「寝ても眠い」…もしかして過眠症? 精神科医にメカニズム&対策を聞く
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人によっては、睡眠を十分に取っているはずなのに眠気に襲われることがあります。こうした症状は「過眠症」と呼ばれており、SNS上では「寝ても眠い」「すぐに眠くなる」などの声が上がっています。そもそも、なぜ過眠症を発症するのでしょうか。「出雲いいじまクリニック」(島根県出雲市)副院長で、精神科医・総合診療医の島田直英さんに聞きました。
睡眠時無呼吸症候群の可能性も
Q.「過眠症」とはどのような病気なのでしょうか。
島田さん「過眠症は、単に『寝不足で眠い』という状態とは全く異なる病気です。睡眠時間を十分に取っているはずなのに、日中に自分ではどうにも抗うことのできない猛烈な眠気に襲われてしまうのが特徴で、その結果、学業や仕事、人付き合いといった毎日の生活に大きな支障が出てしまいます。この眠気は、コーヒーを飲んだり少し仮眠を取ったりするくらいでは簡単に消えない、根深いものです。周囲の人からは『怠けている』『やる気がない』と誤解されがちですが、本人の意思や努力でコントロールできるものではないという点が一般的な眠気との決定的な違いです。
その原因は1つではなく、大きく2つのタイプに分けられます。1つは、脳の中にある睡眠と覚醒を切り替える仕組みそのものに問題が起きる『中枢性過眠症』です。代表的なものに『ナルコレプシー』があり、これは思春期ごろに発症しやすく、笑ったり驚いたりしたときに体の力が抜けてしまう『情動脱力発作』という特徴的な症状を伴うことがあります。もう1つは、原因がはっきりしない『特発性過眠症』で、長時間眠ってもすっきりせず、日中の眠気が長く続くのが特徴です。
もう一つのタイプは、他の病気や生活習慣が引き金となる『二次性過眠症』です。例えば、睡眠中に呼吸が止まってしまう『睡眠時無呼吸症候群』によって深い眠りが妨げられたり、不規則な生活やストレスで体内時計が乱れたりすることが原因で、日中に強い眠気が現れます。うつ病などの心の病気が背景にあることも少なくありません。働き盛りの青年、中年世代など不規則な生活やストレスを抱えやすい人は注意が必要です。
このように、過眠症の原因が多岐にわたるため、正確な診断と一人一人に合った対応がとても大切になります」
Q.大人よりも子どもの方が過眠症になりやすいのでしょうか。
島田さん「過眠症は学業成績の低下や不登校、友達関係といった学校生活に深刻な影響を及ぼす可能性があります。『大人と子どものどちらが過眠症になりやすいか』をはっきりと示すデータはありませんが、発症しやすい過眠症の種類やその原因には、年齢による特徴的な違いが見られます。特に、脳の機能が関わる『中枢性過眠症』と呼ばれるタイプのナルコレプシーや特発性過眠症は、10代から20代という、子どもから大人へと成長する時期に症状が現れやすいことが分かっています。
子どもの『二次性過眠症』として多いものは、鼻の奥にあるアデノイドやへんとうの肥大が原因で起こる『睡眠時無呼吸症候群』があります。また、夜更かしやスマートフォンの長時間利用といった生活習慣の乱れが、体内時計を狂わせて眠気を引き起こすことも大きな要因の一つです。
医療現場でも意外と知られていないこととしては、発達障害である『注意欠陥多動性障害(ADHD)』が過眠症の原因であることがあります。ADHDの人は日中に強い眠気や疲労感を伴うことがあり、かつ夜間の不眠の合併も多いのです。そのため睡眠薬などで睡眠リズムを整えたり、ADHD治療薬を服用したりすることで日中の眠気を軽減できるケースもあります。
