「貨物が主役・旅客は赤字」のアメリカで“とんでもない規模”の鉄道会社が誕生へ! なぜそんなに貨物が儲かる?
- 乗りものニュース |

アメリカの貨物鉄道最大手が、同業4位の会社を買収すると発表しました。その額は約12.5兆円。旅客鉄道の業績低迷とは対照的に、アメリカではなぜ貨物鉄道がそれほど儲かっているのでしょうか。
全米鉄道史上イチの大型合併に
アメリカの貨物鉄道最大手ユニオン・パシフィック(UP)が2025年7月29日、同業4位のノーフォーク・サザン(NS)を850億ドル(1ドル=147円で約12兆5000億円)で買収すると発表しました。実現すればアメリカの鉄道業界の合併・買収(M&A)で過去最高となります。
アメリカ南部テキサス州を走るユニオン・パシフィック(UP)の貨物列車(大塚圭一郎撮影)
両社の2024年決算の売上高を単純合算すると363億7300万ドル(約5兆3470億円)で、これはJR北海道、東日本、東海、九州の24年度連結売上高の合計さえも上回る規模になります。アメリカ西部を基盤とするUPが東部を地盤とするNSを買収することで東西に結ぶ「大陸横断鉄道」が誕生します。
貨物鉄道が活況を呈している様子は、旅客鉄道を運行する全米鉄道旅客公社(アムトラック)が慢性的な赤字に陥っているのとは対照的です。大型M&Aに批判的だったジョー・バイデン前大統領(民主党)から、大口献金元の大企業や富裕層に肩入れしているドナルド・トランプ大統領(共和党)へ移行したことで承認される確率が高まり、大型再編が今後も続くとの見方が出ています。
大手企業同士が合併すれば支配力が高まり、貨物鉄道であれば荷物を運ぶ運賃が上がり、コスト上昇分が最終製品に転嫁されて値上げにつながる副作用を招きかねません。中間層および労働者を重視していたバイデン氏は過去のM&Aについて「巨大企業に大きな力を与える40年間の実験は失敗した」と非難し、市場の寡占化が進んで値上がりにつながりかねないM&A計画は規制当局に阻止されてきました。
対照的にトランプ氏は「大きいことはいいことだ」との信念を持ち、バイデン氏が禁止命令を出していた日本製鉄によるアメリカの大手鉄鋼メーカー、USスチールの買収計画も条件付きで承認しました。約141億ドル(1ドル=147円で約2兆730億円)に上る買収額が注目を浴びましたが、それでもUPによるNS買収額の約6分の1にとどまります。
あるエコノミストは「トランプ政権になって大企業のM&Aへの意欲が急速に高まった」と指摘し、UPによるNSの買収計画は、大型再編が活発化する号砲を告げました。両社は規制当局のアメリカ陸上運輸委員会(STB)による承認を前提に、2027年早期の買収手続き完了を見込んでいます。
貨物ウハウハ、旅客は赤字
アメリカ運輸省によると、2019年の国内貨物輸送手段のうち鉄道貨物のシェアは首位のトラック(39.6%)に次ぐ2位で27.9%に達し、運んでいる品目は石油や石炭などのエネルギー製品、自動車部品、建設資材、化学品、食品、紙・パルプなど多岐にわたります。他方で国土交通省によると、日本の2016年度の貨物輸送量のうち鉄道は0.9%と自動車(91.4%)に大差を付けられています。
アメリカ東部メリーランド州を走るアムトラックの夜行列車「キャピトルリミテッド」(大塚圭一郎撮影)
筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)が2020―24年に勤務先のワシントン支局時代に住んでいた家の近くには、貨物鉄道3位のCSXトラスポーテーションの線路があり、ディーゼル機関車が100両を超える貨車を牽く列車が頻繁に行き来していました。これに対し、同じ線路を走るアムトラックのワシントンDCと中西部シカゴを結ぶ夜行列車「キャピトルリミテッド」は1日1往復だけです。
アメリカ鉄道協会は、貨物鉄道は2023年に2334億ドル(1ドル=147円で約34兆3100億円)の経済効果をもたらし、業界の直接雇用者数だけで約15万3000人に達すると強調しています。
UPは2024年決算の最終的なもうけを示す純利益が67億4700万ドル(1ドル=147円で約9920億円)に上り、2024会計年度(23年10月-24年9月)の純損益が18億940万ドル(約2660億円)の赤字だったアムトラックとは雲泥の差です。UPの売上高は242億5000万ドル(約3兆5650億円)と、アムトラック(38億3600万ドル)の6倍強に達しました。
