銀座「宇宙船」ビルも解体危機――なぜ今、東京から個性派ビルが消えつつあるのか
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東京に個性的な社屋が多かったワケ
このほど、東京・千代田区丸の内にそびえる東京海上日動ビルディングの建て替え計画が発表されました。
同ビルは戦後日本を代表する建築家・前川國男がデザインで、当初、高さ約178mになる予定でしたが、「高いビルは美観を損ねる」という理由から問題視され、99.7mに予定を変更して完成されました。
当時、東京は高度経済成長の真っただなかにあり、それだけに経済界は活況を呈していました。オフィスビルの需要は旺盛で、しかも伸び盛りの企業は、高さだけではなく自社のスケールを大きく見せるために競うように著名な建築家を起用。建築家も自分の才能を発揮させて、意欲的なデザインのビルを次々と設計して行きました。
そのため、東京のオフィス街には個性的なデザインの社屋が多く見られるようになったのです。
解体が告知された中銀カプセルタワービル
そうした波は個人住宅・集合住宅にも及びます。
1972(昭和47)年に完成した中銀カプセルタワービル(中央区銀座)は、建築家・黒川紀章がデザインした集合住宅です。銀座の端に位置する同ビルは、宇宙船のような外観から異彩を放つビルとして高い人気がありました。
中銀カプセルタワービルは、古くなったユニット(個々の居室)を交換することで建物を半永久的に使用できることがウリのひとつになっていました。これは、生命が新陳代謝を繰り返して行くことを念頭においた コンセプトだったようです。
2007(平成19)年の都知事選に出馬した際も個性的なデザインの選挙カーを使用して都民の度肝を抜くなど、黒川デザインは常人の考えとはかけ離れたコンセプトを感じさせます。
中銀カプセルタワービルは、築50年に近づいてきた頃から解体計画が浮上していました。奇抜なデザインから高い人気を誇っただけあり、多くのファンが保存を要望。ユニットを購入して、保存活動を実践していたファンもいました。しかし、設計思想の根底にあったユニットの交換は一度もありませんでした。
長らく、中銀カプセルタワービルはたびたび解体の話が出ては消えを繰り返しました。そして、このほど解体と建て替えを計画する不動産業者が買収することが決定しました。
早すぎたSOHOワーカー向け物件
中銀カプセルタワービルは集合住宅という触れ込みですが、純粋な住まいとして使用することを考えた人は少数派でしょう。
銀座・新橋・汐留の中間に位置するという立地から考えても、同ビルはオフィス利用。つまり、SOHOワーカー向けの事務所としての需要を想定していたことがうかがえます。
最近はSOHOという言葉はあまり聞かれなくなりましたが、個人で起業する人は珍しくありません。
それどころか、ITの発達や社会環境の変化によって独立開業の機運は高まっています。それだけに、カプセルタワーは時代を先取りし過ぎたといえるのかもしれません。
個性的な外観のビルが減った東京
中銀カプセルタワービルから約1km離れた場所には、旧・電通本社ビル(中央区築地)があります。
1967年に完成した旧・電通本社ビルは、長らく使用されてないまま放置されていました・同ビルはコンクリート製の柱梁(ちゅうりょう)が特徴的なデザイン。設計したのは、黒川が師事した丹下健三です。
丹下は“世界のタンゲ”と呼ばれるほど世界に名前の知られた建築家で、1957年に完成した旧・東京都庁舎(千代田区)、1991年に完成した現・東京都庁舎(新宿区)など、有名建築物を多く手がけています。こちらも解体が正式に決まり、工事が始まっています。
建築物も老朽化にはあらがえません。また、時代とともに求められる機能が異なるため、歳月の経過によって建て替えられることは仕方がないことです。
しかし、近年は個性的な外観のビルが減り、東京はどこの街も似たようなビルばかり建っているとの指摘もあります。
コロナ禍も個性を削いだ要因
個性的なビルが減っている一因には、日本の経済力が減退しているという理由があります。
個性的な外観は意匠を凝ることになるので、オーダーメードの部分が多くなります。一方、工業製品のように大量生産できる規格化されたパーツで建物をつくれば建材費は安あがりです。
企業にとって、個性的な自社ビルを有するメリットは薄い時代になりました。
現在でも個性的なデザインの建築物はたくさんありますが、日本経済が右肩上がりを続けていた高度計成長期やバブル期に比べると、建築物も保守的にならざるを得ないのかもしれません。
まして、コロナ禍でリモートワークが進み、大きな社屋や個性的なデザインのビルは不必要になっています。
そんなタイミングで、くしくも前川・黒川・丹下といった希代の有名建築家が手がけたビルが同時期に幕を下ろそうとしています。
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