まるでホテル!な「豪華高速バス」なぜ生まれなくなったのか? 明暗を分けたもの
- 乗りものニュース |

個室風座席の「マイ・フローラ」や完全個室の「ドリームスリーパー」など、一時期話題となった夜行高速バスの豪華バス。最近は新たな豪華バスの話題を聞かなくなりました。事業者は戦略を変えたのでしょうか。
「豪華バス」ブームは終わった?
※本記事は『高速バスのビジネス』(成定竜一著、成山堂書店)、『「マーケティング感覚」の実装力』(同、同文舘出版)の内容を再編集したものです。
12席だけの豪華夜行バス「マイ・フローラ」(成定竜一撮影)。
個室風で大型座席が並ぶ「マイ・フローラ」、完全個室でわずか11席の「ドリームスリーパー」など、一時期、夜行高速バスに豪華バスが続々と登場しました。しかし、最近、そのような話題を聞きません。
2025年1月に登場した「ソメイユプロフォン」は、国内初のフルフラット型座席が話題ですが、座席の大きさを謳う豪華バスとは一線を画します。夜行高速バスにおける豪華バスはもう生まれないのでしょうか。
豪華バスは「後発事業者の“顔”」
2002年、制度改正により高速バスどうしの競争が本格的に始まると、車両タイプの多様化が進みました。ちょうどウェブ予約が普及した時期でもあり、「ウェブ上でバスを選んで予約する」時代が来たのです。
「マイ・フローラ」を生んだ海部観光は、徳島県の後発参入事業者です。徳島県はもともと京阪神との流動が多く、同社の参入以前から、徳島~大阪は高速バスが約15分間隔で頻発する「ドル箱路線」でした。一方、徳島~東京にはそこまでの需要はありません。
2006年、海部観光は高速バス参入に際し、まずは東京線を選択しました。距離が長い分、運賃も高いので金額の差を付けやすいなど後発参入に有利だったからです。3列シートの中古バスを2台購入しての参入でした。
その成功を受け、2011年には「マイ・フローラ」を登場させました。通常約45人乗りの大型バスに12席。パーティションで仕切られたほぼ個室に大型座席を配した、バス乗務員出身の創業者のこだわりを詰め込んだ豪華バスです。
しかし、徳島~東京線のような夜行路線はもともと収益性に劣るうえ、わずか12席では、まず儲かりません。そこで、同社は大がかりな戦略を立てました。「マイ・フローラ」のメディア露出を通して地元で会社の認知度を上げ、市場規模も収益性もより大きい徳島~大阪線に進出して収益を回収する戦略です。
「空中戦」を展開し、「地上戦」で勝ち抜く
その戦略は成功し、2025年現在、同社の大阪線は最大10往復まで成長しました。ふつう、既存事業者が高頻度運行しリピーターが定着している区間に、後発組が少ない便数で参入しても勝ち目がありません。しかし同社は「マイ・フローラ」を広告塔とする一方で、パーク&ライド用駐車場を自ら整備するなど地道な「地上戦」も戦い抜きました。
「ドリームスリーパー」デビュー時は華々しく報道公開も行われた(乗りものニュース編集部撮影)。
筆者(成定竜一・高速バスマーケティング研究所代表)には印象的だったシーンがあります。夜、徳島駅前で東京行きの「マイ・フローラ」を待っていたら、たまたま同社の大阪線が到着しました。そこに飲み会帰りの会社員らが通りかかり、上司らしき人が「このバスは青色やろ。有名な豪華なヤツはピンクなんよ。知っとるか?」 まるで昭和のコントで上司が部下に自慢話をするシーンのようで笑ってしまいましたが、間違いなく海部観光が地元に受け入れられたと実感した瞬間でした。
今のところ豪華バス究極系?「ドリームスリーパー」の思惑外れ
2017年には、岡山の両備バスと東京の関東バスが共同運行で「ドリームスリーパー」をデビューさせます。両社はいずれも老舗の事業者です。
完全個室、かつ「マイ・フローラ」より1席少ない11席という仕様からは、後発の中小事業者に過ぎない海部観光を意識したことが伝わります。東京~大阪線という舞台を選んだ点にも「日本一」へのこだわりが見えます。
しかし同車はコロナ禍による運休を経て共同運行を組み替え、現在では、関東バスと奈良交通が、主に週末限定で運行しています。登場時には「新幹線より豪華で“出張客”に人気」というメディア露出が多かった同車ですが、週末運行という現状をみると当初の狙いは外れたようです。
確かに、東京~大阪というと出張客が多い印象があります。対して徳島は鳴門の渦潮などの観光客でしょうか。しかし、もう一歩深く市場を分解すると違う結果となります。
夜行バスが7番打者にもなれない“環境”
