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「平塚まで禁煙」ってどういうこと? 男性喫煙率83%で駅も車内も「モクモク」 別世界だった昭和の鉄道

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昭和はたばこを吸い放題だった

 筆者(鉄道ライター・杉山淳一)は気管支が弱いのでたばこを吸いません。しかし、たばこを吸う人をカッコいいなあと思っています。例えば刑事ドラマ『大都会パートIII』のラストシーン。事件解決後、たばこをくゆらせながら歩いて行く黒岩啓治(渡哲也)。エンディングテーマ曲『日暮れ坂』も哀愁が漂っていました。女性だとアニメ『ルパン三世』の峰不二子がカッコいいです。彼女のたばこの銘柄は「モア・メーソール」です。

Large figure1 gallery5列車の座席に設置された灰皿(画像:kent1103 / PIXTA)

 これらのドラマやアニメが放送されていた昭和時代、たばこは日常的な存在でした。1975(昭和50)年の成人男性の喫煙率は約76.2%、女性は約15.1%だそうです。これでも少し減ったほうで、1966(昭和41)年の喫煙率は男性が約83.7%、女性が約18.0%でした。ちなみに2024年の喫煙率は男性が約24.5%、女性が約6.5%だそうです。かなり減りましたね。

 昭和時代の駅や列車はたばこを吸い放題でした。すべての車両で喫煙が可能、座席付近には灰皿が設置されていました。四角い鉄の箱にフタが付いていて、掃除作業に配慮して、くるりと回すと天地が逆になって灰と吸い殻が下に落ちます。

 ただし、大都市近郊区間の通勤電車は混雑と火災防止のため禁煙だったため、喫煙者は駅で吸いました。通勤時間帯の駅で、煙が焼き鳥屋の屋台のようにモクモクと立ち上る様子を覚えています。プラットホームのほぼすべての柱に灰皿が取り付けられていました。今では考えられませんが、当時はそれが当たり前でした。

 長距離普通列車も通勤電車が走る区間では禁煙でした。東海道本線の車内に「禁煙区間 東京~平塚間 NO SMOKING TOKYO←→HIRATSUKA」の看板が掲出されていました。東北本線は「上野~小山間」、近畿は「京都~西明石間」が禁煙区間に指定されていました。

ただし「分煙」は明治から実施されていた

 ただし、明治時代の鉄道開業直後から、鉄道は「分煙」に配慮していたようです。1897(明治30)年に発行された「鉄道法規類抄」によると、1886(明治19)年の通達「禁煙車連結に関する件」で、「自今毎列車連結車輛ノ内中等車壹輛丈ハ必ズ禁喫煙トシ分連結可有之、且該車ハ専ラ外国婦人ノ喫煙ヲ嫌フガ故ニ設ケタルモノニ付可成外国婦人ヲシテ之ニ乗ラシメ、他ノ旅客ヲシテ除リ雑?セシメザル様、車掌長ニ於テ専ラ御注意可有之、此段申入候也。」とあります。

 現代語に訳すると「今後は、各列車に連結されている車両のうち、中等車の1両を必ず禁煙車とし、編成に組み込むこと。また、この車両は主として喫煙を嫌う外国人女性のために設けたものであるため、できるだけ外国人女性をそこに乗せ、他の乗客で混雑させないよう、車掌長は特に注意すること。以上申し入れる。」となります。

 時代が進むと、急行列車に喫煙室が設置された時期もあったそうです。後に新幹線の「こだま」16号車に禁煙車が設定されました。

 禁煙車拡大の転機は、1980(昭和55)年の「嫌煙権訴訟」でした。「嫌煙権確立を目指す法律家の会」が、国鉄車両の半分を禁煙車とするなどの処置を執るよう求めて、列車を運行する国鉄、国鉄を所管する国、たばこを販売する日本専売公社を訴えました。この裁判は7年後の1987(昭和62)年に東京地裁で判決が下され、原告の請求は棄却されました。

 理由は、「国鉄以外の交通手段があるので煙害の回避は困難ではない」「受動喫煙の害と不快感は認められる。しかし、国鉄の車内の受動喫煙は一過性であり受忍限度の範囲内」「日本の社会が喫煙に寛容」でした。「国鉄だけが受動喫煙させているわけではないし、ガマンしなさい」と受け止められる判決でした。原告は控訴せず判決が確定しましたが、受動喫煙の害は1970年代から認知されており、この裁判をきっかけに鉄道の禁煙車が増えていきます。月刊時刻表の編成表では、禁煙車と喫煙車がマークで示されていました。

 筆者が2003(平成15)年に東海道・山陽新幹線で広島に行ったときのことです。禁煙車からプラットホームに降りると、目の前に喫煙コーナーがありました。しかも屋根がなく、衝立で仕切っただけという構造でした。煙が周囲に拡散しています。「禁煙車を降りたら受動喫煙という状況は問題だ。配慮が必要ではないか」と、JR西日本の公式サイトからメッセージを送りました。返信は「そこしか喫煙コーナーを作れなかったのでご理解ください」という内容だったと記憶しています。

今も残る「喫煙車」はあの人気列車

 1987(昭和62)年に国鉄が分割民営化してJRグループが発足すると、分煙・禁煙施策が進みます。ちなみにこの年の喫煙率は男性が約61.6%、女性が約13.4%でした。当時は航空機がまだ喫煙可能、高速バスは禁煙化が進んでいました。これらに対抗する意味でも、禁煙車の増加はサービス向上になるという判断です。

 2003(平成15)年に健康増進法が施行され、第一条で「国民の栄養の改善その他の国民の健康の増進を図るための措置を講じ、もって国民保健の向上を図る」と定義され、食生活、運動、休養、飲酒、喫煙、歯の健康維持について、国民、国、地方公共団体、健康増進事業実施者の責務が定められました。このなかで、公共施設や飲食店などにおける受動喫煙の防止も求められました。

 2007(平成19)年、JR九州が「分煙」から「禁煙」に方針を転換し、トイレ・デッキを含めた全車禁煙の列車を増やします。この動きに他のJR各社も追随します。駅の禁煙と密閉された喫煙ルームの設置、全列車の禁煙化が進みます。ビジネス客が多い東海道・山陽新幹線は喫煙ルームが設置され、それ以外の場所は禁煙になりました。この喫煙ルームも2024年に廃止され、有料のビジネスブースに転換されています。

 個室中心のクルーズトレイン「ななつ星in九州」は全車両禁煙です。JR九州の「列車内と在来線の駅はすべて禁煙」のルールが適用されるためです。喫煙希望者には長時間停車する駅の屋外喫煙所が案内されます。個室は他人に受動喫煙させないため、喫煙可能でも良いと思われます。しかし、「トワイライトエクスプレス瑞風」と「TRAIN SUITE 四季島」はラウンジカーに喫煙ブースが設置されています。個室に臭いが付かないようにという配慮でしょう。

 現在、JRグループで喫煙可能な列車は寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」のみとなりました。6号車と13号車が全室喫煙可能です。B個室シングルとB個室シングルツインがあります。4号車と11号車はシングルデラックス6室のうち3室、サンライズツインの4室のうち2室が喫煙可能です。

 ところで、個室といえば、10月から東海道・山陽新幹線のN700Sで個室「Supreme Class(スプリームクラス)」が提供されます。個室は誰にも迷惑をかけない、誰にも邪魔されない空間です。鉄道車両の換気性能は向上しているので、電子たばこくらいは認めて良いような気もしますが、この個室を含め全面禁煙は変わらないようです。

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