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船戸結愛ちゃん虐待死2年 幼い命をなぜ救えなかったのか、西沢哲教授に聞く

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船戸結愛ちゃんの命日、亡くなった現場のアパート前には多くの花が供えられた(2019年3月2日)
船戸結愛ちゃんの命日、亡くなった現場のアパート前には多くの花が供えられた(2019年3月2日)

 東京都目黒区で2018年3月2日、虐待を受けていた船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)が亡くなって、2年がたちました。1日1食の食事制限や顔の殴打、冷水を浴びせるといった虐待をしていた継父の船戸雄大受刑者は、保護責任者遺棄致死などの罪で懲役13年の判決が確定。結愛ちゃんの実母、優里被告は一審で懲役8年の判決を受けて控訴中です。

 なぜ、雄大受刑者は結愛ちゃんを死にまで至らしめたのでしょうか。誰かが結愛ちゃんを救うことはできなかったのでしょうか。雄大受刑者に公判前、7回接見し、法廷で証言した西沢哲(さとる)山梨県立大学教授(臨床心理学)に聞きました。

「2人を幸せに」が生きがいに

Q.雄大受刑者が、結愛ちゃんを死にまで至らしめたものは何だったのでしょうか。

西沢さん「彼は『優里さんと結愛ちゃんと理想的な家族をつくりたかった』と言っています。『理想的な家族』の具体像は不鮮明ですが、恐らく、結愛ちゃんや優里さんを幸せにしたかったんだろうと思います。

ただ、彼は『人の立場からものを考えることができない』という特性があります。それは、彼がもって生まれたものなのか、成育歴などの養育環境が影響したのかは分かりません。

結愛ちゃんのことに絞れば、幸せにしたいんだけど、どうすれば結愛ちゃんが幸せになるかが分からない。だから、自分が思う『理想的な子ども像』を押し付ける。例えば『おうちに入ったら、靴はそろえた方がいい』『友達に会ったらあいさつをした方がいい』とか。彼が思っている理想的な子ども像を、結愛ちゃんにやらせようとしたのです。

これが例えば、私だったら、『この子が幸せになるには、どうしたらいいのかな』と、子どもの立場からものを見るんですが、彼はできない。『人の立場に立って、ものを考える力が弱かった』ということは裁判でも話しました」

Q.それは接見して確信したことですか。

西沢さん「いろんなエピソードからも、です。そういう特徴があることは本人にも伝えました。

そして、結愛ちゃんは、ここは想像ですが恐らく、そういう大人と触れたことがなかった。自分が思うように行動することを、母親から許されていたんだと思います。いわゆる放任主義的な。それがいいか悪いかは別ですよ。

大きなミスマッチですよね。自由に伸び伸び生きてきた子が突然、理想像を押し付けられるわけですから。うまくいくはずがないんです。ところが、雄大さんは『生きる目標』が『理想の家族をつくること』だったんです。

彼の社会歴を見ると、1部上場企業の正社員として8年勤めて、そこで不適応を起こした。自分のこれからが全く見えなくなって、仕事を辞めて、そして、いわゆる水商売の世界に入る。百八十度の転換と言ってもいいと思います」

Q.雄大受刑者は自己肯定感が低いという話もありました。

西沢さん「ものすごく低いですよ。彼自身は中学校でバスケットボール部のキャプテンをやり、大学でもサークルを立ち上げて人望が厚かったようですが、そもそもの自尊感情がすごく低い。

その低さが、就職したけど、うまくやれなかったことで強化された。就職して2年目か3年目から身体的な不調、多分ストレス性ですけど、それを抱えながら頑張ったけど、ついに、ということになってしまいます。

四国に行ったときの心境は『自暴自棄だった』と言っています。そういうときに優里さん親子に出会います。ある意味、『生きがい』を見つけたわけです。自分が生きていく意味。恐らく、『この2人を幸せにするのが自分の使命だ』と思ったんでしょう。

そして、結愛ちゃんを理想的な子どもに育てようとする。けれども、全くうまくいかない。ほかに方法がない。すると、力で思い通りに結愛ちゃんを動かそうとする。

最初、彼は怒りの感情で関わっていないです。教えています。『こうした方がいいよ』『こうした方が、もっとお友達ができるよ』と。そういう教え方をするんですけど、それが通用しない。すると、今度は脅してやらせようとする。脅しても言うことを聞かない。思い通りにならない。今度は殴ってでも、という方に。悪循環ですね」

Q.それがエスカレートして、亡くなるまでに…。

西沢さん「殺そうと思ったわけじゃないんです。痛みを与えてでも言うことを聞かせようとして、ギアが上がってしまった。結果的に、彼女が死んでしまような暴力を振るってしまった、ということでしょう」

懲役13年の判決に控訴せず

事件について語る西沢哲教授
事件について語る西沢哲教授

Q.雄大受刑者は、虐待していた時期の一部について「記憶がない」と言っているようですが。

西沢さん「人間は興奮した状態のとき、記憶の定着が阻害されます。ある意味『怒りに支配されて』暴力を振るったとき、詳細な記憶を求めることは、かなり難しいかもしれないですね。誰でもそうだと思いますよ。興奮してけんかしたとき、そのプロセスをストーリーで語れないことがあります。

例えば、殺人を犯した人が、その前後の記憶がないことはけっこうあります。それはトラウマ(心的外傷)性のもので、すごくショッキング、加害者がショックを受けるのか?と思われるかもしれませんが、人が亡くなるという結果に直面したとき、しかも自分がやった結果亡くなったんだろう、みんな『だろう』なんですけどね、そのショックが解離性健忘という逆行性の健忘をつくることがあるんです。

