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スイッチバック2回/県都は素通り/残っているのが奇跡!? ナゾの「激レア特急」が面白すぎる! 存続には黄信号

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「富山駅には行きません」の個性的すぎる特急

 富山県の私鉄、富山地方鉄道は沿線に宇奈月温泉・黒部峡谷と、世界レベルの山岳観光ルートである立山黒部アルペンルートを擁します。この2拠点を直結するのが「アルペン特急」です。本線の宇奈月温泉駅(黒部市)と立山線の立山駅(立山町)の67.7kmを直近では1時間41分で結んでいました。

Large figure1 gallery13富山地方鉄道の「アルペン特急」として運用される10030形(大塚圭一郎撮影)

 運行ルートやダイヤがサプライズに富み、冬季は運休するユニークな列車ですが、存続には「黄信号」がともっています。富山地鉄は巨額の営業赤字に陥っている鉄道事業の再構築を進める方針で、アルペン特急にもメスが入る可能性があるからです。

 アルペン特急と名付けた列車が走り始めたのは半世紀前の1976年4月、当初は宇奈月温泉―立山間をノンストップで結んでいました。1976―83年の一部列車は、名古屋鉄道のディーゼル車両「キハ8000系」(引退済み)が充当されました。当時は名鉄と国鉄、富山地鉄を直通運転していた急行(途中から特急に昇格)「北アルプス」が運行されており、間合い運用で使われていたためです。

 かつてのキハ8000系を除くと、アルペン特急には富山地鉄の車両が用いられています。2025年に筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)が乗車した際には、京阪電気鉄道の「テレビカー」として人気を集めていた初代3000系(引退済み)を2両編成に改造した10030形がやって来ました。先頭に取り付けられた方向幕には「アルペン特急 立山」と記され、運転士だけが乗務するワンマン運転です。

 車体は黄色と緑色のツートンカラーに塗られており、その色合いから「かぼちゃ電車」と呼ばれています。鉄道友の会の「ローレル賞」を1980年に受けた自社発注車両14760形の一部に採用されている白を基調とし、灰色と赤色が入った塗装は「だいこん電車」の愛称が付けられています。

運行は休日だけ、しかも本数は…!

 アルペン特急は2025年には4月11日から11月30日までの休日に運行しました。これは、ほぼ同期間に開通し、冬季は閉鎖される立山黒部アルペンルートを訪れる観光客らの利用を想定しているためです。驚くのは宇奈月温泉を9時17分に出て、立山へ10時58分に到着する列車1本だけの設定で、反対方向の列車はないことです。

Large figure2 gallery14富山地鉄本線の宇奈月温泉駅舎(大塚圭一郎撮影)

 すなわち宇奈月温泉の滞在後や、北陸新幹線の黒部宇奈月温泉駅(黒部市)と接続する新黒部駅から立山黒部アルペンルートの立山黒部貫光立山ケーブルカーと接続する立山駅へ向かう観光客の利用を想定していることになります。

 アルペン特急は運賃のほかに特急料金が必要です。全区間に乗った場合は大人400円で、途中の停車駅からだと大人200円で済みます。例えば新黒部から立山までならば1時間24分のロングランだけに、乗り鉄が趣味の視点からは「特急料金がわずか200円とはお買い得だ!」と映ります。しかも10030形の転換クロスシートに腰かければ、京阪の特急列車で活躍していた花形車両の乗り心地を追体験できます。

 宇奈月温泉発車後は新黒部、電鉄黒部を経て、新魚津(魚津市)に止まります。ここから滑川(滑川市)までは富山県などが出資する第三セクター鉄道、あいの風とやま鉄道との並走区間となります。

 あいの風とやま鉄道は魚津から滑川までの間に東滑川(滑川市)の1駅しかないのに対し、富山地鉄は5駅あります。このため、あいの風とやま鉄道の普通電車が7~8分で結んでいるのに対し、富山地鉄の普通は早くても12分かかります。

 一見すると停車駅が少ないアルペン特急ならば対抗できそうに映りますが、なんと新魚津の隣の電鉄魚津に停車後、滑川の1駅先の中滑川(滑川市)まで止まりません。滑川を飛ばすのは意外な印象もありますが、地元住民は「中滑川はもともとの市街地や滑川市役所に近く、滑川より中心にあるという意識がある」と解説します。

 富山地鉄としては滑川より中滑川の方が停車させる優先度が高い上、新魚津―滑川間のあいの風とやま鉄道との直接対決に勝ち目はないと判断しているようです。この区間の運賃は480円とあいの風とやま鉄道の魚津―滑川間(240円)の実に2倍で、特急料金を含めれば680円に膨らむからです。

「アレ」を2回も楽しめる!

