大損害は“使い方を間違えたから?” ウクライナ軍「装輪戦車」再供与を熱望のワケ 自衛隊も他人事じゃない!
- 乗りものニュース |
フランスがウクライナに供与したAMX-10RC戦車駆逐車が、いま再び供与の要望が出ているそう。でも、当初ウクライナ軍は同車の使い方を間違えて多大な損害を出しました。なぜ再びウクライナ軍は欲しがっているのでしょうか。
「装輪戦車」は戦車にあらず
終わりの見えない激戦が続くウクライナ紛争。ロシア軍に占領された国土を奪回すべく戦い続けるウクライナ軍に対し、欧米各国は戦車を始めとしてさまざまな戦闘車両を供給しています。
フランスもそのうちの一つです。同国はウクライナに対して戦車こそ引き渡していないものの、米英独といった主要国に先駆けて2023年1月、タイヤ駆動の装輪式戦闘車両、AMX-10RC戦車駆逐車を供与すると発表。同年春には40両をウクライナに供給しています。
その後、6月にはさっそくロシアに対する反転攻勢で実戦投入されましたが、緒戦でかなりの損害を被った結果、現場から不評をかってしまいました。
しかし、のちにウクライナは同車40両の追加入手を希望したとか。なぜ現場で不評だったにもかかわらず、ウクライナ軍はそのような希望を改めて出したのでしょうか。
ウクライナ海兵隊で用いられるAMX-10RC戦車駆逐車(画像:ウクライナ軍参謀本部)。
AMX-10RC戦車駆逐車は、6輪駆動の車体に、戦車と同規模の105mm砲を備えた全周旋回式の砲塔を組み合わせた装甲戦闘車両(AFV)です。その外観と火力により「装輪戦車」と呼ばれることもありますが、そもそも本車の型式末尾に付く「RC」とはRoues-Canon(ルーカノン)の頭文字。これは、直訳すると「車輪付き砲」となり、意訳すれば装輪戦車駆逐車となります。
ちなみに、フランス語で戦車は「char(シャール)」です。そこからわかるとおり、AMX-10RCは「戦車を駆逐できる機動力を備えた砲」であり、「装輪戦車」ではありません。ゆえにフランス軍では、道路が比較的整備されたヨーロッパや平坦な北アフリカの地形で戦う偵察部隊の、火力支援車としての役割を担わせていました。
戦友が流した血で学んだウクライナ海兵隊
ウクライナ軍は当初、AMX-10RCの精密な射撃能力を「自走する狙撃銃」とも評し、供与された本車を海兵隊に配備しました。同国の海兵隊は水陸両用の急襲作戦などを遂行するための精鋭部隊で、反転攻勢の先鋒となる存在です。そういった観点から、装輪式のAMX-10RCは、機敏な機動力が求められる海兵隊に装備させるのが最適と判断したのでしょう。
やがて反転攻勢が始まると、予想通り海兵旅団は先鋒として激戦に投入されます。ところが緒戦において、AMX-10RCは大きな損害を被ることになってしまいました。理由は、戦車ほど防御力が高くなく、むしろ一般的な装甲車と同程度の耐弾性しかないことで撃破される本車が続出し、乗員多数が死傷したのです。
土煙を上げながら草原を疾走するウクライナ海兵隊のAMX-10RC(画像:ウクライナ軍参謀本部)。
しかしこの事態は、多分にウクライナ側の運用に問題があったからだといえるでしょう。伝えられるところでは、機動力に富む海兵隊ゆえに、AMX-10RCを装輪戦車駆逐車としての本来の快速を活かした「ヒットエンドラン」運用ではなく、戦車に比肩する戦闘車両として、歩兵を先導・支援する前衛に投入したことで、大きな損害を出したといわれています。
実際、緒戦で受けたAMX-10RCの被害を報告した海兵隊指揮官は、一例として、ロシア軍の砲撃を受けた際に至近弾の炸裂で生じた破片が車体を貫き搭載弾薬を誘爆させ、乗員全員が戦死したケースなどをあげています。
しかしその一方で、本車の性能については高く評価しており、現場が運用方法を理解すれば、損害が減るだけでなく、いっそうの活躍が期待できると述べたそうです。
いうならば、手痛い味方の損害と引き換えに、ウクライナ海兵隊の指揮官たちは、その使い方を学んだといえるでしょう。
陸自にもAMX-10RC類似の戦闘車両あり
前出の実戦で得た貴重な経験に基づき、新たに供給される40両のAMX-10RCは、その性能に基づいた相応しい運用がなされると思われます。たとえば戦車のように歩兵を先導するのではなく、敵戦車出現の報に合わせてフットワークを活かした機動防御を行ったり、進攻する歩兵に後続して随時出現する敵戦車やAFV、堅固な防御陣地を攻撃したりする運用です。
なお、このウクライナでのAMX-10RCの使い方で得られた教訓は、決して他人事ではありません。日本、すなわち自衛隊も現在、戦車の数を減らして、代わりに16式機動戦闘車という「装輪戦車」の数を増やそうとしています。
砲塔を後ろに向けて射撃する陸上自衛隊の16式機動戦闘車(画像:陸上自衛隊)。
ただ、16式機動戦闘車はAMX-10RCと同様、装甲は一般的な装甲車と同レベルで、戦車ほどの耐弾性はありません。やはり、AMX-10RCと同じく、その快速性と高い命中精度を活かして「ヒットエンドラン」戦法で戦わないと、すぐにやられてしまうでしょう。
また足回りもタイヤのため、戦車よりも高速性に優れる一方、悪路走破性はそこまで高くなく、泥濘や深雪では簡単にスタックしてしまいます。
そのため、ウクライナ海兵隊によるAMX-10RCの戦訓は、陸上自衛隊にとっても大いに参考となるはずです。ウクライナ紛争を対岸の火事と捉えず、どう使えば最も効果的に性能を発揮できるのか、東欧で繰り広げられる戦闘をひもとき、最適な運用法を見つけ出してほしいと筆者(白石 光:戦史研究家)は考えます。
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