日本最北の長距離路線バス「天北宗谷岬線」に乗った 171kmの鉄道代替バス 寂しき現状
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廃止されたJR天北線(南稚内~浜頓別~音威子府)の代替バスとして運行している宗谷バス「天北宗谷岬線」が岐路に立っています。かつてない厳しい状況におかれている「天北宗谷岬線」の「いま」と「これから」について、改めて乗車取材しました。
運行距離約171km 国内有数の長距離路線バス「天北宗谷岬線」
日本最北の地「稚内」への鉄道は、かつて宗谷本線のほかにもう1本ありました。音威子府から北東へ、浜頓別などオホーツク海沿いの町を経由して南稚内へ通じていた、JR天北線。その代替バスとして現在も運行されているのが、宗谷バスの「天北宗谷岬線」です。
もともと天北線が廃止された1989(平成元)年5月1日に、路線バスの「天北線」として運行を開始。鉄道廃線に沿った経路で運行されていましたが、利用客が減少し収益改善が見込めないことから、2011(平成23)年10月1日のダイヤ改正で稚内~鬼志別間の経路を、観光客利用が見込める国道238号・宗谷岬経由に変更。路線名も「天北宗谷岬線」に改称します。
宗谷バス「天北宗谷岬線」で使用される三菱エアロスター(須田浩司撮影)。
現在の「天北宗谷岬線」は複数系統に分かれており、稚内~鬼志別間が4往復、鬼志別~音威子府間が2往復、鬼志別~中頓別間が1.5往復、鬼志別~浜頓別間が0.5往復設定されています。運行開始当初は5.5往復設定されていた稚内~音威子府直通便も、現在は1往復までに減便。それでも、稚内駅前ターミナル~音威子府間の運行距離は約171kmと、全国有数の長距離路線バスとして知られています。
ほぼ全員が早々に下車…「天北宗谷線」のいま
乗車したのは、稚内駅前ターミナル9時39分発の音威子府行き。4本中1本のみの全区間直通便で、その所要時間は、なんと4時間46分と長丁場です。車両は、三菱エアロスターワンステップ。座席数の多い郊外路線仕様となっており、一部の窓側座席にはモバイル充電用のUSBポートを設置しています。長時間の乗車となるため、このような設備は利用者としてはありがたいです。
9時39分、定刻に稚内駅前ターミナルを発車したバスは、国道40号~国道238号を鬼志別方面へ向けて走ります。潮見5丁目停留所を過ぎると、左手にはオホーツク海が。天気も良く、絶好のバス旅日和です。
声問地区を過ぎ、しばらく走ると、日本最北の岬「宗谷岬」に到着します。ここで、筆者を除くすべての乗客(6名ほど)が下車。これから50分程の岬観光を楽しみ、反対方向のバスで稚内へ戻るのでしょうが、これが現在の「天北宗谷岬線」の実態ともいえます。
車窓は素晴らしい! もうひとつの「日本最北の鉄道」をたどる旅
宗谷岬を過ぎると、左手前方にはオホーツク海と遠くまで続く美しい海岸線が一面に広がります。バスが走る国道238号は、稚内から網走まで総延長319kmを誇る道内屈指の長大国道で、「オホーツクライン」「宗谷国道」とも呼ばれています、海のはるか向こうはロシア。遠くに見える水平線とともに、最果ての旅情が味わえる風景が続きます。
稚内を発車して1時間半ほどで、バスは猿払村の中心部に位置する鬼志別バスターミナルに到着。こちらでは約30分停車しました。かつての鬼志別駅跡に建設されたバスターミナルの1階には、天北線資料展示室があります。周辺駅の駅名標や乗車券、備品、写真などが保存・展示されており、見ているだけでもあっという間に時間が過ぎていきます。
鬼志別バスターミナル1階には旧天北線時代の貴重なものが数多く展示されている(須田浩司撮影)。
鬼志別からは再び国道238号に戻ったのち、一度内陸に入ります。猿払バス停を通過し、みたび国道238号へ。宗谷岬を過ぎてからの車内は乗務員と私のみで、寂しいバスの旅が続きます。
12時44分、バスは浜頓別バスターミナルに到着します。浜頓別町は、宗谷地方中部にある酪農と漁業が盛んな町。郊外には大手乳製品メーカーの工場もあります。以前は旧浜頓別駅跡にバスターミナルがありましたが、2019年4月に道路を挟んで向かいの「道の駅 北オホーツクはまとんべつ」に移転。建物内は乗車券カウンター、待合室のほか、カフェ、ショップを備えた多目的館として整備されています。こちらでは10分間停車しました。
浜頓別からは海沿いを離れ、内陸部を走行し音威子府をめざします。浜頓別高校前で部活帰りと思わしき高校生が1名乗車。所々で現れる天北線の廃線跡を見ながら、新緑の中をひた走ります。
ラストスパートの峠越えで音威子府へ
浜頓別を発車して25分ほどで、バスは中頓別バスターミナルに到着。こちらでも10分間停車しました。浜頓別高校前から乗車した高校生はこちらで下車し、車内は再び筆者と乗務員のみとなります。バスターミナル横には、錆で朽ちかけているキハ22系が。国鉄色への塗りなおしの話が出ており、援助金・アイデア・作業要員などを募集していますが、今後きれいな形でよみがえるのかどうか、気になるところです。
中頓別から国道275号天北峠を越え、1時間ほどで終点の音威子府村交通ターミナル(JR音威子府駅)に到着しました。稚内から4時間46分、素晴らしい車窓と複数回の休憩停車のおかげで、思っていたよりも長くは感じませんでしたが、乗客のあまりの少なさを見るに、この路線が置かれている状況の厳しさを改めて実感しました。
名物「音威子府そば」が食べられなくなる?
