梅毒、クラミジア…「性感染症」にかかると、どんな症状が出る？　感染経路＆予防法とは【医師が解説】

　近年、「梅毒」や「クラミジア感染症」などの性感染症（性病）の感染者数が増加しているといわれています。そもそも、性感染症にかかった場合、どのような症状が出るのでしょうか。性感染症の主な種類や症状などについて、性感染症内科 ペアライフクリニック横浜院（横浜市西区）院長で医師の百束全人（ひゃくそく・まと）さんに聞きました。

無症状のケースも

Q.そもそも、性感染症とはどのような病気なのでしょうか。性感染症の種類や症状について、教えてください。

百束さん「性感染症とは、主に性的接触（膣性交、オーラルセックス、アナルセックスなど）によって感染する病気の総称です。これらの感染症は、細菌やウイルス、寄生虫などによって引き起こされます。

性感染症は、自覚症状がない場合も多く、感染に気付かないまま放置すると不妊症や重篤な合併症の原因となることがあります。そのため、定期的な検査や早期治療が非常に重要です。代表的な性感染症と主な症状は次の通りです」

（1）クラミジア感染症
クラミジア・トラコマティスという細菌が原因で引き起こされる性感染症で、日本国内でも最も多い性感染症の一つです。女性はおりものの増加や下腹部痛、不正出血が見られますが、無症状のケースも多く、気付かないうちに進行してしまうことがあります。男性の場合、尿道のかゆみや痛みが生じたり、透明な分泌物、白濁した分泌物が出たりするのが特徴です。放置すると不妊の原因となることがあります。

（2）淋病（淋菌感染症）
淋菌という細菌が原因の感染症で、クラミジアよりも症状が出ることが多いです。症状が出た場合、女性は膿性おりものの増加、性交時の痛み、排尿時の痛みや頻尿、不正出血が見られます。男性は排尿時の強い痛みや黄白色の膿が出るのが特徴です。男女ともに喉が腫れることがあります。

（3）梅毒
梅毒トレポネーマという細菌が原因で、感染初期には硬性下疳（こうせいげかん）という痛みのないしこりができ、リンパ節が腫れることがあります。進行すると皮膚の発疹、神経障害、心血管障害などを引き起こすことがあり、放置すると重篤な合併症につながるため、早期発見と治療が重要です。

（4）尖圭コンジローマ
ヒトパピローマウイルス（HPV）の感染によって、外陰部や肛門周辺にイボができる病気です。痛みやかゆみの症状がないことが多いですが、見た目に違和感を覚えたり、精神的な負担を感じたりすることがあります。HPVには子宮頸がんの原因となるタイプもあるため、ワクチン接種が推奨されています。

（5）性器ヘルペス
単純ヘルペスウイルス（HSV）が原因で、外陰部や口唇周辺に水ぶくれや潰瘍ができ、痛みを伴うことがあります。発熱やリンパ節の腫れを伴うこともあり、一度感染すると体内（神経）に潜伏し、再発するのが特徴です。

（6）トリコモナス症
トリコモナスという寄生虫が原因の感染症で、女性では泡状で悪臭のあるおりものやかゆみが発生するのが特徴です。男性は無症状のことが多いですが、尿道炎を引き起こすこともあります。

（7）HIV
ヒト免疫不全ウイルス（HIV）に感染すると、免疫力が低下し、放置するとエイズ（免疫不全状態）を発症します。初期は風邪のような症状が現れ、その後無症状の期間が続きますが、免疫力が徐々に低下していきます。現在では治療薬の進歩により、適切な治療を受けることでエイズの発症を抑えることが可能です。

（8）B型肝炎
B型肝炎ウイルス（HBV）による感染症で、性行為のほか、血液を介して感染します。感染すると倦怠（けんたい）感や発熱、黄疸が現れることがあり、慢性化すると肝硬変や肝がんのリスクが高まるため、ワクチン接種が推奨されています。

性感染症を防ぐには？

Q.性感染症を防ぐには、どのような対策が必要なのでしょうか。

百束さん「性感染症の基本的な予防対策は、コンドームの使用を徹底することです。特にクラミジアや淋病、梅毒などの細菌感染症は、適切にコンドームを使用することで感染リスクを大幅に減らすことができます。