さらに、『朝起きられない』『午前中にひどく眠い』といった症状がある場合、自律神経の乱れからくる『起立性調節障害』という病気の可能性もあります。これは特に思春期の子どもに多く見られるため、単なる『朝寝坊』や『怠け』と決めつけず、慎重に見極めることが重要です。このように、同じ『眠い』という症状でも、その背景は個人によって大きく異なるため、注意深い対応が求められます」
Q.過眠症の診断基準や、病院に行く目安はありますか。
島田さん「『何時間以上寝たら過眠症』というような単純な基準はありません。病院へ行くべきか迷ったときの目安となるのは、睡眠時間そのものよりも、日中の眠気の『質』と、それが『生活にどれだけ影響しているか』です。
具体的には、夜に7時間以上など十分な睡眠を取っているはずなのに、日中に我慢できないほどの強い眠気に襲われる状態が1つのサインです。その眠気が、自分の意思ではどうにも抵抗できないほど強く、仕事や学業、日常生活に明らかに支障が出ている場合は、まずは早めにかかりつけ医への相談を考えるべきでしょう。何度も強調しますが、同じ『眠い』という症状でも、その背景は個人によって大きく異なるため、『病名』を自己判断することはお勧めできません」
Q.過眠症は完治する病気なのでしょうか。どんな治療を行いますか。
島田さん「過眠症が完全に治るかどうかは、その原因によって大きく異なります。睡眠時無呼吸症候群や他の病気、生活習慣の乱れなどが原因の二次性過眠症であれば、その根本原因を治療することで、眠気の症状も大幅に改善し、実質的に治癒へと至る可能性があります。特に、睡眠時無呼吸症候群が原因の場合は、CPAPという機械で睡眠中の呼吸を助ける治療が非常に効果的です。
しかし、脳の機能に問題がある中枢性過眠症、特に原因がまだよく分かっていない特発性過眠症などでは、残念ながら『根治』が難しいのが現状です。そのため、治療の目標は『完治』させることよりも、薬などを使って症状をうまくコントロールし、日常生活での困り事を減らして生活の質(QOL)を高めることになります。
また、原因が何であれ、すべての過眠症において非薬物療法は非常に重要で、治療の土台となります。毎日同じ時間に寝て起きるといった規則正しい生活を心掛ける『睡眠衛生指導』や、睡眠に関する誤った考え方を修正したり、ストレスへの対処法を身に付けたりする『認知行動療法』などがあります。根治が難しいタイプの過眠症であっても、適切な治療を粘り強く続けることで、症状をコントロールしながら、より快適な日常生活を送ることを目指していきます」
Q.過眠症を防ぐ方法はあるのでしょうか。
島田さん「過眠症、特に生活習慣の乱れやストレスが原因となるタイプについては、日々の暮らしを見直すことで予防や症状の緩和が期待できます。これは病気の予防だけでなく、心と体の全体的な健康を保つ上でも非常に大切です。
最も基本となるのは、睡眠のリズムを整えることです。毎日できるだけ同じ時刻に寝て、同じ時刻に起きることを心掛けましょう。休日だからといって寝だめをすると、かえって体内時計が乱れてしまいます。朝起きたらカーテンを開けて太陽の光を浴びると、体が目覚めのモードに切り替わります。もし日中に仮眠を取るなら、午後の早い時間に15分から20分程度の短い時間にとどめるのが、夜の睡眠に響かせないコツです。
日中の過ごし方も重要です。定期的に散歩などの軽い運動を取り入れると、夜の眠りの質が高まり、日中の覚醒度も向上します。食事も決まった時間に取るようにすると、生活リズムが整いやすくなります。コーヒーなどに含まれるカフェイン、アルコールは、睡眠の質を低下させることがあるため、摂取する時間や量に気を付けましょう。
また、ストレスも過眠の大きな原因になるため、自分なりのリラックス法を見つけて、上手にストレスを管理することも大切です。こうした生活習慣の改善は、過眠症の治療効果を高める土台にもなります」
オトナンサー編集部
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