駅名変更しなければ良かった!? “新”の使い方が斬新すぎる駅、100年続くトホホな歴史
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「新●●」駅じゃなくて「●●新」 実は100年前に!?
鉄道駅の改名は、駅名標などの表示類の変更、列車の方向幕の作り直し、システム改修、国への届け出など何かと手間がかかり、駅名変更を経験した私鉄社員は「できることならば避けたい」と打ち明けます。
福井鉄道たけふ新駅のプラットホーム(大塚圭一郎撮影)
ところが、北陸地方のローカル私鉄の起点駅は、1924年の開業から名前の付け方で翻弄されてきました。誕生時には「ありがちな名前」が使用済みだったため一風変わった駅名となり、その後は13年間に2度の改名を経てほぼ“原点回帰”する結果となりました。
筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)がこの駅に足を運ぶと、鉄道ファンにとって「沼」のようなワナにはまりました。
その駅とは、福井県を走る福井鉄道福武線の起点となっている駅「たけふ新」(越前市)です。福武線はたけふ新と田原町・福井駅を結ぶ全長24.1kmの路線で、うち福井市内のフェニックス通りに敷かれた赤十字前の付近と田原町、および途中の福井城址大名町~福井駅が道路を走る軌道で、他は専用軌道となっています。
たけふ新は1924年、福井鉄道の前身である福武電気鉄道の「武生新」駅として開業しました。一風変わった駅名は、オーソドックスな名称が使用済みだったことによる苦肉の策でした。
武生駅は近くの北陸本線(現・ハピラインふくい)が名乗っていたので使えず、「新」を冠した新武生も近い場所に既に存在していました。10年前の1914年に開業した私鉄の武岡軽便鉄道の起点駅が「新武生」(後の社武生)の名称でした。そこで編み出されたのが、「新」を末尾に回す「武生新」の駅名です。
福井鉄道によると、武岡軽便鉄道は社名変更などを経て1941年7月に福武電気鉄道と合併。福武線と南越線が同じ企業の経営になりました。そして福武電気鉄道は第二次世界大戦末期の1945年8月、地元私鉄の鯖浦電気鉄道と合併して福井鉄道になりました。南越線は1981年に消えました。
市名が変わったから駅名も変えたら「別の圧」が…
武生新という独特の響きの駅名は定着した駅名だったものの、福井鉄道は2010年3月に駅名を「越前武生」に変更します。これは所在地だった旧武生市が旧今立町と合併して2005年10月に越前市となったことを踏まえ、新たな市名の「越前」を冠するというアイデアでした。
福井鉄道北府駅に入線する「たけふ新」行き770形(大塚圭一郎撮影)
しかし、「後出しじゃんけん」のように同じ読みの駅名が付けられることが決まりました。それは2024年3月に延伸開業した北陸新幹線の金沢~敦賀(福井県敦賀市)間に設けた、越前市内の新幹線単独駅「越前たけふ」です。
地元紙の福井新聞は、北陸新幹線の駅名を選定する過程で「福井鉄道は駅名変更に必要な費用を越前市が負担することを条件に、駅名候補に加えることを認めている」と報じています。混同を避けるため“本家”の福井鉄道が越前武生の駅名変更に応じ、投票で「たけふ新」という、当初の駅名によく似た名称へと2023年2月に回帰しました。
投票は2021年10~11月に実施され、「福鉄たけふ」「福鉄えちぜん」「武生新」「菊花たけふ」「越前府中」の5案のうちどれが良いかを尋ねました。延べ約840人が投票して「武生新」が首位となりましたが、福井鉄道は武生を平仮名書きした「たけふ新」に決めます。
これは北陸新幹線の越前たけふ駅が福井県外からの来訪客らにも読みやすいように平仮名表記にしたことに、福井鉄道も倣った結果でした。
歴史を知ってしまうと現地で「お金を使う」羽目に!?
