「カキ」にあたる人、あたらない人って何が違うの? 専門医に聞いて分かった両者の“明確な差”
- オトナンサー |
冬に旬を迎える食べ物の一つが「カキ」です。カキフライにしたり、鍋の具材として入れたり、生で食べたりする人は多いのではないでしょうか。
ところでカキを食べるときに気を付けたいのが食あたりです。SNS上では「カキの食あたりはマジでキツい」「生ガキであたったことがあります。あれはつらかったですね」「カキフライでもあたる」という声がある一方、「生まれてから一度もカキにあたったことがない」という内容の声も上がっています。
なぜカキにあたる人とあたらない人がいるのでしょうか。天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック(大阪市天王寺区)院長で総合内科専門医、消化器病専門医、内視鏡専門医の安江千尋さんは「同じカキを食べても『すぐにあたる人』と『まったく症状が出ない人』がいるのは事実で、そこには明確な個人差が存在します」と話します。カキにあたる人、あたらない人の違いのほか、カキにあたるリスクを減らす方法などについて、安江さんに聞きました。
ノロウイルスが原因で食あたりに

Q.そもそも、食あたりとは何ですか。
安江さん「『食あたり』とは、食べ物や飲み物を通して体内に細菌、ウイルス、寄生虫、毒素などが侵入し、胃や腸に炎症を起こして下痢や腹痛、嘔吐、吐き気、発熱などの症状が出る状態を指す、いわゆる総称です。
『食中毒』と『感染性胃腸炎』は原因が『食品』なら食中毒、人や環境からの感染なら感染性胃腸炎と区別されがちですが、原因となる病原体(細菌・ウイルス)が同じ場合が多く、食中毒も感染性胃腸炎の一種です。原因となる病原体には、ノロウイルスやカンピロバクター、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ、大腸菌など多くの種類があり、それぞれ潜伏期間や重症度、症状の出方が異なります。
多くの場合、体内に侵入した病原体を外に排出しようとする防御反応として下痢や嘔吐が起こり、数日以内に自然に回復します。しかし、高齢者や乳幼児、持病のある人、免疫力が低下している人では脱水や重症化しやすく、点滴や入院治療が必要になることもあります。また、原因によっては周囲への感染力が非常に強く、家庭内や施設内で集団感染が起こることも少なくありません。『たかが食あたり』と軽視せず、症状が強い場合や長引く場合は何が原因かを見極めるためにも、医療機関を受診することが大切です」
Q.カキによる食あたりの原因は何ですか。生食と加熱調理、どちらの場合でもあたることがあるようですが、なぜでしょうか。
安江さん「カキによる食あたりの最大の原因はノロウイルスです。ノロウイルスは人の腸内で増殖し、下水を経て海へ排出されます。海水中には微量のウイルスが存在しており、カキは大量の海水を取り込みながらプランクトンをろ過して成長するため、体内にウイルスを濃縮しやすい性質があります。
生ガキの場合、体内に蓄積されたウイルスがそのまま人に入るため、非常に少量でも感染が成立しやすく、発症リスクが高くなります。一方、『加熱すれば安心』と思われがちですが、加熱が不十分だとウイルスは完全には死滅しません。中心温度85~90度で1分30秒以上の十分な加熱が必要とされています。
さらに見落とされやすいのが『二次感染』の問題です。生のカキを触った手や包丁、まな板を介して、すでに加熱した料理やサラダなどが汚染されることで感染が成立するケースも非常に多く見られます。このため、『焼きガキしか食べていないのにあたった』という事例も少なくありません。つまり、生食、加熱にかかわらず、調理環境や取り扱い方次第で食あたりは十分起こり得るのです」
Q.カキにあたりやすい人、そうでない人は実際にいるのでしょうか。その場合、カキにあたりやすい人、あたりにくい人の特徴を教えてください。
