演習(総火演)にて、陸上自衛隊特科火力の新装備である「19式装輪自走155mmりゅう弾砲」として初公開されました。大型の8輪トラックに大砲を載せた外見は、装軌式(いわゆるキャタピラ)の自走砲を見慣れた目には違和感を覚えました。
富士総合火力演習に参加した陸上自衛隊の19式装輪自走155mmりゅう弾砲(2020年5月23日、月刊PANZER編集部撮影)。
しかし、このトラック自走砲は古くて新しく、現在ポピュラーになっている兵器です。多くの国で製造されており、今年(2021年)の1月にもチェコのEXCALIBUR ARMY(エクスカリバー・アーミー)が、最新自走砲として8×8装輪式の155mm自走榴弾砲「ディータ(DITA)」を発表しています。「古くて」と書きましたが、トラック自走砲の先祖はなんと18世紀まで遡ります。
大砲は戦場で重要な役割を果たしますが大きく重く、かつては馬や牛などの畜力で引っ張っており、そして動かすには何頭も必要で取扱いは非常に大変でした。1769年にフランスのニコラ=ジョゼフ・キュニョーが発明した、世界最初の自動車に認定されている蒸気自動車は、大砲を馬以外の方法で運べるようにすることが目的のものでした。
キュニョーが1769年に発明した蒸気自動車。世界最初の自動車に認定されており、また自走砲のルーツでもある(画像:Public domain、via Wikimedia Commons)。
残されているキュニョーの蒸気自動車の絵では、前部にボイラーや蒸気エンジンが集中してフロントヘビーでアンバランスに見えますが、後部の荷台には大砲を載せることを想定し積載量5tとして設計されていますので、バランスは取れるようでした。大砲を載せた絵は残っていないようです。ちなみに2台製作されたうちの2号車が、試運転で世界最初の自動車事故を起こしたことも知られています。18世紀では先進的過ぎて軍や政府に理解者が少なく、フランス革命の混乱もあったためか、その後、開発は進展しませんでした。しかしこれが自動車、また自走砲のルーツといえます。
自走砲がどんどん戦車ぽくなっていった経緯
18世紀当時は、大砲をいかに上手く使うかが戦場の勝敗を決することも多く、砲兵将校だったナポレオンは軽量化した大砲を素早く運べる騎馬砲兵を重視し、機動力のある火力として有効に活用しました。ナポレオンがキュニョーの蒸気自動車を認知していたかは分かりません。
陸上自衛隊の主力火砲155mmりゅう弾砲(FH70)。小型エンジンを搭載し短距離なら自走も可能だが自走砲ではない(2020年5月23日、月刊PANZER編集部撮影)。
内燃機関が実用化され本格的に自動車が製造されるようになると、すぐに大砲は自動車に載せられます。しかし、ただトラックに大砲を載せただけでは戦場の荒れた地面を走り回ることはできず、大砲の重さや発射の衝撃に耐えられる充分な車体強度が必要でした。そうして車体は頑丈で重くなり、悪路走破性に優れた装軌式(いわゆるキャタピラ)車体が使われるようになります。大砲を載せた装軌車ということで戦車と見分けにくくなりますが、戦車と自走砲は別物です。
19式装輪自走155mmりゅう弾砲と基本同じ主砲を装備した99式自走りゅう弾砲。19式と比べても戦車然としているが、戦車ではない(2020年5月23日、月刊PANZER編集部撮影)。
装軌式の自走砲は、従来の牽引式砲に比べれば製造も運用もコストが掛かります。第2次世界大戦ではコストを抑えるため、トラックやハーフトラックをベースにした自走砲も製造されましたが簡易急造品扱いでした。
第2次世界大戦でアメリカ軍が使用したハーフトラックベースのT19 105mm自走榴弾砲(画像:アメリカ陸軍)。
冷戦が終結して軍事予算が削減されると、装輪式自走砲が再注目されるようになります。無限軌道(いわゆるキャタピラ)よりタイヤの方が低コストというのは、戦車と装輪戦闘車との関係にも似ています。
現代の「装輪式」自走砲はチェコスロバキアから
戦後の本格的な装輪式自走砲は、1981(昭和56)年から配備が始まったチェコスロバキア(当時)の「ダナ(DANA)」が最初です。国産のタトラ815トラックをベースにしていました。チェコ、スロバキアは昔から工業先進国で、「ダナ」には自国の産業保護育成という側面もありました。
1981年から配備が始まったチェコスロバキアの装輪自走榴弾砲「ダナ」(画像:チェコ国防省)。
その流れをくむチェコのエクスカリバー・アーミーが発表した、最新8×8装輪式の155mm自走榴弾砲「ディータ」は、砲兵のイメージを一新させるものです。陸上自衛隊の主力火砲である155mmりゅう弾砲(FH70)は、移動はトラックで牽引する必要があり、かつ操作人員9名、大砲の据え付け、自己位置標定、弾薬運び、装填など人海戦術の力仕事イメージです。しかし「ディータ」は自走でき、砲員は最低2名、位置評定から信管調整、自動装填、射撃まで完全に自動化されており、防護されたキャビンの中でタッチパネルを操作するだけで射撃できます。日本の19式装輪自走155mmりゅう弾砲も自動化されていますが、砲員は5名、車外に出て砲を操作しなければなりません。
チェコのエクスカリバー・アーミーが発表した最新自走砲8×8装輪式155mm自走榴弾砲「ディータ」(画像:EXCALIBUR ARMY)。
「必要は発明の母」といわれますが、重い大砲を楽して、かつ効果的に扱いたいという自走砲のルーツは意外に古いものです。自動車発明の契機にもなりました。そしていまや最大射程39kmの155mmりゅう弾砲が2名で扱える時代です。ミサイルなど精密誘導兵器やAI、ドローンが注目され、大砲など時代遅れといわれそうですが、新車がなお発表されるということはまだニーズは無くなっていない証左です。
榴弾砲弾着地の様子。地面は掘り返され、砲弾の破片が散らばる。観測機材防護用鉄筋コンクリート製のU字工材もこの通り(2020年10月14日、月刊PANZER編集部撮影)。
時代とともに戦争のやり方が多次元化、複層化していますが、軍事力整備には各種兵器とのバランスが必要です。装輪式自走砲はお金をつぎ込むほどではないが不要でもない、という妥協の産物のようでもあります。
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