ただし、梅毒や性器ヘルペス、尖圭コンジローマなど、病変部の皮膚に接触しただけで感染する病気もあるため、定期的な検査を受けることが重要です。

また、先述のように尖圭コンジローマ、B型肝炎についてはワクチンがあります。特にHPVワクチンは、性交渉を始める前に接種することで最大の効果を得ることができます。

このほか、HIVについては、日常的に服用するPrEP（プレップ）、リスク行為後に服用するPEP（ペップ）というHIV予防薬があり、HIVを予防するにはこれらの薬を活用するのが効果的です。PrEPやPEPは医療機関で処方されるため、HIVに感染するリスクのある人は、事前に専門医に相談するとよいでしょう。

性感染症は放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見・治療のために定期的な検査を受けることをおすすめします」

Q.B型肝炎は感染者の血液を介してうつることもあるということですが、B型肝炎のように性交渉以外で性感染症に感染するケースはあるのでしょうか。

百束さん「先ほどの説明と重なる部分もありますが、性感染症の中には、B型肝炎のように性交渉以外の経路で性感染症に感染するケースもあります。一部の性感染症は、母子感染のほか、輸血や注射器の共用による血液感染によってもうつることがあります」

（1）母子感染（垂直感染）
母親が性感染症に感染している場合、妊娠や出産、授乳を通じて胎児や赤ちゃんに感染することがあります。

・HIV
胎内や母乳を通じて胎児や赤ちゃんに感染する可能性があります。

・梅毒
妊娠中に胎児へ感染すると「先天梅毒」となり、重篤な健康被害を引き起こす可能性があります。

・クラミジア感染症、淋病
出産時に産道を通ることで胎児に感染し、結膜炎や肺炎の原因となることがあります。

妊娠中の性感染症は、流産、早産、胎児の発育異常のリスクを高めるため、妊婦健診でのスクリーニング検査が推奨されています。

（2）血液を介した感染（血液感染）
性感染症の一部は、感染者の血液が体内に入ることで感染することがあります。例えば、HIVやB型肝炎、C型肝炎、梅毒の場合、注射器やカミソリの共用、入れ墨（タトゥー）やピアスの施術、輸血などを介して感染する可能性があります。タトゥーやピアスの施術を受ける際は、信頼できる施設を選ぶことが大切です。

（3）タオルや入浴などによる接触感染の可能性
性感染症の中には、皮膚や粘膜の接触を通じて感染するものがあり、タオルや下着などを介して感染する可能性が指摘されています。

例えば、梅毒や性器ヘルペス、尖圭コンジローマの感染者が触れたタオルや下着などを介して細菌、ウイルスが付着し、皮膚の傷口や粘膜から感染する可能性があります。また、トリコモナス症の病原体であるトリコモナス原虫は水分のある環境で短時間生存できるため、感染者とタオルや浴槽を共用した場合、それらを介して感染することがあります。

ただし、これらの感染リスクは極めて低く、日常生活で必要以上に心配する必要はありません。感染予防のためには、「洗浄」「乾燥」「タオルや下着を共用しない」「公共の場では清潔な状態を保つ」などの基本的な衛生管理が大切です。

（4）キスや体液の交換による感染
性感染症の場合、カミソリの共有で傷口から他者の体液が入り感染が成立するのが有名です。一部の性感染症は、キスや唾液の交換だけでも感染する可能性があります。

・梅毒
口内にできた梅毒のしこりに触れることで感染する可能性があります。

・性器ヘルペス
オーラルセックスを通じて口唇ヘルペスが性器に感染するケースがあります。

・クラミジア感染症、淋病
咽頭感染を起こしている場合、キスやオーラルセックスを通じて感染することがあります。

・B型肝炎
唾液での感染も多いのが特徴です。

・尖圭コンジローマ
オーラスセックスだけで尖圭コンジローマに感染するケースがあります。

・HIV
傷口や口などを介して感染者の血液が混ざれば、唾液でも感染することがあります。

　以上のように、性感染症は、性行為を介して感染するものが大多数ですが、母子感染や血液感染、接触感染など、性交渉以外で感染するケースもあります。特に、妊娠中の感染は胎児に悪影響を及ぼす可能性があるため、ブライダルチェックや妊婦健診での検査が重要です。また、医療機関や公共施設での適切な衛生管理が大切です。

　ただし、日常生活でタオルや下着などを介して感染する可能性は極めて低いため、過度な不安を持つ必要はありません。何度も強調しますが、感染予防のためには、コンドームの適切な使用、定期的な検査、個人の衛生管理を徹底することが大切です。性感染症について疑問や不安がある場合は、早めに医療機関に相談し、適切な対応を取ることをおすすめします。

オトナンサー編集部

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