空自現役パイロット激白!「最新ステルス戦闘機」なぜ強い? 知られざる秘訣とは「航空祭の飛び方見ればわかるよ」
- 乗りものニュース |
航空自衛隊が導入を進める最新鋭ステルス戦闘機F-35A「ライトニングII」。この戦闘機の挙動は、明らかに既存のF-15やF-2などとは異なります。どれほどスゴいのか、航空祭でデモ飛行を担った現役パイロットに聞きました。
最新鋭戦闘機が見せる迫真フライト
F-35A「ライトニングII」は第5世代戦闘機と呼ばれる戦闘機で、その性能の高さは航空祭で行われる機動飛行、すなわちデモンストレーションフライト(デモフライト)でも見ることができます。
三沢基地航空祭で機動飛行を行う航空自衛隊のF-35A(布留川 司撮影)。
今年(2024年)9月に行われた青森県三沢基地の航空祭では、地元のF-35部隊である第301飛行隊と第302飛行隊がデモフライトを披露し、その能力の高さを実演しました。このときは、会場上空で急旋回や高速飛行などのアクロバティックな飛行を繰り返し実施。その挙動は、航空自衛隊がこれまで運用してきた戦闘機と比べて明らかに異なっており、軍事に詳しくない人々でも釘付けになるほどの迫力がありました。
そんな大迫力のF-35による機動飛行ですが、操縦していたパイロットからすると飛行するにあたってのコツなどはあったのでしょうか。パイロット目線で注目してほしかったポイントなど含め、実際にハナシを伺いました。
対応してくれたのは第302飛行隊のパイロット。この飛行隊では2機のF-35がデモフライトを実施しています。そのうちの1機を担ったパイロットに、まずは機動飛行について聞いてみました。
「機動飛行で注目してほしい点は、F-35のFCS(フライト・コントロール・システム)による広い速度帯における機動性の高さです。F-35の操縦は、パイロットの入力が直接操舵に反映されるわけではなく、FCSというコンピューターによって速度や高度に応じて適切な機動ができるように設計されています。F-15などでは、速度や高度に応じてパイロットが適切な操舵量を感覚で身に着ける必要がありましたが、このF-35においては優れたFCSにより機体が常に最高の機動性を発揮してくれます」(第302飛行隊F-35Aパイロット)
FCSの効果が発揮される演技はコレ!
現代の航空機の多くは飛行をコンピューターで制御しています。この制御は、一般的にはFBW(フライ・バイ・ワイヤ)の名称で知られますが、F-35ではそれをFCSと呼んでいます。航空機は機体各所にある可動翼を動かすことで機体を制御していますが、FBWやFCSではパイロットの操縦をそのまま可動翼に伝えるのではなく、コンピューターが機体の速度や姿勢などの状態を加味して、適切な動きに補正して制御してくれます。
機動飛行について模型を使って説明してくれた第302飛行隊の担当パイロット(布留川 司撮影)。
F-35のFCSの効果は機動飛行でも見ることができます。低速での飛行中などに、水平尾翼が小刻みに動くことがありますが、これはパイロットがそのように操縦桿を動かしているのではなく、FCSが機体の姿勢を維持するために自動で微調整を行っている動きそのものになります。
また、急旋回や機首を急激に上げる機動をしたとき、機体後方が滑るようなドリフト的な動きをすることもありますが、これも飛行の安定性確保と高機動性を両立させようとするFCSの効果の表われだといえます。
F-35の機動飛行ではさまざまな演目が行われますが、その中でFCSの効果が特に表われているものがあるといいます。
「F-35の機動飛行ではすべての課目に注目してほしいですが、特に見どころなのは『ペダルターン』という課目で、低速度帯における機動性の良さが現れる課目となっています」
通常、航空機が旋回する場合、操縦桿の操作によって機体を横に傾けて機首の上下の動きで旋回を制御します。しかし、ペダルターンでは、その名前のとおり、パイロットは操縦桿を手前に引いて固定した状態でラダーペダルを右に踏み込み、機体を左右に動かすヨーイングによって360度の下降旋回を行います。
通常の航空機でラダーペダルを踏み続けると、主翼の片側だけに揚力が発生して機体が不安定な状況となり、回復が困難なスピン(錐もみ降下)状態となってしまいます。しかし、F-35ではFCSが自動的にスピンに入らないように補正してくれるので、安定した降下旋回を行うことができるのです。
F-35Aの強さは機動飛行だけじゃない!
「戦闘機に限らず、航空機というのは速い速度においては高い機動性を持っており操縦は容易ですが、低速度帯においてはそれが途端に難しくなります。着陸が難しいと言われるのもこれが理由です。その低速度帯においてF-35の強みとなるのが、先ほど述べたFCSであり、ペダルターンはその恩恵を最大限に発揮したものです」(第302飛行隊F-35Aパイロット)
機動飛行中の第302飛行隊のF-35A「ライトニングII」。機体表面の煙のようなものは、ベイパーと呼ばれる空気中の水分か圧縮されてできた水蒸気(布留川 司撮影)。
機動飛行はデモンストレーションですが、そこで披露される性能は機体の機動性を示したものであり、それは戦闘に役立つ部分もあるそうです。
「この機動性は戦闘機同士の空中戦、いわゆるドッグファイトにおいて役立ちます。戦闘機にとってあらゆる場面において機動性は重要なものですが、F-35の低速域での機動性と安定性はドッグファイトなど、その戦闘機の機動性が問われる場面において特に大きな強みとなります」(第302飛行隊F-35Aパイロット)
とはいえ最も重要なのは、機動性の高さがF-35Aの全てではないという点です。
「確かに機動性はF-35の強みではありますが、F-35はステルス性とセンサーフュージョンといった能力を持っており、現代の航空戦において高い戦闘能力を有しています。そのため、良好な機動性というのはあくまでもF-35の強さという点でいうとそのうちの一部に過ぎません」(第302飛行隊F-35Aパイロット)
F-35は、冒頭に記したように一般的には第5世代機と呼ばれますが、その特徴はレーダーに映りにくいステルス性や、戦域の情報を統合化できるセンサーフュージョン能力であり、脅威に対して遠距離から戦闘を行うことが可能です。こうした性能をフルに発揮すると、映画のようなドッグファイトを行うことはないでしょう。
しかし、ミサイルを撃ち尽くした時や突発的な状況によっては、ドッグファイトや激しい飛行が必要となる状況が発生する可能性もあることから、F-35にはそれらに対応できるだけの十分な能力が付与されているのです。
これにステルス性などの第5世代戦闘機としての性能も合わせて考えれば、この機体は非常に能力の高い戦闘機であると、今回の三沢基地でのパイロットインタビューを終えて改めて感じました。
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