「なぜ警察はクマを撃たないんだ」 SNSに広がる疑問の声…実は《警察官がクマを撃てない》明確な理由があった【元刑事が解説】
- オトナンサー |

「帰宅したら玄関先にクマがいた」「散歩中に襲われた」――。今、連日のように、日本各地で“クマとの遭遇”が報道されています。そういった中、SNSでは、「なぜ警察はクマを撃たないんだ?」「襲われるまで見ているのか」といった疑問の声も少なくありません。拳銃を携帯しているのに、なぜ発砲できないのか――。元警視庁刑事の経験を持つ筆者が解説します。
拳銃を携帯していても「撃てない」法的理由
環境省が公表しているデータによると、2024(令和6)年度におけるクマ類(ヒグマ、ツキノワグマ)による人身被害は全国で82件・85人に上り、そのうち亡くなられた方は3人でした。しかし、2025(令和7)年度の同省による9月時点での速報値では、すでに人身被害件数99件・108人に達し、そのうち亡くなられた方は5人となり、昨年度の年間被害を上回るペースで増加しています。
確かに、警察官は拳銃を携帯しています。「もっと効果的に拳銃を使用し、クマ対策に当たるべきなのでは?」…誰もが一度はそう考えたことがあるでしょう。実は、その背景には「撃てない」法的理由が明確にあるのです。
警察官の拳銃使用に関する法的根拠は、警察官職務執行法第7条(武器の使用)にあります。同条では、警察官が「犯人の逮捕・逃走防止」や「自己または他人の防護」のために、相当の理由がある場合に限って武器を使用できると規定されています。つまり、法の想定対象はあくまで「人間」であり、この条文にクマなどの動物を撃つことは想定されていません。
さらに、拳銃の使用については、国家公安委員会規則が定める「警察官等拳銃使用及び取扱い規範」や、各都道府県警の内部規程(例えば、警視庁であれば「警視庁警察官けん銃使用及び取扱規定」)により、「拳銃を抜く場合」「銃口を人に向ける場合」「威嚇射撃を行う場合」「実際に発砲する場合」といった状況ごとに細かい条件が定められています。
このように、拳銃は「人の犯罪行為」を制圧・抑止するための装備であり、動物駆除や威嚇を目的とした使用は“法の規定外”なのです。
もし、規定外の状況で発砲すれば、たとえ善意の判断であっても、警察官本人が刑事責任を問われる可能性も生じます。報道などで「拳銃使用に問題はなかった」と警察が発表するのは、この厳格なルールに則っていたかを社会に説明するためでもあります。
最後の砦「緊急避難」
では、クマ対策に関して、警察は何もできないのでしょうか。ここで登場するのが、警察官職務執行法第4条(避難等の措置)です。
この条文では、「人が死傷するおそれがある場合や、狂犬が暴れ回る場合など、危険を防止するために必要な措置を命じ、または自ら行うことができる」とされています。クマもこの「狂犬」になぞらえて解釈されるため、警察官が現場で緊急的に措置を取ること自体は否定されません。
ここで言う「措置」とは、退避・避難誘導命令・猟友会への駆除指示などを指し、また警察官自身も、今まさに人の生命に危険が及んでいるといった場合には、自らその措置を取ることができると解されています。
さらに、警察法第2条(警察の責務)では、「警察は国民の生命・身体・財産を保護し、公共の安全と秩序を維持する」と定めています。
この条文を根拠に、極めて例外的に「人命救助のための発砲」が認められる可能性はありますが、現行法上、それは「人を守るための最終手段」と解されているのです。従って、「クマが出没した」という理由だけで、威嚇射撃を含む拳銃を撃つ行為は、法的に許容されているとはいえないのです。
銃弾性能から見ても「クマには不向き」?
さらに、技術的な面でも、警察の拳銃はクマへの使用に全く適していません。
私が現職時代に携行していたのは、スミス&ウェッソンM360J「SAKURA」や、ニュー南部M60などの回転式拳銃で、弾丸は38スペシャル弾でした。また、一部では9mmパラベラム弾を使用する自動式拳銃(オーストリア製グロックなど)も配備されていますが、いずれも人体を想定した設計です。
これらの弾丸は「過度な致死性を避けるため」に、貫通力重視・殺傷力控えめに作られています。そのため、体重200キロを超えるクマに対しては致命傷を与えられず、むしろ痛みで興奮・暴走を招く恐れがあり、大変危険です。
また、一時的に追い払うことはできても、山に逃げ込んだクマに対して、負傷による無駄な苦しみを長く与え、時間をかけて徐々に衰弱し息絶えてしまうという結果にもなりかねないのです。
「安全と共存」を両立するために…求められるものは2つ
では、クマによる人身被害が増加する中で、どうすれば安全と共存を両立できるのでしょうか。
現実的な対策としては、地域社会と猟友会の連携をさらに強化し、「警察が現場を安全確保しつつ、猟友会が駆除を行う」体制を明文化することが重要で、これに関しては「緊急銃猟」という制度を新設し、条件さえそろえば自治体の首長の判断で、市街地であっても猟銃を発砲することができるようになりました。この制度は徐々に実証例が報告されています。
また、猟友会の方々は、自治体などからの依頼を受けて出動し、命の危険を伴う作業を担っています。こうした活動に対し、十分な支援や社会的理解を広げていくことが求められます。警察・行政・猟友会がそれぞれの立場を尊重しながら協力体制を築くことが、地域の安全、人、そして野生動物の共存を両立するための第一歩になるでしょう。
近年では、山の実りの減少や気候変動の影響などから、クマの行動範囲が人里近くまで広がっていると指摘されています。こうした背景を踏まえ、被害防止の対策を進めると同時に、自然環境の変化にも目を向けながら、長期的な視点で人と野生動物の関係を見直していくことが求められます。
人の安全とクマの生息環境のバランスを保つことは、これからの社会にとって大きな課題です。しかし、警察の拳銃はあくまで「人を守るための最後の手段」に用いる“武器”であり、クマを撃つための“道具”ではありません。だからこそ、力ではなく「知恵」と「法制度」で対策を取ることが求められています。
人と自然の境界をどう保ち、どう共に生きていくのか。人間の側も真剣に考えるときが来ていると私は考えます。
治安戦略アナリスト・危機管理スペシャリスト 小比類巻文隆
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