「現金払いのみ」クリニックがあるのはなぜ? キャッシュレス化は進む?
- オトナンサー |
病院やクリニック(診療所)で「支払いは現金でお願いします」と掲示してある所があります。診療内容によっては、健康保険を使っても、数万円を支払う場合もあり、クレジットカードなどのキャッシュレス払いができればいいのに、と思う人もいるようです。なぜ、「現金のみ」の病院やクリニックがあるのでしょうか。医療法人社団南州会理事長で、三浦メディカルクリニック(神奈川県三浦市)院長の井上哲兵医師に聞きました。
保険診療、決済手数料が痛手
Q.「支払いは現金のみ」の病院やクリニックがあるのはなぜでしょうか。
井上さん「大きな病院ではキャッシュレス決済の導入がかなり進んでいると思いますが、小さな病院やクリニックでキャッシュレス決済が増えない理由は、大きく2つあります。デジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいない小規模病院やクリニックが多いという点と、決済手数料が負担であるという点です。
前者は、昔ながらのクリニックだと、電子カルテや電子決済システム自体の導入が難しいという現実があります。いまだに紙カルテを使用しているようなクリニックも多く、受付の人もITアレルギーがあるなど、そういうクリニックでは導入が難しいと思います。一方、ITを抵抗なく駆使できるような若手医師 のクリニックでは、システムの導入自体はそんなに難しくないと思います。
後者は重要なポイントです。保険診療は、基本的に単価が国によって決められており、どの病院で検査や治療を受けても、基本的に同じ額が請求されます。病院やクリニックが自由に価格を設定できないため、決済手数料の数%とて、経営上バカにできないのです。
その点、美容系の医療機関は、基本的に全額自己負担のため、自由に価格設定できるので、電子決済を導入している所が多いです」
Q.キャッシュレス決済ができる病院やクリニックは増えてきているのでしょうか。
井上さん「キャッシュレス決済ができる病院やクリニックは確実に増えてくるだろうと思います。それは社会でDXが進むにあたって、取り組んでいかざるを得ないからです。
例えば、オンライン診療の場合、電子決済ができないと、結局、支払いのためクリニックに出向くことになり、オンライン診療の意味がありません。オンライン診療がもっと一般化すれば、電子決済を導入するクリニックは増えてくると思います。
コロナ禍で、オンライン診療を行うクリニックは確実に増えています。当院でも、新型コロナに感染した患者さんに対するオンライン診療を行っており、その場合は電子決済を行っています。
また、高額な薬を扱うクリニックも増えてきており、そのような医療機関ではキャッシュレス決済を導入していくと考えられます。
最先端のクリニックや病院では、事前にクレジットカードを登録しておくことで、診察後に会計の待ち時間なしで帰れるという画期的なシステムを入れているところもあるようです」
Q.病院やクリニックがキャッシュレス決済を導入した場合のメリット、デメリットを教えてください。
井上さん「病院、クリニック側のメリットは、会計時の取扱現金が減り、ミスが少なくなることです。また、完全キャッシュレスに移行できた場合、会計の締め作業が圧倒的に楽になり、人件費のコスト削減が望めます。ただし、医療という性質上、お年寄りの患者さんが多い病院やクリニックも多く、その場合は、すぐに完全キャッシュレスへ移行するのは難しいと思われます。
一方、デメリットはやはり、決済手数料の負担です。1日の売り上げが非常に多い保険診療のクリニックで、クリニック受診者が全員クレジット決済を行ったとしても、他の業種に比べれば決済額は多くないため、決済手数料が下がりにくいのが実情です。仮に、クリニック向けの決済手数料の引き下げサービスが登場すれば一気に進んでいく可能性があります」
Q.病院やクリニックがキャッシュレス決済を導入した場合の、患者側のメリット、デメリットを教えてください。
井上さん「患者さんのメリットとしては、高額な検査・治療を受けた場合での支払いが楽になることがあります。カード決済会社のポイントが患者さんに付くことも、一つの魅力かもしれません。
患者さんのデメリットはあまりないように思います」
Q.今後は、キャッシュレス決済が増えていくのでしょうか。それともある程度の段階で普及が伸び悩むのでしょうか。理由も含めて教えてください。
井上さん「たとえ医療の現場であっても、DXの波は必ずやって来ます。(DXが進まなかった企業などでさまざまな問題が起きる)『2025年の崖』以降は、時代の求めに応じて、クリニックも対応を迫られると私は思います。
ほぼすべての病院やクリニックで普及していくと考えられますが、そのタイミングとしては、クリニックにおいては世代交代が一つの鍵です。ITに慣れていない世代から、デジタルネーティブ世代の医師が経営方針の実権を握れば、順次変わっていくものと思います。一方で、後継者がいないクリニックにおいては、現金主義を貫く可能性が高いと思います」
オトナンサー編集部
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