新鮮だけど懐かしい女優、松本穂香が受け継ぐ角川映画と竹内結子の記憶
- オトナンサー |
映画「みをつくし料理帖」が公開中です。高田郁さんの同名時代小説シリーズが原作で、過去には北川景子さんや黒木華さんの主演でドラマ化もされました。
映画の主演は松本穂香さん。23歳にして多くのキャリアを重ねながらも新鮮なイメージを失わず、それでいて戦時中が背景の作品も似合う懐かしいイメージも持ち合わせています。
そんな特質が、この映画では大いに生かされています。それは単に、江戸時代が舞台の時代劇を令和の世に問う作品だからという理由だけではありません。これが「角川映画」の伝統を新たに受け継ぐものでもあるからです。
起用の決め手は「素の表情」
角川映画は、もともと出版社だった角川書店が1970年代後半から映画製作に乗り出し、銀幕に革命をもたらした作品群のことです。当時の社長・角川春樹さんが生み出したその手法はメディアミックスと呼ばれ、小説と映画とを連動させるものでした。近年でいえば、西尾維新さんのライトノベルとアニメを連動させた「物語」シリーズなどのひな型ともいえます。
さらに、角川映画はアイドル作りまで連動させました。といえば、世代によっては「角川三人娘」のことを思い出すでしょう。薬師丸ひろ子さん、原田知世さん、渡辺典子さんの3人を指し、それぞれが映画に主演しただけでなく、その主題歌を歌ってヒットさせました。
そんな角川映画をプロデューサーや監督としてもけん引した角川さんが「最後の監督作品」と公言しているのが「みをつくし料理帖」です。キャストを見ても、かつて角川映画で主役を務めた石坂浩二さんや浅野温子さんといった大ベテランに、前出の薬師丸さん、渡辺さんが助演として脇を固めるなど、集大成的なものを感じさせます。
そこに主役として起用されたのが、松本さん。パンフレットでは角川さんがその理由について「穂香に関しては、以前から素の表情がいいと思っていたので」などと明かしています。彼女を下の名前で呼ぶのは、若手女優たちを自分の娘のようなスタンスで育んできた角川さんならではの愛情表現です。松本さんも、その眼力に認められたというわけです。
起用の決め手が「素の表情」というのも、納得させられます。8月4日放送の「ノンストップ!」(フジテレビ系)でのこと。松本さんは高校時代、演劇部の劇でヒロインの「冷凍マグロ」の役を演じたエピソードを披露しました。
「築地から逃げ出した冷凍マグロが男子高校生とぶつかって恋に落ちるところから始まるっていう。(せりふも)ガンガンしゃべります。『私の凍った心を解かして!』みたいな」
と、シュールな説明を淡々と語って爆笑をもたらしていました。実は彼女、人見知りな性格と言いつつ、大のお笑い好きでもあり、自身のインスタグラムなどでも独特の面白さを見せています。ドラマ「この世界の片隅に」(TBS系)のようなシリアスな作品でも、どこかホッとさせられたりするのはこうした素のキャラゆえでしょう。
故・竹内結子さんとの共通点
そしてもう一つ、彼女は最近、ある芸能人に似ていることで話題になりました。9月に亡くなった竹内結子さんです。2人はもともと顔立ちが似ているのですが、松本さんが髪を切り、若い頃の竹内さんの髪型に近づいたことで、激似レベルがさらに上がりました。
10月7日放送の「TOKIOカケル」(フジテレビ系)に出演した際には、ネット上で視聴者から、「ますます竹内結子にしか見えなくなった」「まるでドッペルゲンガー」といった声が。しかも、この番組のもう一人のゲストは、竹内さんの最初の夫である中村獅童さんでした。そのため、「ドキドキ」「複雑」といった声も飛び出していたものです。
ちなみに、獅童さんは「みをつくし料理帖」で重要な役を演じています。以前から、竹内さんと松本さんが似ていると感じていて、両者のファンでもある筆者はあるシーンに驚かされました。ヒロインが失意のどん底から立ち直り、大泣きするシーンです。
そのきっかけを作り、その現場に居合わせる役を獅童さんが演じていること、そして、竹内さんが泣きの演技に定評があったことを思い出し、ハッとさせられました。
また、竹内さんがNHKの連続テレビ小説「あすか」や月9ドラマ「ランチの女王」(フジテレビ系)といった料理モノで評価を高めたように、松本さんも料理モノとの相性がいいのだと改めて気付かされたものです。
それは、両者が女性性の体現の仕方でも似ているからでしょう。ショートカットが似合ったり、声が低めだったり、どこかボーイッシュでありながら、女性的魅力もしっかりと感じさせるバランス。こういうタイプの女優は同性にも支持されます。例えば、松本さんが生理用品のCMに起用されたりするのも、その表れでしょう。
もちろん、松本さんは松本さんであり、竹内さんとも、角川三人娘とも違う個性の持ち主です。ただ、若手女優が伝統を受け継いだり、偉大な先人を連想させたりすることは大きなプラスにもなります。新鮮さに懐かしさが重なることで、見る側にとってイメージの幅が広がるからです。
「みをつくし料理帖」のクライマックスは、奈緒さんが演じる幼なじみとの切ないシーン。角川さんはパンフレットで、こんな感想を語っています。「2人の別れのシーンを見ているとき、私は未来の大女優が対決をしていると感じました」。
ちなみに、松本さんは同業者の友人がなかなかできず、ここで共演した奈緒さんがやっと「唯一のお友達」になったそうです。一緒に大仕事を成し遂げた戦友のような感覚なのかもしれません。
また、角川さんは松本さんの「素の表情」を生かすため、「江戸時代にタイムスリップしたつもりでやるように」と指導したとか。彼女は期待通り、現在から過去へ飛び、未来をも感じさせたわけです。
新鮮さと懐かしさを併せ持つ女優だからこそ、つないでいける過去と未来。松本さんのこれからがますます楽しみです。
作家・芸能評論家 宝泉薫
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