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【戦後76年】「兄ちゃんはお星様になって」24歳の特攻隊員、戦地から“妹”へ送った遺書と「お人形」

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筆者の記憶に残る、76年前の8月15日

 また終戦記念日(終戦の日)が巡ってきました。

 あの日、1945(昭和20)年8月15日、小学6年生だった筆者(合田一道。ノンフィクション作家)は、友達とともに近くの広場で遊んでいて、ラジオから流れる天皇陛下のお言葉を聞いたのです。

1920(大正9)年4月生まれ、安原正文陸軍大尉。1945(昭和20)年3月29日、石垣基地より出撃し、没した(画像:靖国神社 提供)

 話の内容が分からず困惑していると、自転車に乗って通りがかった寺の僧侶に、

「こらっ、何してるっ。敵が来るっ。早く家に帰って母さんや姉さんを守れっ」

 そう大声で怒鳴られ、夢中になってわが家へ駆け戻ったのでした。

 子ども心に、戦争に負けるなんて思ってもいなかったのです。

 大本営発表の「勝った、勝った」の宣伝文句、つまりプロパガンダに踊らされて、東京が敵機B29の大空襲により焼け野原になり、広島・長崎に新型爆弾が落ちたというのに、誰もが、いまに神風が吹く、と信じていたのですから、いま思うと笑い話みたいです。

 ですから後年、発表された学徒出陣兵の『きけ、わだつみの声』など、戦線へ駆り出されて死んでいった若者たちの声を知るにつけ、悔しさが込み上げるのです。

ある特攻隊員が戦地から送った人形

ある特攻隊員が戦地から送った人形

 2020年のこの時期に、若き特攻隊の遺書にまつわる記事(※)を書き、反響の大きさに驚かされました。

※アーバン ライフ メトロ、2020年8月10日配信記事「【終戦75年】「俺が死んだら何人泣くべ」 特攻隊員が残した覚悟の遺書と、たったひと言の偽らざる気持ち」

 今回は、あるひとりの特攻隊員から送り戻されてきた人形のお話を紹介しましょう。

靖国神社に展示されている遺書

 特別攻撃隊誠第17飛行隊の安原正文陸軍大尉(享年24、高知県出身)が、石垣基地から出撃し、奥武島付近で戦死したのは1945(昭和20)年3月29日。

 出撃前に書いた遺書が靖国神社(千代田区九段北)に展示されています。

千代田区九段北の靖国神社(画像:写真AC)

「沢山貰った御手紙は、みなポケットに入れて持って行きます。御守袋(御人形の寝ている)も忘れず連れて行きます。」

「コリントももう出来なくなりましたが、これからは兄ちゃんは御星様の仲間に入って 千鶴ちゃんが立派な人になるのを見守ってゐます。」

「泣いたりなどしないで、朗らかに笑って 兄ちゃんが手柄を立てるのを祈って下さい。」

「御父さんや御母さんの云ひつけを守って、立派な人になって下さい。さやうなら
 三月二十五日      正文
 千鶴子ちゃんへ」

「ありがとう 御礼を云ひます」

「ありがとう 御礼を云ひます」

 文面を一読して、死に逝く兄が4日前に妹にあてた便りだと分かり、胸が熱くなりました。

 ところが便りはもう1通あり、次の文面に手作りの人形が添えられていたのです。

「御人形よ 風鈴よ 鶴よ
 はるばる遠くの島まで来て呉れて、毎日みんなを慰めて呉れたね、ありがとう 御礼を云ひます。」

「誰も居なくなったら 花蓮港のお母さんの処へ帰って 何時迄でも可愛がって貰ひなさい さよなら」

安原大尉の便りの一部(画像:合田一道)

 おやっ、と思いました。

 最初の便りでは、「御守袋(御人形の寝ている)も忘れずに連れて行く」とあるのに、その人形が残されていたのです。なぜでしょう。

 靖国神社の図録を読み、謎が解けました。

 安原少尉(当時)ら誠隊隊員は石垣基地から出撃する前、台湾の花蓮港飛行場近くの五十嵐トキさん宅で数日間を過ごしたのです。

 そのときの様子をトキさんはこう述べています。

「安原少尉は、ほかの隊員とともに元気に歌を歌ったり、千鶴子(小学6年生)を相手に、石けりやコリントゲームをして遊んだり、生きて帰れぬ人とはとても思えませんでした。私をお母さんと呼び、千鶴子を妹のようにかわいがってくれました」

人形を死地へ連れて行かなかったワケ

人形を死地へ連れて行かなかったワケ

 この滞在中に千鶴子ちゃんは、母トキさんが縫い上げてくれた人形を、安原少尉に贈ったのです。「私の一番大事なもの、あげる」とでも言って手渡したのでしょう。

 同宅での最後の日に、晩餐会を開いてもらい、石垣基地へ移りますが、その直後に千鶴子ちゃんに出したのが前掲の便り。続いて出撃命令が出た前夜の3月28日に、人形を添えた後の便りを書いた、これが絶筆となったのです。

 安原少尉は最初、人形も便りとともに死地へ連れていくつもりでしたが、人形そのものが千鶴子ちゃんに思えて、連れていくのをためらった。

 そこで人形に「みんなを慰めてくれてありがとう」と礼を述べ、「誰も居なくなったら、花蓮港のお母さんの処へ帰って 可愛がって貰ひなさい」と書いて、トキさんの元へ送り返した――。そう思えてならないのです。

 トキさんは、出撃した後に安原少尉から届いた便りを読み、その心情に思いをはせつつ、前に届いた便りと人形を併せて「遺書・遺品」として靖国神社に納めたのです。

 手作りの人形は76年たったいまも、特攻隊員たちの霊を慰めるように、安置されています。

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