渋谷センター街すぐそばに「アフターコロナ時代」を予期した坂があった【連載】拝啓、坂の上から(4)
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カタカナだらけのコロナ禍
今回のコロナ禍では、
・ステイホーム(自宅にいること)
・テレワーク(オフィスに出勤せずに業務を行うこと)
・アウトブレイク(突発的な集団発生)
・オーバーシュート(爆発的患者急増)
・パンデミック(世界的大流行)
・クラスター(小規模な感染者集団)
・ロックダウン(都市封鎖)
・スーパースプレッダー(多くの人に感染させる人)
・ソーシャルディタンス(社会的距離)
など、さまざまなカタカナ語が注目を集めました。
カタカナばかりで、まるでSFパニック映画のタイトルのようですね。わかりにくいから日本語にすべきだ――なんてご意見の人も多かったかもしれません。
このように外来語で表現したために、漢字表現で醸し出される厳格さや深刻さが消えてしまい、耳にしたときのストレスが軽減されている気がします。とはいえ、濁音や音引きによる強調効果のある語感で、耳目を引かずにはいられません。
「間合い」を激変させたコロナ禍
そんな中でもわれわれの行動を直接的に規制したのは、「ステイホーム」と「ソーシャルディスタンス」ではないでしょうか。
「自宅にいること」と「社会的距離」がそれぞれの意味になりますが、これまでの人の絆や間隔を再定義した、ある意味「冷徹な言葉」だとも言えます。
実際そのひんやりした作法にとまどう人々が世界各地に続出し、時にトラブルに発展する場面もニュースで見られました。
そういった意味で今回のコロナ渦は各国の文化の一部と言える、人と人との「間合い」を激変させました。
日本人の対人距離は、欧米人よりも狭いとよく言われます。
その基本となっているのが、和室での立ち振る舞いです。「起きて半畳寝て一畳」ということわざがありますが、これは日本人のパーソナルスペース(対人関係の空間的距離感)をよく言い表しています。
「人間」について考えさせたコロナ禍
そんな畳を基準とした日本人のパーソナルスペースも、近代の洋風化や都市生活の変化など、時代や社会の動きに合わせながら柔軟に変化し続けてきたのかもしれません。
日本が世界に誇る「おもてなし」も、このパーソナルスペースを一時的に狭くし、寄り添わないと成立しませんし、相手のパーソナルスペースに入らなければ、スマートフォンの地図サービスをのぞき込み、顔をつきあわせて道も教えることはできません。
日本女性が優しくて親切だと、世界中の男性の間でたたえられているのも、日本女性の方が海外の女性よりもパーソナルスペースが狭く、海外の男性にとって親密に感じさせるからだとも一部では言われています。
しかしそんな日本人の対人距離も、今回のコロナ渦で以前よりも大きくなり、どこかよそよそしくなったように感じられます。加えて顔の表情もマスクでわかりにくく、意思の疎通もままならない始末。「人の間」と書く「人間」の意味を改めて考えさせられました。
ロフトに沿って続く上り坂
そんな人と人との関係性にコミットした坂が都内にあるのをご存じでしょうか。場所は渋谷のど真ん中、その名もまさかの「間坂(まさか)」(渋谷区宇田川町)です。
坂下の井の頭通りから公園通りを結ぶこの坂は、正式名称を「特別区道第979号線」と言います。
間坂は、1987(昭和62)年にオープンした生活雑貨専門店「渋谷ロフト」(同)に合わせて作られた比較的新しい坂です。もともと西武百貨店の納品口があった人通りの少ない路地を舗装し、小道として新たに誕生させたのでした。
名前は一般公募で選ばれ、抽選で選ばれたひとりに坂の街として世界的に有名な、米国のサンフランシスコへの旅行が当時プレゼントされています。
ちなみに名前の由来は、ファッションビルや映画館が立ち並ぶビルとビルの「間」にあることと、行き交う人と人との「間」をイメージしたそうです。
反転文字で坂の名前を刻んだ石碑
坂下にたたずむとまず目に付くのが、千客万来を祈願した2体が寄り添う道祖神の石像です。
さらに坂を登り切った左側には、まるで落款印(らっかんいん。書・絵画などに押す印鑑)のように反転させた文字で坂の名前を刻んだ石碑も設置されています。
間坂を管理するロフト(千代田区九段北)に聞くと、当時「ロフト」全体のデザインを担当した田中一光、小池一子、杉本貴志といった日本を代表するクリエーターたちによって間坂はデザインされたそうで、当初は坂の中腹に打ち水もできる手押しのポンプ井戸や縁台を設置し、井戸端もしつらえてあったといいます。
間坂で考える世の「まさか」
さてこの坂のある渋谷地域は、もともと太古から注ぎ込む渋谷川や宇田川などによって削られ造成された谷間で、傾斜地が随所にある「坂の街」として知られています。
そのため渋谷の街をブラブラと歩いていて突然この坂に出くわすと、「“まさか”こんなところに坂が」という戸惑いと同時に、この坂を上がり路地を通り抜けた先にはなにか面白おかしいことがあるかもと期待させる、街のアクセントになっているように思えます。
今回のコロナ渦では、日常的な他人との間隔や衛生観念の見直しなど、戦後の日本人が経験しなかったさまざまな「まさか」が起こりました。
これからのアフターコロナ時代を想像すると、この坂の名前はこれまでに増して感慨深く感じられるのでした。
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