日本じゃまずムリ!? 「自分で造った飛行機で…」半世紀前にあった“驚愕フライト” ただパイロットは「え?」 背景には「航空産業の差」
- 乗りものニュース |

独学で設計! 海外旅行のための自作機「メルモス」
アメリカなどの航空先進国では、自分で設計・製作した機体であっても、安全基準を満たし審査に合格すれば航空機として登録することが可能です。保険に加入して自家用機として運航することもできます。日本では信じられない話のように聞こえるかもしれませんが、これが可能なのは、洗練された航空法が完備されていることに加え、機体の審査や検査を行う経験豊富な人材が多数いるためです。
アラスカに向けてロサンジェルスを出発する時の様子(ピーター・ギャリソン氏所蔵)。
さて、今から50年前に日本まで飛んできた自作航空機は、どのような飛行機で、どのようにしてやってきたのでしょうか。
機体を設計・製作したのは、航空ジャーナリストのピーター・ギャリソン氏です。著名な航空誌「FLYING」に多くの記事を執筆していた彼は、自分で操縦して海外旅行ができる飛行機を自ら設計・製作することを決意しました。大学では英文学を専攻していたギャリソン氏は、航空機の設計を独学で学んだといいます。アメリカには自作機で飛行するパイロットが何人もおり、そうした経験者からの助言が非常に役立ったそうです。
同氏はおよそ6年間の構想・設計段階を経て1969年に製作を開始し、1973年にその機体は初飛行に成功しました。210馬力エンジンを1基搭載したこの単発機は、一見すると典型的な小型機ですが、普通の単発機のおよそ3倍にあたる150ガロン(570L)もの燃料を搭載できるという大きな特徴がありました。これは海外旅行を実現するための仕様で、主翼内の燃料タンクに加え、翼端にも燃料タンクが配置されていることが外観上の特徴です。
この機体は19世紀の小説に登場する放浪者メルモスにちなんで「メルモス」と命名されました。ギャリソン氏はメルモスを用いて、1974年にグアテマラへ、翌年には大西洋を横断してヨーロッパへ飛行しました。その際、カナダ最東端の島であるニューファウンドランドから欧州アイルランドまでの3200kmをおよそ11時間で飛行しています。
GPSなしで4250km! 太平洋を越えた歴史的フライト
大西洋横断飛行を成功させたメルモスに課せられた次の目標は、太平洋を横断して日本まで飛ぶことでした。1976年7月3日午後9時半、メルモスはアラスカ州アリューシャン列島のコールド・ベイを離陸し、日本を目指しました。
北太平洋上空を飛び続けること14時間45分。翌朝の午前6時15分、メルモスは千歳空港に着陸しました。この瞬間、4250kmを飛行したメルモスは、史上初めて太平洋を横断した自作航空機となったのです。現在のようにGPSが存在しない当時、自作機でありながら長距離洋上飛行を安全に、しかも計画どおりに達成したことはまさに快挙といえます。
操縦したギャリソン氏と同乗者のナンシーさんは、新聞社やテレビ局の取材を受けました。その後、レンタカーを借りて東京や京都など各地を旅行。三週間の滞在の後、出発時には空港関係者がメルモスに集まり、盛大なお見送りが行われました。
燃料を満載し、二人の乗員、荷物、救命装備を搭載したメルモスは、7月27日午後2時に千歳空港を離陸。帰路では追い風に乗り速度を稼ぐことができました。途中のアリューシャン列島アダックに着陸して休憩した後、無給油でアンカレッジまで飛行しています。
さて、自家用機で日本を訪れたギャリソン氏は、日本で自家用機が普及していないこと、そして入国や空港での手続きに際して、空港側に自家用機を受け入れる準備が整っていないことに驚いたそうです。
50年経っても変わらぬ日本の空 航空先進国との「決定的な差」
メルモスによる日本訪問から50周年を迎えるにあたり、ギャリソン氏から日本の飛行機愛好家に向けてメッセージが寄せられました。「私は飛ぶことの素晴らしさを皆さんと共有したいと希望しています。皆さんが美しい日本の空を楽しむことができるようになっていればよいのですが、そうでない場合はアメリカに来て飛んでください。」
アリューシャン列島上空の景色(ピーター・ギャリソン氏所蔵)。
残念ながら、半世紀も前にギャリソン氏が日本の空港で感じたことは、2026年現在でも変わっていません。国内で航空機産業の育成を目指すのであれば、この問題への取り組みは避けて通れない課題であると筆者は感じています。
諸外国では、自作航空機はキットを組み立てた機体を含めて「実験航空機」と呼ばれています。アメリカだけで2万機以上の実験航空機が登録されており、毎年およそ1000機が新たに登録されているという数字もあります。この分野は、航空宇宙産業全体を底から支える重要な役割を果たしていると認識されています。
ちなみに、日本では実用機として使用できない実験航空機ですが、外国籍の実験航空機は日本国内であっても実用機として運航できるという法的矛盾も存在しています。
実験航空機を取り巻く環境の内外差を見ると、世界屈指の工業力を持っているはずの日本の能力が、半世紀以上も遅れた法律と行政によって阻害されているといえるのではないでしょうか。
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