「南アルプストンネル」へ行ってみた リニア中央新幹線 建設工事の注目ポイント
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リニア中央新幹線の建設にあたって、大きな注目ポイントになっている南アルプストンネル。携帯電話の電波も届かない静かな山中でいま、建設が進行中です。現地では、意外な点も多くありました。
人口が日本一少ない町で
まず品川~名古屋間で、JR東海が建設を進めているリニア中央新幹線。南アルプストンネルは、その工事で特にポイントとなる箇所のひとつです。
山梨県早川町と長野県大鹿村を結ぶ長さ約25kmもの山岳トンネルで、標高3000m級の山脈を貫き、土かぶり(地表までの距離)が最大およそ1400mになることから難工事も予想され、リニア中央新幹線建設にあたり早期に着工されました。
また、このトンネルによって大井川の水量が減少する懸念があるとして静岡県が工事開始を認めておらず、2027年の開業予定に影響する可能性が出ていることからも、ポイントになっている箇所です。
リニア中央新幹線南アルプストンネルの工事現場(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
この南アルプストンネルの工事現場はいまどんな状況なのか、2021年5月12日(水)、現地を取材しました。
向かったのは、南アルプストンネル山梨工区の広河原非常口建設現場。それがある山梨県早川町は96%が森林で、人口994人と、自然人口が日本一少ない町です(2021年3月1日時点)。
早川の谷間を上流へ向かう(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
甲府駅を出発してから約1時間、JR東海が取材向けに用意した貸切バスは、富士川の支流である早川をさかのぼります。見晴らしのない谷間の車窓が続き、時折現れるこぢんまりした平地に、民家や学校などが肩を寄せ合っています。そしてしばしば発生土置き場も現れ、この谷間の上流に「現場」があることをうかがわせます。
約1時間半が甲府駅から経過した頃、早川沿いの少し開けた集落付近に設けられたプレハブ造りの工事事務所へ到着しました。が、目指す広河原非常口はまだ先です。ここでワンボックスカーに乗り換えます。
糸魚川静岡構造線を越え 電波は「圏外」に
乗り換えたワンボックスカーはまもなく、早川の支流である内河内川の谷間へ進路を変更。生い茂った木々、谷間の狭さから昼間でもどこか暗く、対向車とのすれ違いも難儀するつづら折りの山道で、民家の類は姿を消し、静かで秘境的な雰囲気が漂い始めます。
糸魚川静岡構造線、フォッサマグナの存在を知らせる案内看板(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
この内河内川の谷間の道は入口付近で、地質的に日本を東西に分ける大断層である糸魚川静岡構造線(フォッサマグナの西辺)の上を通過。それを知らせる案内看板が立っていました。
ちなみに、リニア中央新幹線の南アルプストンネルも糸魚川静岡構造線を貫いていますが、すでにそこは掘削済みで、明らかに地質は変わったものの、工事的には特に何もなかったそうです。
さて、車窓は山と谷ばかりで、奥地でも比較的強いといわれるドコモの電波もいつの間にか圏外に。知らなければどこへ連れて行かれるんだろうと不安になるような風景を10分ほど走って、到着しました。広河原非常口の坑口ヤードです。
広河原非常口の坑口ヤード(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
山中に現れた坑口ヤードは、作業員詰め所、トンネル内への送風設備、発生土をトンネル外へ運ぶベルトコンベア、発生土の仮置き場、火薬類を取り扱う火工場からなり、広さは2300平方メートル(約700坪)。
広河原非常口坑口ヤード。右下は発生土の仮置き場(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
このほか、工事に使うコンクリートのプラントと別の発生土仮置き場が、少し離れた場所に存在。谷間の険しい地形で、まとまってそれらを設置できる平地がないため、分かれています。
広河原非常口坑口ヤードにて、GPSとスマホで現在位置を表示。静岡県境が近い等高線ばかりの場所(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
広河原非常口の現場では、およそ40名の作業員が昼夜2交代制で工事を遂行しています。作業員たちはこの奥地で寝泊まりしているわけではなく、先ほどワンボックスカーへ乗り換えたあたりの、圏外ではない集落付近に宿舎が存在。始業に合わせ宿舎から現場へ、終業とともに宿舎へ、という「通勤」をしているとのこと。
また工事は毎週日曜と月1の土曜、年末年始やお盆などがお休みで、リフレッシュに甲府方面へ出かけたりするそうです。
南アルプストンネルの「作り方」 長さ4.1kmの斜坑
いよいよ、リニア中央新幹線南アルプストンネルの工事現場へ入りますが、まずその「作り方」についてごく簡単に説明します。
7か所設けられる南アルプストンネルの斜坑(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
長いトンネルを掘るにあたり、両側の出入口から掘り進めるだけでは、完成まで時間を要します。しかし、たとえばそのトンネルの中間地点へ地表から別に作業用トンネルを掘れば、両側の出入口、そして中間地点からトンネル掘削が可能になり、工期を短縮できます(※あくまでイメージで、南アルプストンネルが3か所から掘削しているわけではない)。