東京~徳島の移動は航空が中心です。ただ航空は朝の始発が遅く最終便が早い傾向があります。両都市間を忙しく移動するビジネスパーソン、例えば徳島県内の企業の社長らは、東京で夜の会食のあと翌朝には地元で仕事、というケースがよくあります。
2010年から18年まで運行されたWILLER EXPRESSの2列シート「コクーン」。全19席だった(画像:ウィラー)
彼らが羽田空港から最終便に乗るには都内を19時台に出ないといけませんが、「マイ・フローラ」ならバスタ新宿22時15分発。夜中に移動し、翌朝、自宅でシャワーを浴びてからでも出勤できます。忙しい人ほど夜行高速バスが有効なのです。
対して東京~大阪は早朝から深夜まで新幹線が頻発しており、夜行高速バスの利用は若年層などに限られます。高速バスは、東京~徳島なら航空という4番打者にはなれなくても7番辺りでいい仕事ができるのに、東京~大阪の出張需要において高速バスの出番はあまりないのです。
企業の担当者は、市場データを「数字」として読み、「消費者」と無機質に呼んで、「東京~大阪ならビジネス出張」とステレオタイプに語りがちです。しかし、その消費者とは一人一人の「お客様」の塊です。「木を見て森を見ず」ということわざがありますが、お客様という「木」と市場という「森」は別物ではありません。
ズームレンズを拡大縮小するように木と森を上手に行ったり来たりしてニーズを想像し、それに応える商品や広告を提供することこそ、マーケティングだと呼べるはずです。
ちなみに、「ドリームスリーパー」を現在も運行する関東バスは東京都中野区や武蔵野市など中央線沿線で路線バスを運行する老舗ですが、大手私鉄系ではなく高速バス路線も少ない、若干地味な存在です。ただ、バス乗務員には一般的に「将来は高速バスを運転したい」という人が多く、「ドリームスリーパー」の存在は、現役乗務員のモチベーション向上にも、また新規採用にも貢献しているはずです。
東京~大阪 別の「戦い方」も
その東京~大阪で別の戦い方をした事業者もあります。西日本ジェイアールバス/ジェイアールバス関東は、半世紀以上の歴史を誇る路線愛称「ドリーム号」を、一つの「ブランド」に昇華させました。2017年に登場した豪華車両「ドリームルリエ」でメディア露出を図ったのです。登場時には有名女性アイドルをアンバサダーとして起用しました。
高知駅前観光の東京-徳島・高知線。ソメイユプロフォンはモニター運行を終了。ブラッシュアップして通常運行へ(画像:高知駅前観光)。
一方で、座席定員も運行便数も多い、3列シートの「グランドリーム」や4列シートの「青春エコドリーム」で収益を得る戦略です。
豪華車両をブランドの「アイコン」として活用する手法はWILLER EXPRESSや平成エンタープライズ「VIPライナー」にも共通で、特に後者は専用の待合ラウンジもメディアによく登場します。いずれもメディア露出でブランドの認知度を上げつつ、各種の会員プログラムでリピーターを上手に囲い込んでいます。
新時代の象徴「フルフラット座席バス」の戦略
2025年1月、コロナ禍を経て久しぶりに話題をさらった高速バス車両が、高知県の後発事業者、高知駅前観光が地元製造業の協力を得て作り上げたフルフラット型座席「ソメイユプロフォン」です。
座席は上下二段式ですが、その第一印象は「狭い!」です。ところが、いざ座って(寝て)しまうとフルフラットの効果は抜群で熟睡できます。東京と高知の間が近くなった印象さえ感じます。
この、狭いという第一印象は、実は同座席の利点の一つでもあります。というのは、二段式としたことで座席定員を24席(トイレ付きの場合)確保できるからです。「マイ・フローラ」や「ドリームスリーパー」の2倍です。
国全体の労働力不足を受けバス乗務員も不足する中、多くのバス事業者で「広告塔」のためだけに特別なバスを毎日走らせる余裕はなくなってきています。「ソメイユプロフォン」は、話題性と収益性を両立させた「いかにも今日的なフラッグシップ車両」と言えるでしょう。
モニター運行は8月で終了し、その結果を踏まえ車両や座席をブラッシュアップしたうえで通常運行を開始するとともに、全国のバス事業者にも同座席の提供を図るとのことです。車両の一部にのみ導入し、他は一般的な座席とすることも可能ですから、少ない運行台数で多様な座席の選択肢を提供する事業者も出てくることでしょう。
バス事業者の戦略は、環境に合わせて変化していくものなのです。
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