海自の「最新護衛艦」売って! いや“アタマだけ”売って! 政府が夢見た“輸出”に現実味 何がよかったのか?
- 乗りものニュース |
日本の最新護衛艦の輸出、あるいは“頭頂部”だけ輸出に成功する可能性が高まっているようです。それぞれ何がメリットなのでしょうか。ただし“そのまま輸出”とならない可能性もあります。
もがみ型の「アタマだけください」防衛省のアピール実る?
中谷 元防衛大臣は2024年11月15日、日本政府とインド政府が、海上自衛隊の「もがみ」型護衛艦に搭載されている統合アンテナマスト「ユニコーン」をインドに移転するためのMOI(細目取り決め)に署名したことを明らかにしました。
ユニコーンが特徴のもがみ型護衛艦「もがみ」(画像:海上自衛隊)。
ユニコーンは「複合通信空中線NORA-50」が正式名称です。形状が想像上の生物である一角獣(ユニコーン)を髣髴とさせることから、そのニックネームが与えられました。
従来の護衛艦は各種アンテナをマストの複数箇所に取り付けていましたが、アンテナはレーダーに捉えられやすく、アンテナは増えれば増えるほど、ステルス性能の面では不利になっていました。こうしたアンテナを1本の支柱に集約し、ステルス性を高めるシステムがユニコーンです。
このニックネームには、海上自衛隊の乗員や日本国民に親しみをもってもらいたいという狙いに加えて、輸出を見据えて外国人にアピールしたい狙いもあります。
防衛省はユニコーンを搭載するもがみ型の輸出仕様である「FFM」に加えて、ユニコーンのみの輸出も見込んで、外国で開催される防衛装備展示会に模型を出品し、アピールを行っています。
11月16日付のインドの新聞「ザ・ヒンドゥー」は、今回日印両国が署名したMOIについて、両国が協力してインド海軍の艦艇にユニコーンを搭載するための共同開発に関するものだと報じています。
今回はインド海軍も、同国企業が日本の協力を得て、艦艇に搭載する先進システムの共同開発・共同生産のMOIに署名したと述べていますので、純粋にユニコーンの輸出成功というわけではないのですが、このまま順調に推移すれば、インドへの防衛装備品の技術移転は、これが初の事例となります。
“フネそのもの”も輸出なるか?
11月にはインドと時をほぼ同じくして、ユニコーンを搭載するもがみ型が、オーストラリア海軍の新型水上艦艇の最終候補に選ばれたと複数メディアが報じています。
オーストラリアは1990年代初頭から2000年代初頭にかけて、アンザック級フリゲート8隻を就役させましたが、1番艦「アンザック」は2024年5月に退役。残る7隻も老朽化により順次退役することから、後継する新型水上艦艇の導入に向けた作業を進めています。
アンザック級後継には日本のほか、ドイツ、韓国、スペインが提案し、日本とドイツの提案が最終候補に残ったという推移のようです。11月25日にはオーストラリア国防省も正式に、日本とドイツのプランを選抜したと発表しました。
しかし2024年9月2日付の読売新聞は、日本政府がオーストラリア政府に対して、もがみ型をベースとする水上戦闘艦艇の共同開発を提案したと報じています。このため、たとえ日本の提案が採用されたとしても、もがみ型をそのまま輸出するのではなく、もがみ型をベースとする新型水上戦闘艦艇を日豪両国が共同で開発し、オーストラリアで建造される可能性もなくはありません。
この、もがみ型をベースとする新型水上戦闘艦とは、「FFM-AAW」のことを示すのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
もがみ。ユニコーンの存在感は抜群だ(画像:海上自衛隊)。
FFM-AAWは前に述べたFFMの派生型です。2023年11月7日から9日まで、オーストラリアのICYシドニーで開催された海洋防衛の総合イベント「INDO PACIFIC 2023」でも、防衛装備庁と三菱重工業が模型を展示していました。
FFM-AAWはステルス性能を追及した船体の設計やユニコーンマストなど、もがみ型の特長は継承しつつも船体を大型化したものです。
ドイツの提案より優れる?いい勝負?キモは“対空戦性能”
FFM-AAWの「AAW」はAnti Air Warfareすなわち「対空戦」を意味しており、船体の大型化によって生じた余裕を利用して、「セル」と呼ばれるミサイルの発射筒を兼ねた保管容器の数を、もがみ型の16セルから32セルに倍増させています。
海上自衛隊はセル数が少ないもがみ型のVLS(垂直発発射装置)には、ミサイルの先端に魚雷を搭載した武器で、通常の魚雷に比べて遠距離に位置する潜水艦を攻撃できる「07式垂直発射魚雷投射ロケット」のみを搭載する見込みです。「スタンダード」などの中射程艦対空ミサイルを搭載する予定はありません。
対してFFM-AAWはセル数の増加によって、「スタンダード」などを搭載する余地を生み出し、もがみ型よりも対空戦闘能力を高めている点が特長となっています。
2024年退役したオーストラリア海軍の「アンザック」。MEKO 200型フリゲートの設計を採用(画像:オーストラリア国防省)。
ドイツが提案したと見られるMEKO A-200型は南アフリカなどへの輸出に成功している実績などで日本をリードしていますが、その一方で対空戦闘能力ではFFM-AAWの方が優れていると筆者は思いますし、オーストラリアが新型水上戦闘艦に高い対空戦闘能力を求めるのであれば、良い勝負ができるのではないかと思います。
なおFFM-AAWは、防衛省が12隻の建造を計画している新型護衛艦のベースにもなる予定で、いずれ日本国内でもよく見る護衛艦になるものと思われます。
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