また、長いトンネルには非常口を設ける必要がありますが、この作業用トンネルを非常口に転用すれば、一石二鳥です。
広河原非常口の斜坑入口(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
今回訪れた広河原非常口ではいま、この作業用トンネル(斜坑)を建設しています。掘り進めると、南アルプストンネルの山梨県側出入口から5kmほどの地点に到達。そしてそこから、超電導リニアが500km/hで走る本線トンネルなどの掘削が行われます。また将来的にこの斜坑は、非常口などとして使用されます。
南アルプストンネルでは、こうした斜坑(非常口)が7か所設けられます。広河原非常口は、山梨側出入口から2番目の非常口です。
静岡県まで約2kmの地点へ出る広河原非常口の斜坑(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
さてこの広河原非常口の斜坑は、長さが約4.1kmもあります。
広河原非常口の坑口から南アルプストンネルの本坑まで、真北に掘り進めるのが近いですが、北西方向へ長く掘り進むことで、山梨・静岡県境まで約2kmの地点へ到達するようにされています。
標高3000m級の山脈を貫く南アルプストンネル、その地表側のどこにでも非常口の斜坑を設けられるわけではありません。また非常口などになる斜坑は、ある程度の間隔を空けて本線トンネルへ到達するようにしないと意味がないため、こうした長い斜坑が生まれるわけです。
ずっと上り坂だったり…締まったいい山だったり…色々「意外」だった
いよいよ、南アルプストンネル広河原非常口の斜坑へ入ります。現在、全長約4.1kmのうち、3.3kmを掘削済みだそうです。
広河原非常口の斜坑。坂道の上から下へ向けて撮影(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
入って意外だったのが、ずっと上り坂だったこと。坑口の標高は650mで、切羽(掘削の最先端)の標高は900mといいます。
考えてみれば、標高3000m級の山脈を貫く南アルプストンネルは、トンネル自体も標高の高い地中を通過させないと、トンネルの長さ、土かぶり(地表までの距離)がとても大きくなり、工事が困難になるなどするわけです。「トンネルは下のほうにある」という先入観がありました。
広河原非常口斜坑の土かぶり量を表した図(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
ワンボックスカーで斜坑に入って13分ほどで、坑口から約3.3km、標高約900mの切羽に到着。地表の標高は約1700m、土かぶりは約800mだそうですが、担当者によると、この「地下800m」で湧水がほとんどないことに驚いたそうです。
この斜坑の湧水は、坑口で毎分0.4t。トンネル工事的には「ない」とできる量で、途中、200m程度の土かぶりで川の下を通過しても、水が出なかったとのこと。
「トンネル工事は掘ってみないと分からない」とも言われますが、広河原非常口の斜坑では粘板岩など非常に地質が固く、「締まったいい山」だそうです。ちなみにこの粘板岩を使った硯が、この山梨県早川町の特産品(雨畑硯)になっています。
掘削で出た粘板岩(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
この粘板岩の塊(30cm×20cm×8cmぐらい)を持ってみましたが、見た目以上に重いのにも驚きました。写真中央の粘板岩を片手で持ち上げようとしたら、持ち上がらないどころか、手首が死にそうになりました。
また驚いたといえば、切羽でワンボックスカーから降りると、涼やかな風が吹いていたことも意外でした。坑口にあった送風設備の効果、明らかです。送風管の直径は2mあるそうです。
待っていた「フルオートジャンボ」 そして震えるポケット
斜坑の切羽には、「フルオートジャンボ」という機械が待っていました。掘削にあたり、正面の岩盤に100か所の小さな穴(直径45mm)をあけ、そこにダイナマイトを設置、発破をかけるという流れなのですが、その小さな穴を、データを入力すれば自動であけてくれる最新鋭のマシンなのだそうです。
1回の発破で約100kgの爆薬を使い、1.2m掘削できるとのこと。1日に3回から4回発破するため、掘削速度は1日4mほどになります。
最新鋭の「フルオートジャンボ」。側壁のリボンはプリズムの存在位置を示す(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
掘削工法は「NATM(新オーストリアトンネル工法)」で、「山を観察しながら状況を見て掘る工法」とも担当者は言います。掘削されたトンネルには10mごとに5か所、プリズムを設置し、それを使ってミリ単位で、トンネルの挙動を観察。状況によって壁の厚みを増したり、岩盤とコンクリートを固定するロックボルトを増やしたりします。
広河原非常口の斜坑掘削は、残り約800m。これをあと約1年かけて掘ったあと、そこから超電導リニアが500km/hで走る本線トンネルなどが掘られます。
なおJR東海によると、南アルプストンネルの着工済み工区(山梨と長野)では、着実に工事が進んでいるそうです(山梨工区の早川非常口では本線トンネルの掘削も進行中)。
付近で南アルプストンネルの工事が行われている内河内川の谷間の道。写真は行きの際のもの(2021年5月12日、恵 知仁撮影)。
取材を終え、斜坑の外へ出て、ふたたび秘境的な雰囲気が漂う内河内川の谷間の道を帰ります。その静けさのすぐ裏側で、南アルプスを貫く世紀の大工事が進んでいました。
ふと、ポケットが震えます。スマホに大量のメールが着信していました。
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