昭和の乗り鉄を襲った「食料難」のリアル 駅そばが主食、駅弁は贅沢品? コンビニがなかった時代の飢餓旅
- 乗りものニュース |

山陰本線の旅の主食は「とうふちくわ」
筆者(鉄道ライター:杉山淳一)が令和時代の乗り鉄で困っていること――その筆頭は「駅弁屋さんの閉店が早い」です。朝ご飯や昼ご飯の時は買えますが、晩ご飯に買おうと思っても売り切れ、または閉店です。昭和の頃よりたくさん売れないから、製造量が少ないのでしょうか。あるいは「働き方改革」とやらで、夕方に出荷する駅弁を作っていないのでしょうか。そもそも、駅弁が昔ほど売れなくて、駅弁屋さんの経営が厳しいとも聞いています。大人になって、せっかく駅弁を買えるようになったのに。
コンビニのファミリーマートが入居するJR佐賀駅(画像:PIXSTAR / PIXTA)
駅弁屋さんが繁盛した昭和時代、朝昼晩いつでも駅弁を買えました。しかし当時、高校生だった筆者にとって、500円以上の駅弁は贅沢品でした。そもそも貧乏でした。親からもらったお小遣いでは旅の資金に足りず、学校はアルバイト禁止だったので、叔父が営む会社で単純作業の仕事を手伝い、お小遣いをもらうという形でした。
その少ない予算から、まずきっぷ代を確保します。次に宿代を引いて、残りが食費とジュース代です。長距離片道きっぷや「青春18きっぷ」など安いきっぷを駆使したり、「ワイド周遊券」で夜行列車をホテル代わりにしたりと節約して、せめて1日1食はご飯を食べたい。できれば駅弁を食べたい。そうなると、朝ご飯は駅の立ち食いそば、昼ご飯は抜いて、晩ご飯は駅弁か駅前のラーメン屋さんでした。
私の乗り鉄旅は「始発列車から終列車まで」ですから、宿に着く頃には食堂は終わっていて、開いている店は飲み屋さんくらい。未成年ですし、お酒抜きでも値段は高そうだし、というわけで、駅弁かラーメンくらいしか選択肢はありません。どちらも見つけられなかった場合のために、おせんべいやスナック菓子を「非常食」としてカバンの中に入れていました。それでも乗り鉄が楽しかったので、“飢餓”と闘いながら旅をしました。
最も辛かった路線は山陰本線でした。筆者は偏食で魚介類を食べられません。潮の香りが苦手です。ところが山陰本線ときたら、駅弁を売る店がたくさんあるのに、どこまで行っても「かにめし」「かにちらし」などカニばかり。かんぴょう巻きやいなり寿司を詰めた助六を見つけたら大喜びです。
一緒に旅した友人はかにめしをパクパク食べながら、「申し訳ないねぇ」と言いつつニコニコしていました。あの旅で、私の主食は真空パックの「とうふちくわ」でした。ちくわなど魚肉煉り製品は魚介独特の臭いが少ないので食べられました。むしろおでんは好きな方です。
農林水産省の公式サイトによると、とうふちくわは鳥取県の郷土料理だそうです。江戸時代、この地方は漁港が少なくて魚は貴重品でした。そこで、鳥取藩主で徳川家の血を引く池田光仲が「魚の代わりにとうふを食べなさい」と言ったことから考案されたそうです。
「木綿豆腐と魚のすり身をほぼ7対3の割合で混ぜて蒸し上げる」とのこと。なるほど、だから魚介の香りが少なめで、とうふよりうまみが多かったんですね。こっそり魚を食べたいけれど、お上に知られないようにとうふと混ぜたのでしょうか。
とうふちくわの丸かじり。私にとって思い出の味です。今度、山陰方面に出かけたらまた食べたいと思います。
救世主はコンビニ
貧乏旅行は徒歩や自転車を指す場合が多く、列車に乗っている時点で貧乏とはいえなかったかもしれません。いつも腹を空かせて食事のことばかり考えていましたが、1日1回でも駅弁を食べていた私は贅沢だったかもしれません。
山陰本線の余部鉄橋を通過する「かにカニエクスプレス」(筆者撮影)
2005年に日本の鉄道駅をすべて訪問したトラベルライターの横見浩彦氏(2025年死去)は、旅費を節約するために、食事は常にジャムを塗った食パンだったそうです。さらに宿泊は、寝袋持参で「駅寝」していたとのこと。ほとんど登山者ですね。晩年は女子鉄タレントさんと楽しそうに旅してらっしゃいましたが、そこに至るまではさながら“冒険者”でした。
横見氏の禁欲的な旅の姿勢に、大正から昭和にかけて活躍した登山家・加藤文太郎氏の姿が重なります。加藤文太郎氏は単独で冬の槍ヶ岳の登頂や北アルプス単独縦走に成功するなどで知られました。新田二郎の小説『孤高の人』のモデルです。そのような加藤文太郎氏の登山中の食料は、甘納豆、干し小魚、炒り豆だったそうです。
乗り鉄は山好きほどではありませんが、当時は理解してくれる人も少なく、孤独で禁欲的なところには通じるものがあると思います。そして現在はどうでしょうか。よほど人気がない駅を除き、ほとんどの駅のそばにコンビニエンスストアがあります。
日本のコンビニの形態は1960年代に始まり、1970年代になるとココストア(1971、後にファミリーマートに吸収)、セイコーマート(1971)、ファミリーマート(1973)、セブン‐イレブン(1974)、ローソン(1975)など、現在の大手コンビニチェーンが出揃います。筆者の高校時代、1980年代は全国に数千店規模でした。日本フランチャイズチェーン協会によると、2026年6月現在は全国で5万6147店舗となり、10倍規模に増えています。
コンビニは鉄道業界にも浸透しています。1987(昭和62)年に国鉄がコンビニ「生活列車」を開店し、JR九州の子会社が引き続き運営しました。1999(平成11)年にJR九州の子会社がam/pmとフランチャイズ契約を結びました。2010(平成22)年に生活列車はam/pmになり、am/pmがファミリーマートに吸収されると、JR九州の子会社はファミリーマートと契約を継続しました。
2001(平成13)年にJR東日本の関連会社が駅構内の売店「キヨスク」をコンビニ業態の「NewDays」に転換しました。2014(平成26)年にJR西日本とJR四国がセブン‐イレブンと駅店舗事業で提携しました。JR北海道は2000(平成12)年にサンクス、2010年に契約先をセブン‐イレブンに変更しています。
駅構内のコンビニは、駅弁や土産物も扱っており便利です。ただし、列車の運行が終わると閉店する傾向があります。早朝深夜の駅周辺の路面店が乗り鉄にとって頼もしい存在です。路面店の品揃えは全国共通で、ほとんど地方色はありません。それでもおにぎりやサンドイッチなど、安価な品揃えはありがたい存在です。私のように偏食が多い人も、もう旅先でひもじい思いをすることはありません(笑)。
地方色豊かな駅弁とコンビニフーズ、どちらも乗り鉄にとって頼りになる存在です。これからも賢く使い分けていきたいと思います。
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