音威子府に着いたところで、近くの道の駅に立ち寄ってみます。お昼どきを過ぎていたことから、食堂は営業を終了していましたが、売店は営業しており、黒いそばで有名な「音威子府そば」を運良く購入することができました。
有名駅そば「常盤軒」も残念ながら閉店(須田浩司撮影)。
この音威子府そばですが、音威子府駅で営業していた「常盤軒」がご主人の逝去により2021年に閉店。村内の食堂「一路食堂」も、飲食の提供を2022年4月30日で終了しました。さらに、黒いそばを製造している製麺所(畠山製麺)が、社長の高齢化を理由に同年8月末をもって製造を終了、廃業する予定です。そばの製造方法も門外不出といわれており、今のところ後継についての話は聞かれません。
現在、音威子府そばが食べられるのは、「道の駅おといねっぷ」と天塩川温泉内のレストランの2か所のみ。お土産のそばを含め、音威子府そばを食べるのであれば本当に今のうちかもしれません。
ずっと厳しかった「天北宗谷岬線」のいま
現在の「天北宗谷岬線」は、かつてない厳しい状況に置かれています。
もともと廃止代替バスの運行に際して、最初の5年間は国が赤字分を負担するというスキームであったため、国からの赤字補填でしのいだのち、6年目以降に転換交付金の運用益で赤字を補う予定でした。しかし、低金利で運用益が十分得られず収支は悪化。加えて、鉄道時代に比べて利用者が大幅に減少したことから、補助期間後の1994(平成6)年から基金を取り崩して赤字を補填するという状況が続きました。
さらに、2010年代後半には大きな問題が明らかに。当時、「稚内~浜頓別」「稚内~鬼志別」「鬼志別~音威子府」の3系統は、地域間幹線系統として国や北海道から補助を受けていましたが、地方自治体が住民に配布するために購入した回数券についても輸送量への反映を認めていたため、沿線自治体は2000(平成12)年から回数券を購入し「買い支え」をしていました。しかし、実際には購入代金だけをバス会社へ支払い、回数券の発券を受けてこなかったという事実が発覚したのです。
2017(平成29)年、会計検査院はこれを問題視し、「回数券の発券すらされていないのは運輸実績として認められない」と指摘、改善を指示します。回数券購入分が輸送量から除かれることになった結果、輸送量が補助基準を満たさなくなり、2019年10月、上記3系統は国の国庫補助金対象路線と北海道の補助対象から外れることになったのです。これにより、さらなる運行経費削減の必要性が生じたことから、2018年10月と2020年10月の2度にわたりダイヤ改正を実施します。
中頓別バスターミナルにて(須田浩司撮影)。
中頓別町の広報誌「広報なかとんべつ」2022年3月号によると、現在は「稚内~鬼志別」4往復が「広域生活交通路線」として北海道から補助を受けて運行しているほか、「鬼志別~音威子府」2往復、「鬼志別~中頓別」1.5往復、「鬼志別~浜頓別」0.5往復が市町村単独補助路線として運行していますが、コロナ禍の影響もあり、状況はますます厳しくなるばかり。
そこで、沿線自治体で組織する協議会が2022年2月に臨時総会を開き、2023年10月から新しい運行体系へ移行することを確認しました。
「新しい運行体系」で分断は決定的
その新しい運行体系とは、稚内~浜頓別間を既存の路線バスとして運行を続ける一方で、浜頓別~音威子府間はデマンド型交通と高校通学用バスへ移行するというもの。このうち、稚内~鬼志別間は地域間幹線系統路線として、鬼志別~浜頓別間は市町村単独補助路線として運行する予定です。
一部区間の他交通手段への移行については、一度検討されたことがありました。この時は、2016(平成28)年10月を目途に中頓別~音威子府間を乗合タクシーへ移行するというものでしたが、運行経費など課題があり、移行を断念したという経緯があります。今回は、コロナ禍による影響もあったことから、浜頓別~音威子府間のデマンド型交通・高校通学用バスへの移行は計画通りに進められそうです。
表示される行先と経由地が旅情を誘う(須田浩司撮影)。
運行距離約171kmの日本屈指長距離路線バス「天北宗谷岬線」。稚内~音威子府の全区間を路線バスで乗り通すのであれば、本当にいまのうちです。
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