『逆行性』というのは、ある出来事の前の記憶がなくなるということです。そういうことは起こり得ます。彼(雄大受刑者)に関しては、接見時間が非常に限られていて、本来の診断面接のように細かい点が確認できていないので推測になりますが、今までの事例に照らしても、記憶が飛んでいたり、断片化したり、ということはあり得ると思います」

Q.雄大受刑者に最後に接見したときの感想は。

西沢さん「彼は大きな罪悪感を持っていました。懲役13年の判決を受けて、控訴しませんでした。公判で弁護人が『9年が適当』と言っているんですが、争わなかった。すごい罪悪感を持っていると思います」

Q.次に、結愛ちゃんの話をお聞きします。なぜ、結愛ちゃんは逃げられなかった、あるいは逃げなかったのでしょうか。

西沢さん「年齢的にいって無理だったと思います。一般論ですが、幼児の場合、暴力を受けていたとしても、逃げるという発想はないでしょう。小学校高学年くらいにならないと、逃げだして、警察や児童相談所に助けを求める、という発想はできません。

ただ、彼女は『一時保護所に戻りたい』ということを主張しています。それはすごいことだと思いますよ。1回目の一時保護から帰ってきた後、自分から一時保護所に行きたいと言っています。親元を離れたかったんでしょうね。でも、それを実行するには幼過ぎたし、それを社会が期待してはいけません」

Q.では、周囲が結愛ちゃんを助けられなかったのでしょうか。

西沢さん「救えましたよ。だけど、残念ながら日本の文化とか人々の考え方とか、あるいは制度の面もあると思いますが、救うことを実行しなかった」

Q.それは、都の児童相談所のことですか。

西沢さん「都も香川もそうです。彼女は、自分が暴力を受けているということを周りに訴えていますから。医療機関も『これはまずい』と判断しているんだけど、やっぱり児童相談所がその判断を却下したわけです」

Q.結果論になりますが、児童相談所が甘かったのでしょうか。

西沢さん「甘いというより、今の日本のシステムが子どもを積極的に守るシステムにはなっていないんです。

児童相談所は、親と対立してでも子どもを守ることが求められるんですが、一方で、親を支援する役割も与えられている。ということは、対立したら支援できない。児童相談所としては、その後の親との関わりを重視するから、子どもの声を聞かない、という構造になっています。

そこは、制度から変えていかないといけない。『子どもを守る機関』と『親を支援する機関』を分けることが国で一時議論になりましたが、立ち消えになっている」

Q.では、優里被告が結愛ちゃんを救う機会はなかったのでしょうか。

西沢さん「難しいところですね。その疑問に答えようと思ったら、優里さんを知らなきゃいけないけど、私は彼女に接見していないこともあって分かっていない。結愛ちゃんは前の夫との、お互い10代の時の子どもですね。前夫との離婚も含め、彼女は家庭環境に恵まれなかったのかもしれません。

そんな彼女にとって、雄大さんは『救世主』だったかもしれないと思うんです。自分を救ってくれる」

Q.雄大受刑者が優里被告にとって救世主だとしたら、自分も結愛ちゃんも逃げられない、一緒に生きるしかないということでしょうか。

西沢さん「推測ですけど、世の中で一般に言われているような、DV被害の支配下にあったとは思えない。普通のDVだったら、加害者は子どもには関心がいかないんです。なぜかというと、自分の最大の関心事は自分のパートナーだからです。

身体的な暴力が向いたのは結愛ちゃんだけです。結愛ちゃんをあれだけ支配しようとした構造というのは、普通のDVのケースでは見ないことです。優里さんはどこかで、雄大さんの言うような子どもに結愛ちゃんがなる方がいいと思った節があります。共鳴している節が」

Q.「理想の家族をつくりたい」という雄大受刑者の思いに、優里被告もなっていたということでしょうか。

西沢さん「多分、自分たちを幸せにしてくれる頼もしい存在なんだと。それも言葉や暴力で支配されたからではなく、思っていたんじゃないかと私は思っています」

「やり直せる社会」を

Q.この事件から、私たちが学ぶ教訓があるとすれば、どのようなことでしょうか。

西沢さん「日本の社会って、やり直しがきかないじゃないですか。新卒一括採用で人生を決めて、決められて、こうなんだと。そこからドロップアウトしたらやり直せない、ということが多い。

そうすると、自分の人生が見つからない人がたくさんいる気がするんです。そのときに抱える無力感とか絶望感が、子どもへの虐待だったり、DVの問題だったりにつながっていると思います。人生何回でもやり直せるよという社会であれば、それは減らせる気がします。

私は日本で5年間仕事をしてから、アメリカの大学院に行きました。28歳で州立大学の大学院に入ったんですが、クラスの中で私が一番若かったんです。みんないろんな仕事をしてみて、もう一度カウンセリングを学ぼうという人たち。最高齢は60歳くらいでした。

アメリカは高校の中退率が高いんですが、高校を中退しても大学に行く道が開かれています。社会人教育の場があって、いい成績を収めれば大学に編入できる。やり直しができて、大学院に行くと専門職の道が開ける。そういう社会は、日本から見たらうらやましいですよね。

雄大さんみたいな、自分の人生はこれでよかったのかとか、本当の自分の人生はこうじゃなかったんじゃないかと思っている人たちって、すごく多いんじゃないかと思います。そういう人たちに『もう一度やり直しましょう』って言える社会になれば、DV被害とか虐待も減っていく、あるいは増加を抑えられるんじゃないかと思います」

オトナンサー編集部

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