「発達障害」の30歳ひきこもり長女、自力で「障害年金の請求書類」書くと主張…困惑した社労士が気付いた“本当に必要な支援”
- オトナンサー |

筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気などで就労が困難なひきこもりの人を対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。
浜田さんによると、障害年金は、その障害で初めて医療機関を受診した「初診日」から1年6カ月を経過した「障害認定日」の時点で、法令に定める障害状態であれば請求が可能だといいます。障害認定日の時点で症状が軽い場合、障害年金を請求しても不支給になってしまうことがあるということですが、その後、症状が重くなって法令の基準を満たす場合、「事後重症請求」という手続きが可能だといいます。事後重症請求では請求した翌月分から障害年金が発生するとのことで、請求は早ければ早いほど望ましいと言えます。
しかし、中には速やかに請求するのを望まない人もいるそうです。浜田さんがある親子とのやりとりで自身が得た気付きについて、紹介します。
発達障害が原因で中学1年のときからひきこもりに
「長女と話し合い、障害年金の請求をすることになりました。私たち家族だけで請求をするのは不安があるので、専門家に手伝ってもらおうと決めました」
そう語るのは、30歳の神谷美紀(仮名)さんの母親です。美紀さんには発達障害があり、10代の頃からひきこもり状態にあるそうです。
障害年金では、まずその障害で初めて医師などの診療を受けた日である「初診日」を確認することから始めます。そこで私は母親から事情を聞きました。
母親によると、美紀さんは小さい頃から動作が遅く、集団行動も苦手。コミュニケーションもうまく取れなかったので、小学3年生ごろからいじめを受けるようになってしまったそうです。
朝に大泣きをして登校を嫌がり、学校内でも周囲を困らせるような行動が増えてきたため、小学校の先生の勧めで発達障害の診療にも対応する小児科を受診。検査の結果、「自閉スペクトラム症」の診断を受けました。
医師からは「クラスメイトと無理に仲良くする必要はありません。お子さんには大らかに接してあげてください」と言われただけで、薬は処方されませんでした。
その後、母親と担任の先生で話し合ったところ、美紀さんは発達障害児のための支援学級に通うことになりました。
美紀さんは支援学級に移った後も何度か小児科を受診していましたが、服薬はなく特に症状も改善するわけではなかったので、しばらくすると通院は中断してしまいました。
美紀さんが中学生になると、本人の強い希望で普通学級に進学。しかし授業についていけず、クラスメイトとの関係性もうまく築けなかったため、中学1年生の夏休み明けから不登校になってしまいました。その後、支援学級に移ることもなく、不登校のまま卒業の日を迎えました。美紀さんは卒業式に出席できず、母親が校長室まで卒業証書を受け取りにいったそうです。
中学卒業後、母親は美紀さんに通信制高校を勧めましたが、美紀さんは断固拒否。自室にひきこもる生活は続きました。
美紀さんは一人っ子であり、家計はそこまで困窮しているわけではなかったので、両親は美紀さんを無理やり社会復帰させようとはしなかったそうです。
「いつかよい変化が訪れるはず」
両親はそう願いましたが、美紀さんが30歳になってもひきこもり状態に変化はありませんでした。意を決した母親は美紀さんを説得し、精神科を受診させることにしました。
母親の話を踏まえると、美紀さんの場合、障害年金に関しては次のようになります。
美紀さんは小学生の頃に発達障害の診療に対応した小児科を受診しています。初診は公的年金に加入する20歳前だったため、障害基礎年金を請求することになります。障害年金(障害基礎年金および障害厚生年金)は、原則、初診日から1年6カ月を経過した日以降に請求できます。
ただし公的年金に加入する20歳前に初診がある場合、初診日から1年6カ月が経過したときに20歳前であるときは、20歳に達した日(20歳の誕生日の前日)以降に請求することになっています。
美紀さんは小学校の頃に通院を中断して30歳になるまで精神科や心療内科は受診していませんでした。すると20歳当時(厳密には20歳の誕生日前日から前後3カ月以内)の診断書を入手することはできません。以上のことから、美紀さんは事後重症請求をすることになります。
そこで私は母親に次のように言いました。
「事後重症請求の場合、請求した翌月分から障害基礎年金および障害年金生活者支援給付金が発生します。仮に9月に請求して障害基礎年金が認められたとすると、10月分から受給できることになります。請求が10月になると受給は11月分からになります。以上のことから、事後重症請求は早ければ早いほど望ましいといえます。できるだけ早く請求できるよう私もご協力いたします」
「はい。ぜひお願いします。長女にもそのように伝えてみます」
母親との面談後、美紀さんの同意を得た私は、障害年金の請求に向けて家族と共に行動を起こしました。
家族に寄り添う本当の支援とは?
