狙いは教育DX? デジタル教科書「本格導入」の先にあるもの
- オトナンサー |
文部科学省が2024年度の小中学校英語から、デジタル教科書を段階的に本格導入する方針を固めました。しかし費用負担や通信環境の整備など、課題は山積しています。それでもなおデジタル教科書の本格導入にこだわるのは、なぜでしょうか。どうやら事は教科書の問題にとどまらないようです。
組織の名称から分かる政策意図
8月25日にデジタル教科書の本格導入を提言した中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の作業部会は、正式名称を「教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキンググループ(WG)」といいます。ここからも、デジタル教科書だけでなくデジタル教材や学習支援ソフトを一体で考えようという意図が当初からあったことがうかがえます。
WGの上部組織(親部会)は「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」といいます。「個別最適な学び」とは従来、「個に応じた学習」(指導の個別化と学習の個性化)と呼ばれていたもので、「協働的な学び」とは、多様な他者と協働しながら能力を伸ばす学びです。
個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を打ち出したのは、2021年1月の中教審答申でした。新型コロナウイルス感染症の影響による長期休校を教訓に、誰一人取り残さない学びを実現するとともに、集団を通してこそ学べる学校の存在意義を再確認しよう、というものです。
1人1台端末で「学校教育の在り方」も変わる
コロナ禍を契機に一気に実現した1人1台の情報端末の導入によって、個別最適な学びも、協働的な学びも、やりやすくなりました。例えば一つの教室で授業をしていても、一斉指導だけでなく、ある子は個々に対応した課題に取り組んだり、ある子たちはグループで学びに取り組んだり、といった姿が同時に見られるようになりました。発達障害を抱える子や特異な才能のある子、日本語の語学力に課題のある子などにも丁寧に指導できたり、不登校の子に学習の機会を保障できたりする可能性も高まります。
その上で、特別部会の正式名称の後半部分「学校教育の在り方に関する」にも注目する必要があります。
秋から特別部会、指導要領も2027年改定へ
文科省が中教審の初等中等教育分科会に特別部会の設置を提案したのは、今年1月でした。内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)「教育・人材育成WG」の提起を受けたものです。
6月のCSTI本会議で正式決定された「政策パッケージ」では、中教審の特別部会について、(1)教育課程の在り方の見直し(2)学校の役割、教職員配置や勤務の在り方の見直し(3)子どもの状況に応じた多様な学びの場の確保(4)教育支出の在り方の検討――といった幅広い課題について議論し、2027年以降と見込まれる学習指導要領の改定(小学校は2030年度から全面実施の見通し)に反映させると位置付けています。
つまり、1人1台端末やデジタル教科書・教材・ソフトの本格導入という授業のデジタル化を皮切りに、学校教育自体をデジタルによって変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を狙っている、というわけです。これによって、子どもの学びはもとより、働き方改革が求められる学校の多忙化解消や、頭打ちに悩まされてきた教育予算の打開などの諸課題を、一体で解決したい考えです。
このようにデジタル教科書の「本格導入」提案は、教育DXの第一歩と位置付けることができます。8月1日、文科省の伯井美徳初等中等教育局長(現在は文部科学審議官)は都内で行った講演で、特別部会での本格的な議論を秋にも始めたい意向を明らかにしました。教育DXに向けた大改革の議論が、まさに始まろうとしています。
教育ジャーナリスト 渡辺敦司
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