たけふ新は3階建ての駅舎で、ハピラインふくい武生駅の北約350mにあります。両駅の間には、大手スーパーの平和堂(滋賀県彦根市)の商業施設「アル・プラザ武生」が建っています。
福井鉄道たけふ新駅の駅舎(大塚圭一郎撮影)
駅舎の北側にプラットホームがある2面3線の頭端駅になっており、2005年4月1日付で廃止された名古屋鉄道岐阜市内線・揖斐線・美濃町線で活躍していた電車770形と880形などが停車していました。
ただし、改札が始まるのは電車が発車する5分前で、それまでは駅舎内で待つことになります。この空間は鉄道愛好家がワナにはまる「沼」なのです。
通路にはコカ・コーラなどの清涼飲料水の自動販売機と並び、超低床電車F1000形「FUKURAM(フクラム)」の装飾を施した自販機がありました。最上段こそペットボトル入りミネラルウオーターですが、2段目は「自販機限定です!」の張り紙とともに並んだ鉄道グッズが秋波を送ってきます。
ともに使用済みの架線と切符を入れた「鉄道廃品(トロリ線)&古切符セット」(700円)、レールを木製枕木に固定するための犬釘と使用済み切符の「鉄道廃品(犬釘)&古切符セット」(700円)、たけふ新駅の旧駅名の「越前武生」や「武生新」を記したモハ200形の方向幕をイメージした「方向幕キーホルダー」(500円)、福井鉄道の駅構内踏切の脇にある看板を模して「警報機がジャンジャン鳴っている時は危険です。」などと記した「ジャンジャンキーホルダー」(500円)といった具合です。
あっけなくはまった筆者は、早速「鉄道廃品(トロリ線)&古切符セット」と「鉄道廃品(犬釘)&古切符セット」のボタンを押して購入。入っていた古切符はそれぞれ5枚入りで、大人運賃の「武生から北村ゆき」「武生から五分市ゆき」「武生から粟田部ゆき」、子ども運賃の「武生から北村ゆき」と「武生から五分市ゆき」でした。
これらは旧・南越線の駅で、武生は社武生を指します。北村は社武生から5駅目で、大人運賃は120円と記されていました。
他にジャンジャンキーホルダーなども買い集め、目の前にある待合室に入るとここも「沼」でした。
販売しているグッズを並べた陳列棚には、モハ200形の模型やミニタオル、ドイツ南部シュツットガルトの路面電車で使われていた車両F10形「RETRAM(レトラム)」の「もちもちキーホルダー」などよりどりみどりの商品が並びます。窓口には駅員が購入者を待ち受けており、友人への土産も含めた出費は5000円を超えました。
隣駅だって翻弄されてきた!
乗車を待っていた普通田原町行き電車の改札が始まり、770形に乗り込んで隣駅の北府(きたご、越前市)で降りました。この駅は「北府駅鉄道ミュージアム」となっており、駅舎内には福井鉄道の電車に取り付けていた行き先表示板、急行を指す「急」と赤字で記した種別板などが展示されています。
福井鉄道北府駅の「北府駅鉄道ミュージアム」に展示された200形(大塚圭一郎撮影)
保存された200形は、特徴的な車体間の連接台車も間近に見ることができます。構内には、名古屋市交通局の地下鉄名城線1100・1200形を両運転台に改造した600形の姿もありました。
北府も武生新(現・たけふ新)と同じ1924年に開業し、当初の駅名は西武生(にしたけふ)でした。西武鉄道になじみのある首都圏在住者は「せいぶなま」と誤読することもあったそうです。福井市中心部の百貨店「西武福井店」は、前身の1980年から「西武」が付いた店名を付けており、その前に福井鉄道福武線の軌道があるのも一因かもしれません。
武生新から越前武生への改称と同じ2010年3月、西武生は北府に変わりました。北府という駅は旧・南越線にもありましたが、そちらの読み方は「きたごう」でした。
越前市では、新武生駅が存在したため「新」の位置をひっくり返した武生新の駅名を付けたり、同じ表記が存在した北府の駅名を取ったり、同じ読みの越前たけふに駅名を譲った越前武生が当初の駅名と同じ読みの名称に“原点回帰”したりと、駅名がジャンジャン変わってきました。題材が駅名だけに、実にエキサイティングな歴史です。
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