自衛隊は導入まもなく? 謎の「日の丸水陸両用車」とは 売り込みかける造船系メーカーを東南アジアで直撃!
- 乗りものニュース |

ベトナムで開催された防衛装備イベントに日本から防衛装備庁と企業もブースを出展。そこで「多目的水陸両用車」なる車両を見つけました。作ったのは造船メーカーJMUの関連会社。海外輸出を考えているのか、色々聞きました。
ベトナムの防衛展示会になぜ展示?
2024年12月にベトナムのハノイで開催された、国際的な防衛装備の展示会「ベトナムディフェンスエキスポ2024」。ここへは日本の防衛装備庁もブースを出展し、さまざまな国内防衛関連企業が自社製品をアピールしていました。その中で、護衛艦建造などで実績のあるJMUディフェンスシステムズは、「多目的水陸両用車(Multipurpose Amphibious Vehicle)」という名称の車両を、模型で展示していました。
訓練で砂浜から上陸する94式水際地雷敷設装置。単独で陸上と水上を行き来できるため、輸送車両としてのニーズもあるかもしれない(画像:陸上自衛隊)。
実はこの車両、陸上自衛隊が運用している94式水際地雷敷設装置から派生したモデルです。この装備品は海岸線に機雷を敷設して上陸してくる敵部隊を阻止するのが任務で、陸上から発進して海上で敷設作業を行うために水陸両用車として設計されています。
装置は、「敷設車」とよばれる車体部と、その荷台部に搭載される敷設装置の双方で構成されます。敷設車の寸法は全長11.8m、全幅4m(水上航行時)、全高3.5m。水上では最大速度11km/h(約6ノット)で船のように航行でき、車体下部に車輪があるためそのまま海岸と陸上を行き来することが可能で、路上では最大50km/hでクルマのように走れます。
94式水際地雷敷設装置は、その名の通り1994(平成6)年に制式化された古い装備で、採用からすでに30年以上が経過しています。ゆえに、2025年現在は更新するために新設計の試作車が造られており、陸上自衛隊の装備実験隊において試験が実施されています。
試作車はエンジンなどの内部機器が最新型に更新され、水上航行時に推力を生み出すスクリュープロペラも、ウォータージェットポンプに置き換えられています。今回出展された「多目的水陸両用車」も、この陸上自衛隊向けの新設計車両をベースに想定しているそうです。
用途などを鑑みるに、前出の試作車など島国である日本の防衛に特化した装備だといえますが、なぜそのような車両をベトナムの防衛展示会に出展したのでしょうか。
機雷敷設じゃなくて水陸両用トラックとして提案
JMUディフェンスシステムズでは、この「多目的水陸両用車」を陸上自衛隊が使う機雷敷設任務ではなく、より汎用性の高い水陸両用の輸送車両として、現地では提案していました。
「ベトナムディフェンスエキスポ2024」に出展した防衛装備庁の日本ブース(布留川 司撮影)。
94式水際地雷敷設装置では、車体の後方に機雷と敷設機器を搭載するスペースがあることから、ここをトラックの荷台と同じように使うことで、人員や物資の輸送任務に転用することが可能です。
実際、各地で行われている防災訓練ではそうした使用を想定して人員輸送の訓練を行っているほか、2011(平成23)年に起きた東日本大震災では、ダイバーを載せて行方不明者の海中捜索を行うための水上プラットフォームとして重用されていました。こういった実績に基づいて着想された「多目的水陸両用車」は、いわば水陸両用トラックともいえる存在です。
今回出展したベトナムは国土の東側が外洋に面しており、日本と同じように島嶼部も多い国です。そのため、このような水陸両用車は軍事だけでなく、被災地支援や民間でも一定のニーズがあると考えたのでしょう。
展示ブースのJMUディフェンスシステムズ担当者は、会場での来場者の反応について次のように説明してくれました。
「ベトナムは海岸線が長くて島も多いので、このような外洋を航行できる水陸両用車に興味を持つ方も多かったですね。ベトナム政府のチン首相閣下も展示会初日にこちらのブースに立ち寄ってくださいまして、我々の説明を聞いて『このような乗り物はわが国にも必要だと思う』とおっしゃって下さいました」。
簡単には売れず 今後を見据えての動きが肝要
会場で一定の注目を集めた「多目的水陸両用車」ですが、これがすぐに海外へ輸出(防衛装備庁では「装備品移転」と表現)されるわけではありません。
「ベトナムディフェンスエキスポ2024」の屋外展示の様子。展示された兵器はロシア由来のものが多い(布留川 司撮影)。
一番の障害はこの車両の価格です。現時点では開発・試験中の車両であるため正確な価格は不明ですが、94式水際地雷敷設装置では1両の値段が約5億円で、機雷敷設装置などを抜きにしても車両としては割高であるのは間違いないでしょう。
JMUディフェンスシステムズも、そのあたりの事情は認識しているようで、今回の出展の一番の目的は同社の技術力のアピールと、アジア地域のマーケットをリサーチすることだったと説明していました。
現在、防衛装備庁は欧州やアジア地域の防衛見本市で積極的にブース出展しており、参加企業も既製品の輸出だけでなく、会場での来場者の反応や海外の動向を探るリサーチも合わせて行っています。
営業する際に、ユーザーニーズや顧客情報を把握し、市場調査などを行うのはどの業界でも同じことです。その点で、現地にブースを出して実際に趣くというのは、契約に結び付かなくとも必須のことだと言えるようです。
出展回数を重ねていることから、ひょっとしたら今後は海外ニーズに合わせた新しい装備品が出展されるかもしれません。
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