戦車の防御に木の板、丸太、トゲトゲ…意味ある? 米軍がM4戦車を“現場で魔改造”しまくったワケ
- 乗りものニュース |
第2次世界大戦中、アメリカ軍の主力戦車であったM4「シャーマン」には、車体の周りに木の板を張り付けたものが一定数ありました。鉄板ではなく木板ですが、これは日本軍のある攻撃から“愛車” を守るためのものだったそうです。
木の板にコンクリートの合わせ技も
第2次世界大戦中から戦後の長いあいだ、生産国であるアメリカを始め、その同盟国などで多用されたM4「シャーマン」中戦車。最前線で戦う様子を記録した戦場写真を見ると、車体に土嚢を積み上げたり、はたまたログハウスのように丸太を積んだり、車体全面に木板を張ってその隙間にコンクリートを流し込んだりした、現地で即興改造された車体を数多く見ることができます。
どれも、素人目にはあまりカッコよくない、いわゆる「やっつけ」といった感の強い改造ですが、これには乗員たちの生き残りをかけた必死の思いが込められていました。
硫黄島の戦いに投入されたアメリカ海兵隊のM4「シャーマン」戦車。予備履帯と木の板で防御力向上を図っている(画像:アメリカ海兵隊)。
第2次世界大戦中、戦車の装甲を貫いて撃破するには3つの方法がありました。
1つは、榴弾を撃ち込んでその炸薬の爆発力で装甲を叩き割るもの。これは、第1次世界大戦で戦車が初めて実戦に使用された頃からある装甲の貫徹(撃破)方法です。しかし、そもそも装甲は砲弾の炸裂から人員や各種機器を守るために用いられるものなので、装甲の厚さによっては途方もない炸薬量が必要となります。とうぜん、そんな砲弾はサイズも重さも果てしなく大きくなるため、それを発射する砲も比例して大きくならざるを得ず、移動にも大変な手間と人数がかかってしまいます。
2つめは硬い素材で作られた弾(徹甲弾)で装甲を貫くやり方です。榴弾による「叩き割り」の次に古い装甲の貫徹方法ですが、このやり方は運動エネルギーが必要になるため、徹甲弾に大きな運動エネルギーを与えるためには、飛翔速度を高める必要があり、そうなると榴弾の場合と同じく、相応の大きさの砲が必要となります。
3つめは成形炸薬(HEAT)弾という化学エネルギー弾を使って装甲を貫徹する方法です。これは以前から知られていた「モンロー/ノイマン効果」と呼ばれる、構造的に工夫された爆薬の炸裂によって生じる化学エネルギーを用いた装甲貫徹方法です。このやり方は3つの中で最も新しく、第2次大戦中に開発されました。
兵士1人でも戦車に立ち向かえるようになったことが転機に
成形炸薬弾は、さほど多くない量の爆薬で、かなりぶ厚い装甲でも貫徹できるため、砲弾はそこまで巨大化しません。加えて運動エネルギーで装甲を貫くのでもないため、射距離で貫徹力が弱まるようなこともありません。
そのため、小型軽量化しやすい砲弾でもあり、歩兵が携行できるバズーカやパンツァーファーストといった歩兵携行式対戦車兵器に始まり、その構造を応用して対戦車てき弾(グレネードランチャー)、対戦車手榴弾、対戦車吸着地雷といった個人用対戦車兵器も造られました。この成形炸薬弾の出現で、兵士1人でも戦車を撃破できるようになったといえるでしょう。
こうした流れにより、成形炸薬弾は戦車にとって最大の脅威となりました。なにしろ偽装して草木やくぼ地の中に潜む歩兵というのは、カモフラージュした大砲や戦車などとは比べ物にならないほど見つけるのが難しく、状況によっては最も厄介な相手になりうるからです。
南太平洋、クェゼリンの戦いに投入されたアメリカ海兵隊のM4「シャーマン」戦車。車体上部に載せているのは、日本軍の94式軽装甲車(画像:アメリカ海兵隊)。
しかし、成形炸薬弾には大きな弱点もありました。
成形炸薬を用いて装甲を貫徹するには、「炸薬が爆発する面が装甲に正対したうえで密着している必要がある」からです。この、装甲と成形炸薬弾のあいだの適切な距離(往々にして密着状態)をスタンド・オフと呼びます。密着せずに装甲と成形炸薬弾の起爆面が離れてしまうことを、俗に「スタンド・オフが狂う」と称しますが、このスタンド・オフが狂った状態で起爆した成形炸薬弾は、その装甲貫徹力を大きく減じてしまいます。
逆にいえば、化学エネルギーを利用した成形炸薬弾は、運動エネルギーを利用した徹甲弾のように「装甲を厚くする」ことで貫徹されないようにするだけでなく、「スタンド・オフを狂わせる」だけで、その貫徹力を失わせることができるのです。
木の板だけでなく丸太や土のう、予備履帯も
そこで第2次世界大戦中、ヨーロッパ戦域で戦ったM4「シャーマン」戦車は、そのスタンド・オフを狂わせる効果だけでなく、運動エネルギーで装甲を貫こうとする徹甲弾に対してもある程度は補助装甲としての効果が期待できるものとして、予備の履帯(いわゆるキャタピラ)を車体や砲塔にぶら下げたのです。
また、それ以外にも車体に柵を取り付けて大量の土嚢を積み上げたり、ログハウスのように丸太を積んだりしてスタンド・オフを狂わせるといった工夫を施していました。特に後者は、副次的に泥濘や積雪からの脱出時にも、その丸太を履帯の下に敷くなどして利用できたそうです。
硫黄島の戦いで地雷を踏んで立ち往生したアメリカ海兵隊のM4「シャーマン」戦車(画像:アメリカ海兵隊)。
一方、太平洋戦域のM4「シャーマン」戦車は、肉薄攻撃を得意とする日本軍と戦うため、同軍ならではの自殺的兵器である刺突爆雷や、磁石で吸着するタイプの爆雷、梱包爆薬への対策を施します。車体に木板を張ったり、車体と木板の隙間にさらにコンクリートを流し込んだりして、被害を軽減しようとしていました。
これらの改造は主に海兵隊所属の戦車で多く見られましたが、丸太の積み重ねに関しても、ヨーロッパ戦域と同じく行っていました。
さらには、日本兵が車上に乗ってくるのとスタンド・オフを狂わせる両方の目的で、砲塔や車体の上面、乗員用ハッチなどに、細く短い鉄筋をハリネズミのごとくびっしりと植え込んだ例などもあります。
戦車兵に限らず、命がけで戦っている兵士にとって、相応の努力をすれば生存率が上がる即興の改造は、たとえ傍目には仕上がりがみっともない、すなわちカッコ悪くなるようなものであったとしても、試してみる価値があったといえます。
それで、わずかでも生き延びられる確率が向上するなら、なりふりかまわず行うのはヨーロッパ戦域でも太平洋戦域でも一緒です。ある意味では、それが最もわかりやすく写真で残っているのが、アメリカ軍のM4「シャーマン」戦車だったといえるでしょう。
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