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10歳だけど読み書き、計算は遠い夢…自閉症の息子の誕生日を喜べない、母の複雑な“胸中”

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見た目と精神年齢にギャップがある自閉症の息子(べっこうあめアマミさん作)
見た目と精神年齢にギャップがある自閉症の息子(べっこうあめアマミさん作)

 ライター、イラストレーターとして活動するべっこうあめアマミさんは、知的障害を伴う自閉症がある10歳の息子と、きょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の6歳の娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。

 子どもの誕生日は、その子の誕生と成長を祝う、多くの親にとって喜ぶべきイベントだと思います。しかし、アマミさんは「重度の障害がある息子を育てる身としては、息子の誕生日は喜ぶだけとはいかない、少々複雑な思いも抱えるイベント」だといいます。

 アマミさんが、障害児の親の立場から、障害がある子どもの誕生日について、率直な心境を明かします。

実年齢と内面とのギャップを意識してしまう

 10年前の12月の寒い日に、息子はこの世に生まれました。標準的な大きさで予定日を超過しての出産。妊娠中も産後しばらくも、何も異常なく育った、元気な男の子でした。

 そんな息子が10年後、重度知的障害を伴う自閉症児として特別支援学校に通っているとは、誰が想像できたでしょうか。

 息子が年齢を重ね、成長していくことは喜ばしいことなのですが、10歳という年齢にそぐわないような精神年齢の息子は、発語もありませんし、身の回りのことも自立できていません。小学4年生にして、文字の読み書きや計算など、夢のまた夢といった感じです。

 息子の障害について、私の中ではだいぶ慣れてしまってはいますが、それでも誕生日という節目にふと年齢を意識すると、「もう10歳になるのになぁ…」と、複雑な心境になることもあります。誕生日という日が、ちょうど息子が生まれた頃を思い出させるからかもしれません。

 1年元気に過ごして、これだけ大きくなってうれしいという気持ちはあるのに、何となく実年齢と内面との乖離(かいり)を意識してしまうのです。

成長とともに自閉症の特性が強く出るように

 息子は10歳ですが、中身はおそらく1、2歳くらいかと思います。いわゆる普通のお子さんが、実年齢に合わせて中身の精神年齢も成長していくのと違って、息子の場合、体が実年齢通りに育っていく一方、精神年齢は非常にゆっくりとしか成長していきません。そのため、実年齢が上がるほど、精神年齢との差はどんどん開いていってしまうのです。

 そうなると、周囲の同年齢のお子さんとのギャップは、年齢を重ねるほど大きくなります。幼少期は同じ幼稚園で何となく一緒に過ごせていたのに、かつての同級生たちと、どんどんステージが離れていってしまうのです。

 息子は特別支援学校に通っているので、普段からいわゆる健常のお子さんたちと比較するような機会はないですが、それでも節目に実年齢と精神年齢とのギャップを意識すると、何とも言えない気持ちになります。

 何より、私自身が意識していなくても、周囲から見た息子の姿が、年齢を重ねるにつれて違和感を覚えるようになってくるので、それがつらくもあるのです。

 2、3歳の子がしゃべらなくても何も思いませんが、10歳の子が話し掛けても答えられなかったり、大きな声を出したりすれば、やはり異様に映ります。

 さらに、年齢を重ねるにつれ、自閉症の特性も強く出てくるようになります。昔に比べて、できるようになったことも増えましたが、認知力が向上したことによって自我が強くなり、昔よりも感情を強く出すようになりました。手先なども器用になったので、いたずらも高度になってきました。

 そのような困りごとも、年齢を重ねるたびに大きくなるので、誕生日を素直に喜ぶばかりではいられないというのが正直なところです。

息子の体が大きくなることへの不安

 体が大きくなったことで、介助や行動の制御がしにくくなったという問題もあります。力が大きくなったので、病院などで嫌がったとき、抑えるのも容易ではなくなりました。

 息子は比較的おとなしいタイプなので助かっていますが、「これから先、もっと大きくなって、私よりも大きくなったらフォローし切れるのだろうか…」という不安は常にあります。

 また、将来的に息子は施設などにお世話になるかと思いますが、施設はどこも空きがなく、入るのが大変だといわれています。良い施設が見つかるか、不安でいっぱいです。

 息子がもっと小さい頃は、「まだまだ先のこと」と思っていましたが、もう小学校高学年。施設に入所するのに10年待ちなどは当たり前なので、障害を持った子どもの保護者からは、「中学生くらいになったら探し始めておかないと、いざ大人になって入りたいと思ってもなかなか入れない」という話を聞くこともあります。

 息子と離れて暮らすことも、施設探しの荒波にもまれにいくことも、刻一刻と近づいてきているのだと思うと、少し憂鬱(ゆううつ)になります。

 このようなさまざまな事情から、誕生日には、息子が元気で育っていることをうれしく思うとともに、「ずっとこのままの年齢、このままの大きさでいてくれたら…」と思わずにはいられないのです。

「生まれてくれてありがとう」と感謝

 息子が年を重ねることについて、ネガティブなことを書き連ねてしまいましたが、やはり「息子がこの世に生まれた日」という誕生日は、私にとって特別な日であることに変わりはありません。

 息子を10年育ててきて、もちろん大変なことはたくさんありました。普通だったらしなくていいようなつらい経験も数えきれないほどしましたし、何度も泣きました。でも、息子の小さな成長がうれしく、喜びの涙もたくさん流してきたのです。

 息子に障害があってよかったとは決して思いませんし、私は息子の障害を「個性」などときれいごとにすることはできません。何より息子本人が、障害があることで生きづらさを感じていると思うからです。

 しかし、私は親として、障害がある息子を育ててきたからこそ出会えたすてきな人たちがたくさんいました。

 障害がある息子を通して、初めて、これまで何の縁もなかった障害児者の世界を知ることができました。私にとっては驚きやショックがいっぱいでしたが、その分、見識や人生の教訓を得て、自分が成長できたと思います。

 そして今、こうして自分の好きな「書くこと」を仕事にできているのは、息子のおかげでもあります。

 何よりも、障害があってもなくても私と夫のかわいい息子であることに変わりはありません。息子の10歳とは思えない、幼くあどけないきょとんとした顔を見ると、いとおしさがこみ上げてきます。

 複雑な思いを抱えても、やはり、息子が「生まれてきてくれたこと」に感謝する、それが私にとっての息子の誕生日です。

ライター、イラストレーター べっこうあめアマミ

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