運転やめると「交通事故」減っても要介護リスク増!? 「免許返納」叫ぶだけでは維持できない高齢者の安全と幸せ
- オトナンサー |

免許返納だけでは高齢者の幸せを維持できない?(画像はイメージ)
2019年に東京都豊島区で、当時87歳の男性が運転する車が暴走して交差点に進入後、歩行者や自転車に乗った人らをはね、計11人が死傷する痛ましい事故が発生しました。この「池袋暴走事故」の発生を契機に、高齢ドライバーによる事故防止を目的として運転免許の自主返納が推進されるようになりました。
しかし実際にどれくらいの人が免許を返納しているのでしょうか。75歳以上の免許返納率は2019年に6.2%でしたが、2020年以降は徐々に減り、2024年は3.6%です。「危ないから返納すべきだ」という声も根強く、行政からの呼び掛けも継続されていますが、免許返納が進んだとは言えません。
一方で、「免許を返納して、車の運転をしなくなると認知症になりやすい」といった調査結果も知られるようになりました。国立長寿医療研究センターの予防老年学研究部は、「運転を中止した高齢者は、運転を継続していた高齢者と比較して、要介護状態になる危険性が約8倍に上昇する」「運転をしていた高齢者は運転をしていなかった高齢者と比較して、認知症のリスクが約4割減少する」という調査結果を発表し、「健康寿命を延ばすには『運転寿命』(運転できる期間)を延ばすことが重要」としています。確かに、車の運転は複雑な作業なので認知機能の維持に効果的ではあるでしょう。
つまり現状、高齢者の自動車事故を防止するためには、免許返納を進めていきたいが、介護予防の観点からは、運転免許を返納させるべきではないという話なので、この議論は「危ないから免許返納せよ」「いや衰えるから運転を続けろ」という状態で、両立の難しい袋小路に入っています。
この2つは、それぞれ別の話として考えてみる必要があります。そもそも、免許返納の目的は「高齢者の交通事故を防ぐ」ことでした。そして確かに「免許返納」は事故防止のための有力な手段ですが、手段がそれしかないというわけではありません。
例えば、すでに一部実施されていますが、自動ブレーキやペダルの踏み間違い抑制装置などの安全技術を搭載した「サポカー」の普及、運転能力を定期的に実車でチェックする制度の導入、あるいは再訓練の実施、行き先や場所、時間などを限定した免許制度といった方法も考えられます。
現状は、免許を持つか返納か、運転可か不可かというゼロヒャクで事故防止を実現しようという発想ですが、ここまで返納率が上がっていない以上、そうではなく、違う方法で事故を減らしていく方向に切り替えるべきかもしれません。
「自動車の運転は認知機能の維持に効果的だから、続けるべきだ」というのも同じようなもので、確かに認知機能を維持するという目的に対して、運転はその手段の一つですが、当然、他にも手段はあります。
問題は、「運転をやめた結果、外出が減り、人と会わなくなり、頭や体を使う機会が激減して、認知機能が衰えてしまう人が少なくない」ということです。言い方を変えれば、「車を運転しなければ、高齢者が社会参加や交流をしにくくなっている状態である」「運転をやめたら、生活の選択肢が大きく制限されてしまうような社会である」ということです。
運転を継続するかどうかに関係なく、高齢者がいつまでも人と関わり続け、頭を使い、体を動かせる環境をつくる、車がなくても別の選択肢が自然に用意されている地域社会をつくる、というのが本質的で有力な手段であるはずです。
例えば、徒歩圏内に日用品や食料品を買える場所や、銀行や病院といった利便施設があり、気軽に立ち寄れる居場所もあって、行けば何かを学んだり作ったり、誰かと顔を合わせておしゃべりに興じたりすることができる。さらに、送迎や相乗りバスなどで移動や参加の選択肢がある。そんな地域社会の中で楽しく生きる日常が、認知機能の維持につながっていきます。
本来は、このような地域社会づくりが先で、免許返納はその結果あるいは副産物と位置付けるべきなのかもしれません。なぜなら、そのような地域社会で暮らしていれば、車の運転をやめることが「生活範囲を縮小する決断」ではなくなりますし、「社会参加や交流を諦めるきっかけ」にもならないからです。
そうすると、免許返納問題というのは、小手先の策なのであって、高齢者に我慢を強いているだけという見方さえできるようにも思います。返納率が約5%未満で推移しているという事実は、地域社会全体のあり方を十分に見直さないまま、免許返納だけを高齢者に求めてきたことの表れだと考えることもできそうです。
NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕
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