障害年金では、まず初診日の証明書を入手することから始めます。幸いにも小学生の頃に受診した小児科に当時のカルテが残っていたので、初診日の証明書(受診状況等証明書)を入手することができました。
次は診断書の入手です。まずは美紀さんが発達障害により、日常生活にどのくらいの困難さを抱えているのか、それを文書にまとめます。そして主治医に文書を渡し、その内容を踏まえた診断書を作成してもらうようにします。
なお、診断書にある日常生活能力の判定(日常生活の困難さ)は次の通りです。
(1)適切な食事
(2)身辺の清潔保持
(3)金銭管理と買い物
(4)通院と服薬
(5)他人との意思伝達および対人関係
(6)身辺の安全保持および危機対応
(7)社会性
これら7項目について、美紀さんの具体的なエピソードを文書にまとめます。母親と私で話し合った結果、「私がメールで質問をする→母親がメールで回答をする→回答を基に私が清書していく」といったことを繰り返すことになりました。
しかし、ここで思ってもみないことが起こりました。
私が最初の質問である「適切な食事について」の質問をしてから2週間以上がたっても、母親から何の音沙汰もなかったのです。
心配した私は母親に連絡をしてみました。すると意外な答えが返ってきました。
「長女の強い希望で、回答は本人が作成することになりました。回答をまとめるまで時間がかかってしまい申し訳ございません。回答がまとまり次第、こちらからご報告いたします」
この返事に私は戸惑いを隠せませんでした。
最初の質問からすでに2週間以上が経過しています。日常生活の困難さの項目は全部で7つ。これらをまとめるのにかなりの時間がかかってしまうであろうことは想像に難くありません。
さらに、障害年金では「病歴・就労状況等申立書」という書類も作成する必要があります。病歴・就労状況等申立書には、診断書では記載し切れない本人の状況を記載していきます。
発達障害がある人の場合、幼少期から現在までの状況を具体的に記載する必要があります。日常生活の困難さの回答をしてもらった後、幼少期から現在までの回答もしてもらわなければなりません。
そこで、私は次のような提案をしてみました。
「回答をまとめるのにお時間がかかるようでしたら、インターネットを利用したウェブ面談でお嬢さまに直接お話しいただくのはどうでしょうか。もちろん顔は映さなくて大丈夫です。音声だけで構いません。口頭でお伝えいただく方が時間の節約になると思います」
すると、母親は申し訳なさそうな声で言いました。
「長女は他人に会うと極度の緊張で頭が真っ白になってしまい、うまく伝えることができません。インターネットでの面談も厳しいと思います。せっかくご提案いただいたのに申し訳ございません。長女は話すことは苦手ですが、文章であれば何とか作成できます。とはいえ、長女は作業がとても遅いので、かなり時間がかかっているようです。もちろん『早く請求した方がよい』ということは、長女もよく分かっています」
「それならば、なおさら早くできる方法を見つけなければなりません。障害基礎年金と障害年金生活者支援給付金の合計は1カ月当たり約7万4700円です(2025年度の金額として。100円未満切り捨て)。仮に請求が6カ月遅くなると約45万円、1年遅くなると約90万円ものお金をもらいそびれてしまいます。それはもったいないことですよね」
私はいつの間にか焦りにも似た気持ちに襲われました。それが母親にも伝わったのか、母親は次のように言いました。
「長女は今まで納得のいく形で物事を最後までやり遂げた経験がほとんどありません。長女は昔から作業がとても遅かったので、母親の私も『この子は何でこんなに遅いのか。もっとテキパキできないものなのか』といら立ちを隠せないこともたくさんありました。そのため、先生のおっしゃることもよく分かります。それでも、どうかご理解いただけませんでしょうか」
母親の言葉に、私はわれに返りました。
「今回は事後重症請求になるから、できるだけ早く請求をしなければならない。専門家である私にできる支援は、速やかに必要書類をそろえること。それが美紀さん家族にとっても望ましいはずだ」
そのような思い込みにとらわれていることに気が付いたからです。長女の決断には「自分で物事をやり遂げたい」という強い意志が感じられました。
さらに、母親は続けました。
「実は最近になって長女から言われたのですが、長女はひきこもりになってからインターネットで発達障害のことを調べたそうです。すると自分に当てはまる事柄がたくさんあり、大きなショックを受けていたようなのです。『なんで私は発達障害なのだろう』ということがずっと心の中で引っかかり、何もする気も起きなかったと言っていました。長女はこの年齢になって、やっと自分の発達障害を受け入れることができるようになったんだと思います」
「なるほど、事情は分かりました。それでは娘さんのペースで進めていくことにしましょう」
早く請求することが唯一の正解であると思い込んでいた私は、美紀さんの納得がいく回答が出来上がるまで待つことにしました。
社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也
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