アムトラックは1971年、マイカーや旅客機の普及で経営難に陥った各地の旅客鉄道会社20社の事業を吸収して発足しました。もともと採算が厳しかった旅客鉄道事業の寄せ集めのため慢性的な赤字体質で、連邦政府や沿線の州政府からの補助金で赤字を穴埋めするという綱渡りの経営を続けています。
貨物が強い「日本と真逆の構造」
貨物鉄道が旅客鉄道に比べて圧倒的に優位な要因としては、線路の大部分を貨物鉄道会社が保有していることがあります。
業界3位、CSXトランスポーテーションの貨物列車。アメリカ東部メリーランド州で(大塚圭一郎撮影)
アムトラックが列車を運行している総延長は計約3万4400km、そのうち自社で線路を保有しているのは首都ワシントンDCと北東部ボストンを結ぶ主要路線「北東回廊」の一部、約1000kmに限られます。残る区間は貨物会社に線路使用料を支払い、使わせてもらっています。
この構図は日本とは正反対です。JR貨物が貨物列車を走らせている区間の大部分は旅客鉄道の所有で、自社で線路を持っている区間はごく一部に限られ、JR旅客6社(JR北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州)および第三セクター鉄道に線路使用料を支払い、貨物列車を運行しています。
アメリカの貨物鉄道会社は線路使用料が重要な売り上げになるのに加え、線路を持っている区間では「露骨に自社の貨物列車を優先的に走らせており、旅客列車は後回しにされている」(アメリカの鉄道会社社員)のも競争力の源泉となっています。
アムトラックは列車の遅延が多いことで知られ「珍しく定刻だと驚いたら、それは前日の同時刻に来るはずの列車だった」という冗談もあります。ただし、遅延の一因になっているのは、貨物列車の通過待ちや、単線区間での行き違いです。
貨物鉄道会社の露骨な自社優遇へのけん制手段として、アムトラックは走らせている貨物鉄道ごとの遅延状況を「A」(大部分の旅客列車が時間通りだった)から「F」(大部分の列車が著しく遅延した)までの段階で格付けする報告書を毎年発表しています。
2024会計年度は貨物列車によるアムトラックの遅れは85万分に達したとして「これは映画『タイタニック』を4594回視聴するのに相当する」と指摘し、UPは「Bマイナス」(Bは一部のルートの旅客列車が遅延)で5位、NSは「Bプラス」で2位でした。「A」を獲得したのは首位となり、カナダとアメリカ、メキシコに路線網を持つ貨物鉄道大手、カナディアン・パシフィック・カンザス・シティ(CPKC)だけでした。
さらに大型統合が続く可能性も
UPは、NSを買収すればアメリカの東西43州にまたがる総延長8万キロを超える路線を抱え、約100の港湾をつなぐことになると説明。STBからの承認取得に向け、「アメリカのサプライチェーン(供給網)を変革し、製造業を強化させ、新たな経済成長と雇用の源泉を創出する」とアピールに余念がありません。
しかしながら、トランプ政権が大企業寄りであっても、アメリカのM&A審査では競合他社や取引先が反対意見を表明するなどの横やりが入るのが一般的です。イギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズの2025年8月3日付記事によると、既に7つの荷主団体がUPによるNS買収が実現すれば支配力が大幅に高まり、運賃上昇やサービス基準の低下につながりかねないとの懸念を示しました。
うちアメリカ化学工業協会は7月30日に発表した声明で「貨物鉄道業界のさらなる合従連衡でアメリカの製造業にマイナスの影響が生じかねないと深く憂慮している」とし、「鉄道間の競争が著しく低下するいかなる合併に強く反対する」と訴えました。また、連邦議会の民主党トップ、チャック・シューマー議員は買収計画について「危険な統合と独占力の道をさらに進めることになる」と警告し、「これはアメリカのインフラの敵対的買収行為だ」と舌鋒鋭く批判しました。
貨物鉄道2位のBNSFと3位のCSXが統合を検討する可能性も報じられている中で、UPによるNS買収が実現するかどうかは、アメリカの貨物鉄道の「大再編時代」が到来するかどうかを占う試金石となりそうです。
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