ドツボにハマった?「アメリカ次期戦闘機」の迷走 コンセプトすら描けず イーロン・マスクの“極端発言”が予言に?
- 乗りものニュース |
アメリカの次期戦闘機計画「NGAD」が開発方針すら描けず迷走しています。昨今の情勢を受けて航空戦闘を根底から見直すべきという意見もあるなか、イーロン・マスク氏が奔放な発言で世間を刺激。その発言は“ズバリ”なのでしょうか。
開発方針決定も契約も取りやめ アメリカ次期戦闘機
アメリカ空軍のボブ・ケンドール長官は2024年12月5日、年内に予定していた「NGAD」(Next Generation Air Dominance:次世代航空支配)の開発方針決定を取りやめると発表しました。
アメリカ空軍のF-35戦闘機。イーロン・マスク氏の発言がSNSで物議をかもした(画像:アメリカ空軍)。
NGADはアメリカ空軍が現在運用しているF-22A「ラプター」を後継する有人戦闘機や無人戦闘機などを含めたシステムの総称です。
アメリカ空軍はシステムの中核となる有人戦闘機について、2024年内に本格的生産に入る前段階の設計と基礎的な材料や技術などを確認する「EMD契約」をメーカーと締結する方針を示していましたが、開発方針決定の取りやめを受けて、有人戦闘機のEMD契約締結も取りやめとなりました。
NGADの開発方針発表が中止になった背景には、アメリカ空軍がこの先、どのように制空権を確保していくかという明確なコンセプトを描けていないことがあるのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
アメリカ空軍のデビッド・W・アルヴィン参謀総長の次のような発言からも、これまでの常識を根底から見直す姿勢が感じられます。
「これまでのように何日も何週間も制空権を維持するのはコスト的に不可能。必要な時に必要な分だけ制空権を確保するための、より現実的で手頃なコストで実現できるアプローチが必要だ。空での優位を恒久的に確保して、戦いを優位に進める制空権という考え方からも脱却する必要がある」
アルヴィン参謀の発言から推測すると、F-22AやF-15のような突出した能力を持つ反面、導入コストも運用コストも高い有人戦闘機に依存するのではなく、もっと安価な別のアプローチを志向しているように思えます。
その一方で高価な有人戦闘機によって制空権を確保するという考え方も根強く存在しており、意志の統一ができなかったことが、アメリカ空軍がNGADの明確なコンセプトを描けていない理由と考えられます。
「F-35なんてマヌケ」
開発方針の発表は中止になりましたが、NGADは消滅したわけではなく、開発方針を含めたNGADの方針決定は、2025年1月に誕生予定の第二次ドナルド・トランプ政権に引き継がれます。
アメリカ空軍のF-22戦闘機(画像:アメリカ空軍)。
トランプ政権で政府効率化省を率いる予定の実業家イーロン・マスク氏は2024年11月24日に「X」(旧Twitter)において、小型ドローン(航空機)の大群が編隊飛行する動画を投稿し、次のようなコメントを付しています。
「一方で、いまだにF-35のような有人戦闘機をつくっているマヌケもいる。F-35の設計は要求段階で破綻していた。あまりに多くの人から、あまりに多くのことを求められたせいでね。結果として何でもこなせるが取り柄もない、高価で複雑な代物ができあがった。ドローンの時代に有人戦闘機なんて時代遅れ。パイロットが犠牲になるだけだ」
マスク氏の発言には専門家や軍事マニアなどが反発していますが、筆者は、マスク氏がF-35の抱えている問題点を把握しているなと思いました。いずれにせよ要職に就く予定の人物の発言であるだけに、NGADにも何らかの形で彼の意思が反映されると見るべきでしょうし、その発言にただ反発するのは、いささか幼稚なのではないかと思います。
実のところ、無人航空機が航空戦闘のあり方を変えると考えているのはマスク氏だけではありません。アメリカ空軍のジェームス・C・スライフ参謀次長もミッチェル航空宇宙研究所のイベントで「安価な無人機が航空優勢の定義をどのように変えるか再考する必要がある」と述べています。
スライフ参謀次長の発言は、マスク氏のそれほど極端なものではなく、無人航空機が有人戦闘機にとって代わることを意味するものではありませんが、アメリカ空軍の制服組No2がこのような発言をしているあたりから見ても、トランプ氏の任期中にNGADの開発方針が決定されるとすれば、システム全体の中の無人航空機が占めるウェイトは大きなものになると予想されます。
第一次トランプ政権の“野心的な計画”があった
第一次トランプ政権(2017~2021)政権下では、「デジタル・センチュリーシリーズ」という、次世代有人戦闘機の開発計画も進められていました。
これはデジタル設計技術と3Dプリンターなど最新の製造技術を駆使して、おおよそ8年ごとに、その時点の最新技術を盛り込んだ新戦闘機を戦力化するというものです。すでに就役している戦闘機はおおよそ16年程度で退役させ、他国より早い周期で新しい戦闘機を実用化して他国の追随を不可能にすると共に、現行よりも安価に戦闘機を製造するという、野心的な計画でした。
さすがに第二次トランプ政権で、この計画がそのまま復活するとは筆者も思いませんが、コストを重視するデジタルセンチュリーシリーズの思想は、NGADの有人戦闘機の開発方針にも反映される可能性が高いのではないかと思われます。
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