わずか10分で射撃・離脱! 陸上自衛隊の最新型ミサイルが部隊配備へ 防衛省が明かした驚きの“アームロール”機能
- 乗りものニュース |

「船が砦と戦うのは愚か」 陸から撃つミサイルの重要性
「すいません、陸上自衛官ですが『世界の艦船』を定期購読しています(笑)」
富士教導団特科教導隊に配備された25式高速滑空弾の発射機(月刊PANZER編集部撮影)
取材でお世話になった陸上自衛隊の広報幹部が話してくれました。陸戦専門誌『PANZER』としては少々複雑でしたが、彼の職種は野戦特科の地対艦誘導弾(SSM)ということで納得せざるを得ませんでした。陸上の発射機から海上の艦艇を狙うSSM部隊にとって海の知識は欠かせません。
日本は長い海岸線と多数の島々を抱えています。陸上自衛隊のSSMは、内陸に展開した発射機から接近する艦艇を攻撃し、沿岸や離島への侵攻を阻止するために整備されてきました。1988年制式化の88式地対艦誘導弾から12式地対艦誘導弾、そして25式地対艦誘導弾へと発展しています。これらは国産で日本独自の沿岸防衛用装備品と言えます。車両で移動・展開できる地上発射型のミサイルは、海上部隊にとって無視できない脅威となります。
「船が砦と戦うのは愚か」。イギリス海軍のホレイショ・ネルソン提督の言葉です。海上戦力である「船」と陸上戦力である「砦」では、一般に有利なのは大型兵器や兵站を安定運用できる陸上です。そのため、船は砦の火力の射程圏外を行動することを強いられます。
アメリカのシンクタンク「ハドソン研究所」は「最前線の強化:21世紀の抑止にむけた自衛隊の変革」とするレポートで、日本列島の地理的条件を生かした長射程の地上発射型火力の重要性を指摘しています。台湾から北海道に至る島々や海峡などの要衝で、機動・分散展開できる陸上火力が相手の海上作戦を難しくし抑止に役立つと論じています。SSMは侵攻してくる艦艇を迎撃する受動的手段だけでなく、相手の艦隊運用を制約する能動的手段にもなるという考え方です。
2026年4月20日~5月8日にフィリピンで行われた米比主催多国間共同訓練「バリカタン26」では、88式SSMが実射されました。これは旧式なSSMでも前進配備により相手の行動を制約できる可能性を示しています。相手の脅威圏外から対処する「スタンド・オフ防衛能力」は、単に遠くを撃つための能力ではありません。
SSMが海上の艦艇を主な攻撃対象とするのに対し、25式高速滑空弾(HGP)は島嶼防衛において地上目標への対処を担う別系統の装備です。令和7年度富士教導団の特科教導隊で戦力化されました。令和8年度には上富良野駐屯地とえびの駐屯地に部隊が編成される予定です。
新装備がもたらす“野戦“だけでは終わらなくなった“特科”の役割
25式HGP(早期装備型:Block.1)は短距離弾道ミサイルで射程は数百kmといわれます。発射ユニットは輸送起立発射機(TEL)と弾薬車、火力戦闘指揮統制システムで構成され、それぞれ車載式で機動性を持ちます。発射機と弾薬車は重装輪回収車がベースとなっており、2本の発射筒を搭載した姿はよく似ていますが、発射車両は発射筒起立時に車体を安定させるアウトリガーが装備されているなど構造が異なります。
発射機の乗員は3名で、射撃統制装置から射撃データを受信し、または発射機車体でデータをインプットして発射することが可能です。生存性を高めるため、陣地進入から射撃姿勢まで10分程度、車体キャブ内に乗員が乗車した状態で発射して、発射後は乗車したままで発射筒を復元、離脱できます。
発射機と弾薬車のシャーシには油圧アーム式の脱着装置が付いており、フック部に発射筒の架台を引っかけて積載させる「脱着ボディシステム車」(いわゆるアームロール:新明和工業製の商品名)となっています。そのため、クレーンなどの支援がなくても自力で発射筒の脱着ができ、一定の広さの平地があれば素早い再装填が可能です。
従来の野戦特科では火砲でもミサイルでも観測員や観測ヘリ、無人機(UAV)など前進観測機関により目標探知し、誘導するのが通常でしたが、HGPは長射程ゆえ野戦特科だけでは運用は完結しなくなりました。広域をカバーできる大型UAV、衛星コンステレーション、目標観測弾など職種や軍種を越えた情報共有などが必要になっています。
ある野戦特科の幹部は「これからは『野戦』特科から『領域横断』特科と呼ばなければならないかもしれない」と言います。火力の高度化が領域横断作戦(CDO)能力を要求し、情報収集、指揮統制、教育訓練に至るまで大きな変化を要求しています。
スタンド・オフ防衛能力には無人機(UAV)の存在も欠かせません。費用対効果を考慮して高価なミサイルと安価なUAVを組み合わせて運用するのはもはや常識となりつつあります。
野戦特科の任務は、火力によって敵を物理的に破壊・制圧し、味方部隊の戦闘を支援することでした。そしていま、その火力は空や宇宙からの情報と結び付き領域横断的に運用されようとしています。敵基地反撃能力まで視野に入れたスタンド・オフ防衛能力は、軍事面に留まらず、政治的な意味を持つ戦略兵器となっています。
「愛読書は『世界の艦船』です」――陸上自衛隊でも海を知らなければ任務は果たせません。そして今や空や宇宙を含む領域横断的な発想が求められています。『PANZER』や『世界の艦船』だけでなく、『軍事研究』や海外シンクタンク、Janesのレポートにも目を通す――そんな幅広い情報収集が必要な時代になったのかもしれません。
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