唯一の現役車が引退間近 その理由は「路線延伸」? 全国どこでも見られた「キハ20系」最期のとき
- 乗りものニュース |
キハ20系は国鉄の代表的な一般形気動車で、全国で見られましたが、いま現役なのは、ひたちなか海浜鉄道湊線のキハ205のみ。引退のときが近づいていますが、それにはポジティブな理由もありました。
JR東日本の車両で置き換え
茨城県ひたちなか市を走るひたちなか海浜鉄道では古い気動車が運用されていますが、2024年夏、JR東日本と車両の譲渡契約を締結したことで、いくつかの車両が置き換え対象となります。うち1車種がキハ205(キハ20形)です。
これは、動態保存車を除くと唯一現役のキハ20形です。もともとは国鉄の車両でした。ひたちなか海浜鉄道へやって来て、そしてなぜ置き換えることになったのか、その変遷をたどってみましょう。
キハ205は若干色褪せているものの国鉄気動車標準色だ。このカラーは日本の情景に染み込む。写真の後ろ側部分はトイレを撤去している。中根~高田の鉄橋間(2024年9月、吉永陽一撮影)。
そもそも戦後の国鉄では気動車の研究開発が盛んとなり、ローカル線用のキハ17系や、準急列車用のキハ55系が誕生しました。やがてキハ17系を一回り大型化し、普通列車から優等列車までこなす一般形気動車として1957(昭和32)年に誕生したのが、DMH17形エンジン搭載のキハ20系です。
製造は9年間に及び、寒冷地仕様、片運転台、郵便荷物合造車など多岐にわたった形式バリエーションから、その総数は1126両と国鉄を代表する一般型気動車となりました。なかでも両運転台のキハ20形は409両が製造され、キハ20系一族のなかで一番の両数を誇りました。
1000両に及ぶ大所帯は国鉄路線だけでなく、非電化私鉄へ譲渡された車両もあり、どこでも見かける当たり前の存在でした。また私鉄ではキハ20形やキハ22形をベースにした自社発注車が製造され、その代表的な例として千葉県の小湊鉄道キハ200形がキハ20形と似たようなフォルムで、機関部もほぼ共通です。
しかしキハ20系は、1970年代後半の新形式気動車登場により廃車が始まり、JRへ継承された時点ではキハ20形、キハ22形、キハ52形の3形式283両と、最盛期の4分の1ほどに減りました。1995(平成7)年を境にしてキハ20形とキハ22形はJRから形式消滅となり、2024年10月現在、現役のキハ20形とキハ52形は譲渡車両のみで、ひたちなか海浜鉄道湊線のキハ205と、いすみ鉄道のキハ52形となっています。
全国を渡り歩いてきたキハ205
湊線のキハ205は1996(平成8)年に、岡山県倉敷市の水島臨海鉄道から譲渡されてきましたが、出自をたどると1965(昭和40)年帝国車両製のキハ20 522で、室内灯を白熱灯からトランジスタ蛍光灯にした最終増備の500番台です。522はラストナンバー車であり、落成後に小牛田(宮城県美里町)へ配置され、1989(平成元)年の最終配置はJR西日本の姫路運転区。その後、水島臨海鉄道へ譲渡されてキハ210となり、湊線の前身である茨城交通が購入しました。
茨城交通の時代はキハ20系が主流であった。キハ222は羽幌炭礦鉄道が廃止になって譲渡され、ワイパーは耐雪用の旋回窓が特徴。現在は阿字ヶ浦駅の鉄道神社御神体となった。勝田駅にて(1994年3月、吉永陽一撮影)。
この譲渡はラストナンバー車だから選ばれたのでしょうか。その経緯をひたちなか海浜鉄道の吉田千秋社長へ伺うと、譲渡購入は茨城交通の時代だから詳細は分からないと前置きしたうえで、
「キハ20系統は頑丈で長持ちすること、茨城交通ではキハ20系統に車種を統一することから、コストを抑えつつ車両の置き換えを実施したのだと思います」
と、思い出すように語ってくださいました。
1996年当時、茨城交通の旧型車は、キハ17系キハ11形が3両在籍しました。そのほかはキハ20形が主流でしたが、元・留萌鉄道のキハ2004と2005、元・羽幌炭礦鉄道のキハ221~223、元・国鉄から鹿島臨海鉄道を経たキハ201~204と私鉄からの譲渡車で、キハ20形とはいえ自社発注や前照灯改造など、ひと癖ある個性車が活躍していたのです。
出自はバラバラでも機関部などは同一のため、メンテナンスコストは抑えられ、そこにキハ205が入線したのです。ラストナンバー車は偶然の巡り合わせでした。
キハ205は白地に青と赤線の茨城交通カラーを纏いましたが、ワンマン化改造のあと国鉄気動車標準色に塗り替えられました。茨城交通鉄道部職員の発案で、キハ205を含み何両か国鉄色に塗り替えられたのです。国鉄色は湊線となってからも継承されました。
延伸で編成増 ネックとなる性能差
キハ205は水島臨海鉄道時代にクーラーを取り付けていたので、湊線キハ20形唯一の冷房車として、新製車のキハ3710形と混在しながら年間を通して活躍しました。しかし新製車が登場するたびに僚友が廃車され、2017(平成29)年には水島臨海鉄道のキハ20形が引退すると、湊線だけでなく全国で唯一のキハ20形となりました。
近年は勝田~那珂湊間の区間運用に充当されていましたが、JR東海のキハ11形(2代目)が入線する前後から運用がめっきり減りました。吉田社長は続けます。
「もう予備車なのです。加減速などほかの車両との性能差もあり、ダイヤ上のネックになります。大きなイベントで全車両動かすほど必要に迫られた時以外は走らないですね」
近年は那珂湊駅構内の車両基地で佇む姿が多かったキハ205は、製造から約60年経過し、機関部はまだ良好ながらも、戸袋窓にドアが擦ってしまい、床もベコベコになるほど車体がへたれてきました。現役の新製車両とは性能差も異なり、要である運行ダイヤに支障をきたします。営業車両としてギリギリのコンディションのなか、なんとか予備車として走れる状況に、満身創痍という言葉が過ります。
揃って引退する予定のキハ205とミキ300が、那珂湊機関区の機関庫で休む。有志の夜間撮影会にて許可を得て撮影(2024年9月、吉永陽一撮影)。
ところで、湊線は阿字ヶ浦駅からひたちなか海浜公園方面への延伸計画があり、工事認可が降りる段階まで計画が進展しています。その前段階として、2024年9月にJR東日本からキハ100形(100‐39)が搬入されました。
「延伸の際には最大で3両編成の運行となって保有車両も増やすため、同系列で編成を組めるものに統一するのです」と吉田社長。性能差があって単独運用しかできないミキ300形とキハ205は、延伸を見込んだ増備のため、そのうち引退という判断となりました。
現役最後のキハ20形がラストナンバー車というのは、偶然とはいえ何かの巡り合わせに思えます。しかし機械の命も永遠ではありません。2024年秋時点でキハ205はチャーター運行をしており、ツアーや鉄道ファン有志での引き合いが結構あるようです。
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