力士は大食いでも「糖尿病」にならないって本当? 筋肉量多くても防げない“意外な落とし穴”とは【専門医解説】
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力士は糖尿病になりにくい?(画像はイメージ)
大相撲春場所(三月場所)が3月8日、初日を迎えました。横綱昇進を目指す大関安青錦に注目が集まっており、観戦を楽しみにしている人は多いのではないでしょうか。
ところで、力士は体を作るために食事量が多いことで知られています。SNS上では「あれだけ太っていて糖尿病にならないの?」と驚く声がある一方で、「力士には糖尿病が多い」という正反対の声も見られます。
実際のところ、筋肉量の多い力士は糖尿病になりにくいのでしょうか。力士やスポーツ選手、痩せ体形に悩んでいる人が無理なく体重を増やす方法について、藤保クリニック(東京都新宿区)院長で糖尿病専門医の飯島康弘さんに聞きました。
生活習慣病が重なると糖尿病になりやすい
Q.SNS上では「力士には糖尿病が多い」「力士などが体を大きくしようと無理に大食を繰り返して糖尿病になる例もよく聞く」という声が上がっています。実際に、力士は糖尿病になりやすいのでしょうか。
飯島さん「確かにSNSを見ると『力士には糖尿病が多い』『大食いを続けると糖尿病になる』といった声が見られる一方で、『力士はあれだけ食べても糖尿病にならない』といわれることもあります。
糖尿病専門医の立場から整理すると、現役の力士は稽古による運動量と筋肉量が非常に多く、食後の血糖値が上がりにくい傾向にあります。『現役中は糖尿病になりにくいように見えるが、発症リスクが低いとは限らない』と捉えるのが現実に近いと考えます。
力士には糖尿病に限らず、脂質異常症や高血圧、痛風(高尿酸血症)などの生活習慣病が一定の割合でみられるという報告もあり、これが『糖尿病が多い』といわれる背景だと考えます」
Q.なぜ筋肉量が多いと血糖値が乱れないように見えるのでしょうか。
飯島さん「次の3つの要因が考えられます」
(1)筋肉は、食後の糖の“受け皿”になりやすい
食事をすると血糖が上がるのは自然な反応です。大切なのは「上がった糖が体のどこに取り込まれるか」です。
筋肉は糖を取り込む大きな“置き場”で、筋肉量が多く、日々しっかり使っていると、血糖を下げるホルモンの「インスリン」が効く状態が保たれやすいと考えられます。
一般の人は食後に少しスクワットをするだけで筋肉が「糖の受け皿」になり、糖尿病予防になるでしょう。
(2)稽古の運動量が多く糖の消費も増えやすい
相撲の稽古は強度が高く、全身を使います。一般の生活と比べて体が糖を使う量が増えやすく、同じ量を食べても血糖値が上がりにくい場面が出てきます。
(3)見た目では分からない内臓脂肪のリスク
同じ体重でも、脂肪が皮下脂肪にたまりやすい人もいれば、内臓脂肪や肝臓(脂肪肝)に脂肪がたまりやすい人もいます。
内臓脂肪が増えやすいタイプの人や、脂肪肝になりやすいタイプの人は血糖値が乱れやすい傾向があり、体格だけでは判断しにくい部分です。つまり、筋肉量が多くても、内臓脂肪がたまれば糖尿病の発症リスクは高まります。個人差を説明する考え方として「個人が耐えられる脂肪の量の目安(Personal Fat Threshold)」という概念も提案されています。
Q.それでも「力士に糖尿病が多い」と言われるのはなぜなのでしょうか。
飯島さん「糖尿病は単独で起きるというより、脂肪肝や脂質異常、高血圧、睡眠時無呼吸などと同時に進むことがあるため、複数の要因が重なったときに表面化しやすくなります。先述のように、脂質異常症や高血圧、痛風などの生活習慣病にかかっている力士もいるとされています。
特に注意したいのは、けがや休養、引退などで運動量が減ったときです。運動量が落ちると、同じ食事量でもエネルギーが余りやすくなり、内臓脂肪や脂肪肝が進みやすくなります。こうした変化は時間差で血糖値に表れることがあります」
炭水化物を極端に減らすのはNG
Q.力士やスポーツ選手のように職業柄、体を大きくするために体重を増やさなければならない場合、どのように対処することが多いのでしょうか。また、痩せ体形に悩んでいる人が無理なく体を大きくすることは可能なのでしょうか。
飯島さん「力士や重量級のスポーツ選手の増量は、『ただ食べて体重を増やす』のではなく、競技力を保ちながら体格を大きくすることが目標になります。
体重を急に増やし過ぎると、内臓脂肪や脂肪肝が増えやすくなるなど、将来的な負担につながる可能性があるため、日々の目標を適切に設定しながら進めることが大切です。実際には、次の3つが柱になります」
(1)摂取エネルギーを増やす(量と同時に“質”も意識する)
・食事回数や補食で、必要な総量を確保する
・毎食タンパク質を入れて、筋肉の材料を切らさない
・炭水化物は練習の燃料になるため、極端に減らし過ぎない
脂質は1グラム当たりのエネルギーが大きく、増量には役立つ一方で、取り方によってはカロリーが過剰になりやすい面もあります。
そのため「脂質をゼロにする」ではなく、揚げ物や高脂肪の加工食品に偏らないようにしつつ、量を調整することが現実的です。
(2)トレーニング設計(増えた栄養の行き先を筋肉へ)
・競技練習に加え、筋力トレーニングを組み合わせることが多い
・けがで運動量が落ちたときは、食事量や内容を見直す必要が出やすい
また、けがをしにくいように負荷を調整し、痛めた場合はトレーニング部位のローテーションを行うなど、継続できる形にすることが重要です。
「良質で大きな筋肉を育てること」が、競技力を保ちながら体を大きくする上での基本になります。
(3)睡眠や休養といった回復を増量の一部として扱う
睡眠が乱れると、食欲や回復が崩れ、脂肪ばかりが増える傾向にあります。体作りでは「食べる」「鍛える」と同じくらい「回復する」ことが大切です。
いびきがひどい場合や日中の眠気が強い場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性もあるため、医療機関で相談すると安心です。
なお、体重だけでなく、代謝の状態も一緒に見ることが重要です。増量が必要な人ほど、体重だけでなく、体の中で何が起きているかも定期的に確認しておくと、早めに軌道修正しやすくなります。
【増量中にチェックすべき項目】
・体重:週1回
・腹囲:月1回
・血圧:週1回
・血液検査:3〜6カ月ごと
・空腹時血糖、HbA1c
・肝機能(脂肪肝の目安)
・脂質(中性脂肪など)
・睡眠:いびき・無呼吸・日中の眠気の有無
力士やスポーツ選手、痩せ体形で悩んでいる人など、増量が必要な人ほど、体重だけでなく腹囲や血糖値、肝機能、脂質、睡眠を総合的に見て、早めに調整することが安全につながります。ただ食べるのではなく、自分の体と会話をしながら、安全で持続可能な体作りを目指して頑張ってください。
オトナンサー編集部
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