安江さん「はい、実際に、同じカキを食べても『すぐにあたる人』と『まったく症状が出ない人』がいるのは事実で、そこには明確な個人差が存在します。まず重要な要因の一つが胃酸の働きです。胃酸には強い殺菌作用があり、体内に侵入した病原体の一部は胃の中で不活化されます。しかし、加齢、強いストレス、暴飲暴食、胃薬(特に胃酸分泌を抑える薬)の長期使用などによって胃酸が弱まると、病原体がそのまま生きた状態で腸に到達し、食あたりを起こしやすくなります。
また、腸内環境の状態も大きく影響します。便秘や下痢を繰り返している人、食生活が不規則な人、抗生物質を頻繁に使用している人は腸内細菌のバランスが崩れやすく、ウイルスや細菌に対する抵抗力が低下しがちです。
さらに、睡眠不足や慢性的な疲労、強いストレス、基礎疾患のある人、高齢者など、免疫力が低下している状態では、ノロウイルスなどの感染症に対する防御力が弱く、発症しやすく、重症化する傾向もあります。
一方で、あたりにくい人の特徴としては『胃酸がしっかり分泌されている』『腸内環境が安定している』『十分な睡眠が取れており、慢性的な疲労やストレスが少ない』『栄養バランスが良い食生活を送っている』『大きな持病がなく免疫力が保たれている』などが挙げられます。このような人は、同じカキを食べても発症しにくい傾向があります。
ただし、『体質的に絶対にあたらない人』が存在するわけではなく、どれだけ健康な人でも体調次第では誰でも食あたりを起こす可能性があるという点は強調しておく必要があります」
カキにあたらないようにするには?
Q.「カキが大好物なのに、よくあたるからつらい」という人も少なくないようですが、カキにあたりやすい人があたらないようにすることはできるのでしょうか。
安江さん「残念ながら『絶対にあたらなくする方法』は存在しませんが、リスクを大きく下げることは十分可能です。最も重要なのは『体調が悪いときには生ガキを避ける』という点です。寝不足、強い疲労、風邪気味、胃腸が弱っているとき、飲酒量が多い日などは、免疫力が低下しており、少量のウイルスでも発症しやすくなります。
次に大切なのが『加熱調理を基本にする』ことです。生食用と表記されていても、ノロウイルスが完全に除去されているわけではありません。体調に不安がある人や、過去に何度もあたった経験がある人は、できる限り十分に加熱された料理を選ぶ方が安全です。
さらに、腸内環境を整える生活習慣も大切です。発酵食品、食物繊維の摂取、バランスの良い食事、十分な睡眠、過度な飲酒を控えるといった基本的な健康管理が、感染時の重症化を防ぐことにもつながります。『よくあたる人』ほど、食べるタイミングと体調管理に細心の注意を払うことが、最大の予防策になります」
Q.カキにあたってしまったときの対処法を教えてください。また、カキにあたるリスクを減らすためにできることはありますか。
安江さん「カキにあたってしまった場合の基本的な対処は、『安静』『水分補給』『無理に食べない』の3つです。嘔吐や下痢が続いている間は、無理に食事を取らず、経口補水液や薄めたスポーツドリンクなどで少量ずつこまめに水分を補給し、脱水を防ぎます。特に高齢者や子どもは、先述のように脱水が進みやすく注意が必要です。
自己判断で市販の下痢止めを使用すると、体内にウイルスや毒素が滞留してしまい、かえって症状が長引くことがあります。高熱や激しい腹痛、血便が出た場合、半日以上水分が全く取れない場合、ぐったりして動けないような場合は、早めに医療機関を受診してください。
予防の基本は『十分な加熱』『調理前後の手洗い』『調理器具の使い分けと消毒』『体調不良時の生食回避』『家庭内での二次感染防止』です。特に感染力が非常に強いため、トイレやドアノブの消毒、タオルの共用を避けるなどの対策も重要になります。正しい知識と行動で、リスクを最小限に抑えることが可能です」
オトナンサー編集部
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