開店はなんと早朝5時 目黒の創業78年「老舗パン店」には一体どんな客がやって来るのか?
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日の出より早い開店
8月下旬の金曜日。熱帯夜の気配が残る、午前4時53分。
日の出よりも12分早く、目黒区目黒本町にある「碑文谷(ひもんや)ベーカリー」のシャッターがガーッと音を立てて開きました。
まだ薄暗い都道420号沿いの歩道に、店内の照明から明かりがこぼれます。
年季の入ったガラスケースや棚には、調理パンが50種類以上、弁当や総菜は十数種類ずつ。弁当の透明パックを手に持つとまだ温かく、ぎゅうぎゅうに詰まったおかずがズシリと重い。どれも作り立てです。
開店すぐに客が続々
程なく入り口の自動ドアが開いて、早速今日ひとり目の客がやってきました。
40代くらいの男性、聞けば映像関係の仕事をしていて、今日も朝からロケハン(ロケ地の下見)へ向かうところなのだそう。
「ここはおいしいし安いからよく使いますよ。仲間も喜ぶんで」と、お弁当10個と総菜パンを袋いっぱい買い込んで、足早に店を後にしていきました。
店頭の仕事をほぼひとりで切り盛りするのは、佐藤光江さん。78歳。会計に使うのは電動のレジスターではなく、これまた年季の入った茶色いソロバンです。
「朝が一番忙しい時間なの」という言葉通り、午前5時を回ったばかりの店には次々と客が入ってきます。
夜と朝が交差する店
例えば、ミュージシャンだという39歳の男性。同じ目黒区内のスタジオで夜通し作曲活動にいそしんで、つい先ほど終わったばかり。「いつもはお弁当を買うけど、今日は何となくパン。これを食べたら寝ます」と、家族の待つ自宅へと帰って行きました。
59歳の男性は、横浜市港北区の自宅から自家用車で30分ほど走って、出勤途中に立ち寄りました。会社は店の近くにあるバス会社。運転手をしているそうです。
「30年前からずっと同じ味ですよ。途中ちょっと値上げはあったけど、味はずっと同じまま。おいしいしボリューム満点。ありがたいですね。食べてみれば分かりますよ」
最近ちょっと痛む腰に、佐藤さんと、調理場を担当する佐藤さんの娘に湿布を貼ってもらって、今日もまた1日ハンドルを握ります。

見れば、先ほどまでほとんど車通りが無かった都道420号に、入れ代わり立ち代わり一時駐車していく自家用車や営業車が。皆この店の客のよう。車を降り、足早に店内へ入ってきます。自転車やバイクの人もいます。
夜勤明けの人、早朝出勤の人、「眠れなくて、本を読んでいたら朝になった」という若い男性や、早起きしたひとり暮らしのお年寄り。
夜の終わりと朝の始まりが入り交じる碑文谷ベーカリーは、交差点さながらさまざまな人が訪れては去っていきます。
「おはようございます、いらっしゃいませ」と大きな声であいさつする佐藤さんに、多くの客が「おはようございまーす」と返すのは、この店が古い常連たちに長く愛されている証しかもしれません。
そして、まだほとんどの住民が寝静まっている早朝という静けさが、店と客との関係をより近しいものにしているようにも感じられます。
看板お母さんの叱咤
碑文谷ベーカリーは1942(昭和17)年に創業した、町の小さなパン屋さん。3代続く変わらぬレシピと、午前5時開店という営業時間を守り続けて、78年めを迎えました。
同店の客で圧倒的に多いのは男性たち。
バスやタクシーの運転手、工事現場の作業員、警察官など、深夜から早朝に働いている体力自慢の男性がひっきりなしに店を訪れます。ガッチリした体形の彼らには、特盛りの弁当や種類豊富なパンがありがたいようです。
そんな男性たちを相手する佐藤さんは、嫁入りしてからずっと店に立つ「看板お母さん」です。

