埼玉は損してた? さらば「大宮格差」、値上げの形で消滅へ JR東日本の“いびつな”エリアはなぜ存在していた?
- 乗りものニュース |

始まりは私鉄との競争
JR東日本は2026年3月14日に実施する運賃改定で「山手線内」「電車特定区間」の運賃区分を廃止します。これらは標準区分の「幹線」より割安なため、廃止対象の都市部は全体の改定率より高く値上げされることになります。そもそもなぜ、このような制度が設定されていたのでしょうか。
JR大宮駅(画像:写真AC)
同社の運賃体系は「幹線」と「地方交通線」を基本とし、幹線は、より割安な「電車特定区間」と、さらに安い「山手線内」の4区分を設けています。
電車特定区間は東京駅から概ね30~40km圏内に設定されていますが、南は横須賀線久里浜駅(約70km)、西は青梅線奥多摩駅(約74km)まで含まれる一方、北限の大宮駅は東京駅から約30kmまでといういびつな形状をしています。久里浜や奥多摩と同等まで範囲を広げるならば、宇都宮線は間々田駅(約73km)、高崎線は籠原駅(約71km)まで含まれます。
幹線からまたがって利用する場合は全区間が幹線運賃で計算されるため、乗車券を大宮で区切って買う方が安くなるなど不合理な制度だったことから、沿線自治体は区間の拡大をたびたび要望してきました。
この電車特定区間の誕生の話は、国鉄末期に遡ります。オイルショック後のインフレで収支悪化が加速した1970年代後半、国鉄は頻繁に運賃改定を実施し、1974(昭和49)年に30円だった初乗り運賃は1979(昭和54)年には100円まで値上がりしました。
しかし急激かつ頻繁な値上げは国鉄離れを招いたことから、1982(昭和57)年の運賃改定で渋谷~横浜間、品川~横浜間、新宿~八王子間など並行する私鉄との競争関係を考慮した割引制度「特定運賃」を新設しました。この特定運賃は現在まで引き継がれており、3月の運賃改定後も一部が存続します。
ルーツは明治時代「国電」という概念
1984(昭和59)年の運賃改定では、鉄道の競争力確保と収支改善を両立するため、長く続いた全国一律の運賃体系を廃止。地方交通線は1割増しとする一方、山手線内各駅相互の運賃、特定運賃、国電区間1~10kmの初乗り運賃を据え置き、大都市圏の値上げ幅を抑制しました。
1985(昭和60)年の運賃改定でも幹線(300km以内)は5.5%値上げしましたが、山手線内、特定運賃、国電区間(1~6km)は据え置きました。
1986(昭和61)年の運賃改定でも山手線内、国電区間(全線)の運賃が据え置かれ、「電車特定区間」が運賃区分として独立しました。
1987(昭和62)年にJRが発足し、国鉄最後の運賃改定が引き継がれます。JR東日本は電車特定区間に含まれていた山手線内を別個の運賃区分としたため、現在の4区分が成立しました。ただしこれだけでは、「なぜ電車特定区間が現在の範囲なのか」の説明にはなりません。
ここで重要なのが、前出の「国電」という概念です。国電区間とは国鉄の大都市電車区間という意味で、鉄道院時代(1908~1920年)は「院電」、鉄道省時代(1920~1949年)は「省電」と呼ばれました。なお、民営化後はJR東日本が「E電」という愛称を付けたものの全く浸透せず、「○電」の呼び名は忘れられて行きました、
実はこの院電は、明治時代から「特定運賃」が設定されていました。中央線の前身である私鉄・甲武鉄道が市内路面電車との対抗上、新宿以東の運賃を同額としたことに始まり、国有化後は院電に引き継がれます。電車区間の特定運賃ということで「電車特定運賃」の制度が誕生しました。
その後、電化の進展とともに電車特定運賃の設定範囲が拡大していきます。1942(昭和17)年の運賃改定で山手線内に特別運賃が設定され、3段階の運賃体系となりますが、戦後に割引率は段階的に縮小され、1961(昭和36)年に廃止されました。都市部の運賃を戦略的に抑制する制度は1984年以前にもあったのです。
なぜいま廃止? JR東の懐事情
都市部に特別な運賃体系を導入したのには、もう一つ理由があります。1925(大正14)年に山手線が環状運転を開始したことで、発駅から着駅まで経路を指定する従来の運賃制度が成り立たなくなり、乗車経路によらず最短距離で運賃を決定する制度が必要になったのです。
現在、運賃体系とは別に大都市近郊区間という制度が存在します。この区間内は同じ駅を二度通過しない限り最短経路の運賃で利用できるため、いわゆる「大回り乗車」が可能ですが、その原点は山手線開業にありました。
前述の通り、国電区間を対象とする電車特定運賃は1961年に終了しましたが、運賃計算の営業制度としての電車特定区間は存続しました。1973(昭和48)年に武蔵野線が開業すると、電車特定区間は大都市近郊区間(東京近郊区間)に改称され、東北本線は小山、高崎線は熊谷、常磐線は土浦へと大幅に範囲を拡大しました。
しかし話がややこしいのは、国鉄には運賃制度とは別に「国電」の概念がありました。4ドアの通勤形電車が走る線区を国電、3ドアの近郊形電車が走る線区を中電(中距離電車)といい、国電と中電の境界は東海道本線が大船、東北本線は大宮、常磐線は取手、総武本線は千葉とされました。現在の東京近郊区間は、この国電の区分と概ね一致しています。
このように明治以来の、競合路線を意識した割引運賃、経路複雑化に対応した営業制度、運行形態としての国電区間という様々な文脈が、国鉄末期に結合したのが電車特定運賃だったのです。
しかし民営化から約40年が経過し、電車特定区間の位置付けは大きく変わりました。民営化後、運賃を据え置いたJR東日本に対し、私鉄は90年代中盤にかけ幾度かの運賃改定を行いました。また、湘南新宿ラインに代表される直通運転の拡大など輸送サービスを大幅に向上させ、JRと私鉄の競合関係は大きく変わりました。
国鉄・JRは都市部の黒字で地方の赤字を埋める内部補助で成り立っています。国鉄再建には都市部の安定した利益が不可欠だったので、競争力確保が重視されました。しかしコロナ禍で都市部の収支まで悪化したことで、都市部は聖域ではなくなってしまいました。
とはいえ山手線内には、国鉄末期に匹敵する2割以上の大幅値上げとなる区間もあります。JR東日本の危機感の現れとはいえ、急激すぎると言わざるを得ません。どのような影響が出るのか、結果に注目です。
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