 そして大きなサプライズは次の停車駅の上市(上市町)、続く寺田(立山町)で相次いで訪れます。列車が進行方向を変えるスイッチバック運転が2回も楽しめ、しかも同じ駅に2回停車するという希少体験も待ち受けているのです。

Large figure3 gallery15富山地鉄本線の上市駅で並んだ10030形(大塚圭一郎撮影)

 上市は線路が行き止まりになった頭端駅で、上市が始発・終点以外の電車は全て進行方向を変えます。ただ、寺田でのスイッチバック運転はアルペン特急だけです。

 本線の上市から寺田方面へ向かう電車はアルペン特急を除くと、いずれも県庁所在地・富山市の玄関口で、北陸新幹線も停車する富山駅と隣接する電鉄富山に行きます。ところが、アルペン特急は富山市に立ち寄ることなく、寺田から立山線に入って終点の立山まであとはノンストップで走るのです。

 寺田は本線、立山線それぞれのホームが「V字型」に分かれ、立山線の立山方面に乗り入れるには本線上で進行方向を変えないといけません。

 電車は本線の電鉄富山方面ホームの1番線に10時14分に着き、下車する客を降ろします。ドアを閉めると前進し、立山線と本線の分岐点を超えてから停車。運転士が列車の反対側の乗務員室に移り、寺田の立山線立山方面ホームの4番線で再びドアを開いて10時20分に出発します。

 寺田でドアが2回開閉するのには理由があります。立山線の電鉄富山行きが10時15分に3番線へ入線するため、アルペン特急を1番線で降りれば隣の番線から乗り換えられるのです。また、寺田から立山へ向かう利用者は4番線で待っているため、アルペン特急も踏襲しているのです。

50年の節目は大きな岐路に

 このように独特な運行を楽しめるアルペン特急ですが、冬季以外の休日に1日1本だけの設定なのが示す通り、安泰ではありません。2022年4月のダイヤ改正では新型コロナウイルス禍による観光客減少を受けて運休し、翌23年4月に再開したものの1日1本のまま増えていません。

Large figure4 gallery16富山地鉄の寺田駅の構内案内図。スイッチバックするのはアルペン特急のみ(大塚圭一郎撮影)

 富山地鉄は近年、ダイヤ改正を4月に実施しており、慣例に従うと2026年4月に改正される可能性があります。アルペン特急は登場から50年の節目を迎えることもあり、26年4―11月は運行を続けるというのが筆者の予想です。ただ、アルペン特急は空席が目立つ状況だけに、設定される保証はありません。

 2026年は運行されたとしても、富山地鉄が検討している一部区間の廃止の行方次第では廃止に追い込まれかねません。富山地鉄は不採算に陥っている本線の滑川―宇奈月温泉間と、立山線の寺田から立山へ8駅先に行った岩峅寺(いわくらじ)から立山までの区間について行政の支援がなければ廃止するとし、早ければ2026年11月末にも一部区間の運行を終える方針を示していました。2026年度は富山地鉄の鉄道事業で見込まれる赤字6億円のうち三分の二に当たる計4億円を富山県と沿線7市町村が助成するとの提案を受け、路線存続が決まりました。

 しかしながら、富山地鉄は2027年度以降に事業再構築に着手する計画で、中でもあいの風とやま鉄道と並走する本線滑川―新魚津間の存廃が焦点となっています。同区間が廃止された場合には、富山地鉄の電車を使ってアルペン特急を現行区間で運転するのは不可能になります。

 県庁所在地には立ち寄らず、スイッチバックを2回繰り返すユニークな観光地直結特急は大きな岐路に立たされています。

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