「いらっしゃいませ。いつものね。出来たてだよ」
「あら、今日はちゃんと袋(マイバッグ)持ってきたのね。えらいえらい」
客の顔を見るなり、すぐにガラスケースから「いつもの」パンを取り出す佐藤さん。明るい調子の叱咤(しった)激励を受ければ、どんな屈強な男性もつい相好を崩してしまう様は、本当のお母さんか学級担任の先生と話している子どものように見えてきます。
もちろん、女性の客もいます。午前6時10分、この日初めての女性客が来店しました。
夫と娘と3人暮らしという30代の女性は、「お化粧もしないまま来ちゃったんですけど」と少し恥ずかしそう。「朝、ご飯を炊き忘れちゃったときなんかに買いに来ます。お父さん(夫)も娘もここのが好きで」と、家族3人の朝ご飯用にパンを三つ買っていきました。
また今日も始まる1日
裏の調理場からは出来たてのパンや弁当が次々に補充されます。6時半には、安くて人気のウインナー弁当が店頭に並びました。見計らったように買いに来る常連の男性がいます。
6時半を過ぎると次第に増えてくるのは、ジョギング帰り風の夫婦客たち。たくさんの品数を前に迷う女性に、佐藤さんが「これが今の限定商品ですよ」と甘い菓子パンを薦めました。
7時を回る頃には人通りも車もすっかり増えて、街に活気があふれてきます。開店直後に来店した男性運転手が勤めるバス会社のバスも乗客を乗せて走っていました。
近くの警察署の若手署員は、当直明けの署員のために弁当をまとめて購入していきます。また暑い夏の1日が始まろうとしています。
便利な店が増えた今
8時前、少しずつ客が途絶えだしたのを見計らって、佐藤さんが小さな椅子に腰を下ろしました。ふうっと小さくため息をついて、ひと休みです。
「コロナの前は、高校の購買とかにもパンを卸していたんだけどね、それが今は無くなっちゃったから、ちょっと寂しいね」
1階でパン店を営むビルの上階で暮らす佐藤さん。暑さの夏も、こごえる冬も、「うしみつどき(午前2時頃)には」店に降りて、家族とともに仕込みに専念する毎日です。

常連客に求められるうちはこの店を守り続けたいけれど、やっぱり不安もあると言います。
「うちみたいなお店は、だんだんだんだん無くなっていくよ。便利なお店がたくさんできて、やっつけられちゃうからね」
便利な店とは、例えばコンビニ。
都道を挟んではす向かいにも、全国チェーンのコンビニが営業しています。そちらを利用する住民ももちろん多いのでしょうが、それでも24時間営業のコンビニではなく5時の開店を待って碑文谷ベーカリーを訪れる客は絶えません。なぜなのでしょうか。
この店に通う理由は
「やっぱり、作り立ての安心感というのでしょうかね。買ったときまだパンやお弁当が温かいと、ちょっとうれしくなりませんか」と、40代の会社員男性。
「これだけの量をこの値段では、コンビニでは買えないですから」と、30歳の男性。
「家族が皆、コンビニよりここの味が好きなので」と30代の女性。
「ここでちょっとおしゃべりすると、1日が始まったなーという気になるもんでね」。そう話す男性は、次の10月で70歳。
7年ほど前に妻を病気で亡くしてからはひとり暮らし。自分でも料理をするけれど、碑文谷ベーカリーのパンやお弁当、それから佐藤さんや店員と話すことが好きなのだそう。
毎朝5時台に起きて、仏壇に手を合わせてから、自転車に乗って6時前にはこの店へやってくると言います。

開店は午前5時、閉店はだいたい14時頃。ほかの店とはちょっと違った営業時間の老舗パン店は、78年の歴史を積み上げる中で、地域にとって替えのきかない存在となっているようです。
朝の混雑がひと段落すると、次は昼どきのラッシュが待っています。
「さて、今日ももうひと頑張りだね」。佐藤さんが、よいしょっと椅子から腰を上げました。
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