現実を生きる編集者の葛藤。「叶えられなかった夢」との向き合い方って?【未恋~かくれぼっちたち~#9】
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※本コラムは『未恋〜かくれぼっちたち〜』第9話までのネタバレを含みます。
■「夢、諦めてもいいよ」って健斗に言ってあげたい
わたし、よく考えるんです。自分が本当になりたい職業に就けている人ってどれくらいいるんだろう? もしかしたら、ほとんどの人が、妥協という名の折り合いをつけながら、働いているんじゃないか? って。
実を言うと、わたしもライターにずっと憧れていたわけではありません。自分ができることと、やりたいことのちょうど中間にライター業があっただけ。本当になりたい職業は別にあったけれど、今はこのお仕事がすごく楽しくて充実しています。
でも、かつて自分が憧れていた職業に就いている人を見ると、健斗(伊藤健太郎)と同じようにモヤモヤすることがあります。すごくキラキラして見えるもんだから、「タイムトリップして人生やり直したいな」とか、「あの時、もっと本気出していたら違っていたのかな」とか。そんなふうに考えることもあるけれど、当時のわたしも、その時の全力を出していたはずなんです。
『silent』(フジテレビ系)の脚本家・生方美久さんのデビュー作『踊り場にて』(フジテレビ系)でも描かれていたけれど、夢を諦めるというのは悪いことばかりじゃない。「次に何か、新しい何かをやろうと思った時、過去の自分が、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ優しく肩を抱いてくれます」という台詞にあるように、“過去に夢を追いかけた自分”が、“新たな夢を追いかける自分”の背中を押してくれることってあると思うんです。
平井堅さんの楽曲『桔梗が丘』にも<夢中なものは変わるけど夢中になる気持ちは変わらないで>という歌詞がありますが、年齢を重ねて現実を知っていくうちに、夢中になるものが変わるのは当然なことだと思うんですよね。ただ、夢中になる気持ちが変わらなければいい。
健斗を取り囲む女性たちは、ある意味で夢を掴んでいる人なんです。まず、言わずもがなゆず(弓木奈於)は漫画家になる夢を掴んでいる。そして、みなみ(愛希れいか)も、今はくすぶっているかもしれないけれど、過去に小説の新人賞を受賞した経験があります。だから、健斗に対して「小説書けばいいじゃん」「なんで夢を諦めるの?」って言えるんだと思う。
だけど、それが現実を生きようとしている健斗を苦しめているんじゃないかな? と思います。「好きな気持ちがあれば、なんでも叶えられます」と言えるのは、成功者だけ。その裏には、好きな気持ちがあっても夢を叶えられなかった人がたくさんいることを忘れてはいけないんです。
例えば、学生時代から漫画家を目指していたゆずは、「漫画家になるんです。それしかないから」と言い、「ずっと漫画が好きでいられますように」と神社でお願いをしていました。健斗は、ゆずと一緒にいるとわずかに劣等感を感じていた理由を、「彼女は好きの力だけで前に進む方法を知っていた」と分析していたけれど、もしもゆずが漫画家になる夢を叶えられていなかったらどうだろう。“好きの力だけで前に進んで夢を叶えた”ゆずだからこそ、劣等感を感じさせてくるんだと思います。
『未恋〜かくれぼっちたち〜』第9話のサブタイトルは、「夢…諦めてもいいですか?」。ここ最近の健斗を見ていて、わたしは「夢、諦めてもいいよ」と言ってあげたいなと思っちゃいました。
夢を叶えている人たちに囲まれているから、夢を諦めるなんて……と思ってしまうのかもしれないけれど、健斗と同じような生き方をしている人はたくさんいる。というか、思い通りの人生を歩んでいる人の方が、少ないくらいだと思うから。
■「ありがとう」が「さようなら」に聞こえるのはなんか分かる
6年前、缶詰合宿が終わった時、みなみに「ありがとう。健斗がいてくれて本当に良かった」と言われた健斗は、「ありがとうって言われて嬉しい?」と返していました。この時、「んん? なんかめちゃくちゃ面倒くさいやん!」と思ったけれど、「ありがとう」という感謝の言葉が、健斗には「『ありがとう。健斗にもう用はないよ』」と聞こえたようです。つまり、「ありがとう」を「さようなら」に捉えちゃったんですよね。これは、なんか分かるなぁと思いました。
健斗は、みなみと過ごした3ヶ月間が人生でいちばん充実していたらしいです(ゆずが聞いたら嫉妬するぞ〜)。「初めて生きる意味が分かったんだよ。それを教えてくれたみなみさんと一緒にいられることを奇跡のように感じていて」というのは言い過ぎでは? と感じますが……。とりあえず、健斗はみなみの才能に強く惹かれていたんだと思います。
ただ、缶詰合宿をしていた3ヶ月間、健斗は小説だけに集中できる環境だったにも関わらず、まったく書くことができなかった。それなのに、「人生でいちばん充実してて〜」って言うってことは、健斗はそもそも小説家向きではなく、編集者向きなのでは? もしかすると、今の仕事は天職なんじゃないかなぁ。
これは持論になってしまいますが、天職というのは、“好き”と“向いてる”がちょうど重なった部分にあるものを指すと思うんです。だから、人を支えるのが好きで、向いている健斗にとって、編集者は天職とも言える。
第7話で、健斗が「(今の仕事は)仕事だから、割り切ってやってる。好きじゃないからできるんじゃないかな。だから、好きなことは仕事にしない方がいいんだよ」と言った時、星くんが「そんなにこの仕事が嫌なら、好きになった方がいいですよ。この仕事!」と返していたことを思い出しました。
まず、健斗は編集者を辞める方向ではなく、編集者の仕事を好きになるように努力してみる。みなみが「小説より好きなものが現れるのが怖かったの? それで、好きなものを好きって言えないの?」と言っていたけれど、そういうのを全て取っ払って、一度いまの仕事に向き合ってみるのもいいんじゃないかなと思います。それでも無理だったら、また考えればいい。小説は、いつだって書き始めることができるのだから。
(菜本かな)
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