「子なし」と「子あり」の間にあるものって? 私たちが「産むか、産まないか」の属性に縛られすぎないために
- マイナビウーマン |

コラムニストの月岡ツキさんが、マイナビウーマンで連載していたコラム『#母にならない私たち』が『今世は母になりません 子どもを持たない私たちの本音と幸せ』として太田出版で書籍化し、2026年9月9日に発売されました。
「なぜ、子どもがほしくないのか」という問いと向き合い続けた連載の日々から、はや数年。子を持ちたくないと考えている既婚女性11人に“産まない理由”を聞いた月岡さんに、連載を振り返りながら「産む産まない論争」や、私たちの生きづらさについて考えてもらいました。
■「子なし」「子持ち」の属性も移り変わる可能性がある
――月岡さんは連載当時、DINKS(仮)として「産む産まない」に関するコラムや発信をしていましたよね。このテーマを掘り下げようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
私自身、20代の頃から結婚にも子どもを持つことにも積極的ではありませんでした。今の日本社会の中で子どもを産んだとしても、女性が削られる部分の方が多いと考えていましたし、苗字を変えるのも、女性に育児や家事の負担が傾いているのも、納得がいきませんでした。
とはいえ、ひょんなことから結婚はしたわけですが、いざ子どもを持つか考えた時に、やっぱり積極的になれなかった。その葛藤について前著『産む気もないのに生理かよ!』(飛鳥新社)というエッセイ集で考えてみて、自分のなかではある程度納得できたのですが、次は「他の女性はどう思っているんだろう」というのを知りたくなって。
「次は子どもを持たない既婚女性に話を聞いてみよう」と思ったのが、『今世は母になりません』の企画ができた最初のきっかけでした。
――私も現在DINKS(仮)ですが、今子どもがいない理由は、上手く言語化できませんね。そういう人も少なくないのではないでしょうか。
身体を張って子どもを産むのは女性ですし、妊娠・出産の身体の変化には、不可逆であることもありますよね。しかも産めば、途中で「母親を辞める」ということはできないわけです。
他にも経済的な理由、社会への不安や制度不足、パートナーとの意見の違い、自分の親との関係、そもそもの自分の価値観など、子どもを持つに至らない理由は複雑で複合的だから、一言で説明するのは難しいのだと思います。
今回『今世は母になりません』でいろいろな女性にインタビューしてみて、みんな様々な背景や理由から子どもを持たない選択をしているということが改めてわかりました。
子どもがいない人生の中でも、幸せの形や家族のあり方は多様ですし、既婚とか、子なしとか、DINKS(仮)とか、ラベリングすることで窮屈さを感じることもあるなと思って、私も最近は「DINKS(仮)」という肩書きをつけるのを辞めました。子どもを持たないだろうなというのは変わりませんが、あまり属性のラベルって意味がないんじゃないかと思って。
――自分の状態を「今はこれ」と決めてしまうと、属性を変えるのが急に怖くなりますよね。
分かります。ただ、私が結婚するつもりはなかったものの結婚したように、人生って急に変わっていくこともあるので、無理に「自分の属性はこれ」と決め切らなくても「変わるときには変わる」でいいのかなと思っています。
――書籍の中でも、インタビューの後日には、人生が変化していた人もいましたよね。
そうそう、今回書籍化するにあたって、もう一度みなさんにご連絡したんです。そうしたら、インタビュー当時とは全く違う状況、すなわち「既婚子なし」ではなくなっている方もいらっしゃって、まさに「人生は流動的だな、属性は移り変わるんだな」と思ったんです。

■産むか産まないかを、選べるからこその苦しみがある
取材させていただいた女性たちの、葛藤している時期の話を納めさせていただけたのは、本当に貴重だったなと思います。一方で、考えが変わったり、それによって「あのときああしていれば」と思ったりする事を恐れすぎなくてもいいんじゃないかな、と思えたので、その後の話を聞かせてくれた方たちにもすごく感謝しています。
――たしかに、30代って「子どもいらないって言ってた子が、いつの間にか産んでた!」みたいな話もよく聞きますよね。
持つ人と持たない人で、二分化しているように見えるけれど、実際はグラデーションがあると思います。持たない人も、感情は日々揺れ動くし、持つ人の中にも「妊娠中もずっと葛藤していたし、葛藤しながら子育てしている」という人もいますから。
――絶対に欲しいわけでも、絶対にいらないわけでもないという人もいる気がしますよね。
「絶対」と決め切るほどの理由もないみたいな意見もありますよね。今の社会的にも、絶対欲しいと言い切るには越えなきゃいけないハードルが高すぎるのもあると思います。
――「いても、いなくても、どっちでもいい」が一番つらい……という意見も聞いたことがあります。
それでいて、身体の方にタイムリミットがありますからね。とはいえ、人生の幸せビジョンみたいなものが、普遍的な「父母と、子」というイメージに偏っていることが、自分を苦しめてしまうこともあると思うので、全く違うパターンの幸せを知っていくことも大切なのかなと思います。
他の人の考え、他の人の人生を知れるという意味でも、今回の書籍を作った意義があると思っています。

■「子なしと子あり」が分断されるのも、産むのが怖いのも、自分だけのせいじゃない
――今回、書籍ではNHK連続テレビ小説『虎に翼』などを担当されている、脚本家の吉田恵里香さんとの対談も収録されていますよね。
吉田さんはテレビというマスメディアの世界から、世の中に広く言葉を届けている方なので、ご自身の言葉に責任を持っていらっしゃる方だなと思いました。吉田さんは子育てもされていますが、対談では共感できるお話がたくさんありました。
――面と向かって話すと分かり合えるのに、SNSやネットを通すと、また急に「子なし」と「子あり」という肩書きでバトルが繰り広げられていることも、よくありますよね。
吉田さんとのお話の中では、こういった分断はやはり、社会全体の問題であるということも再認識しましたね。子どもがいても、いなくてもツラいことがあって、みんな余裕がない。時間や精神のリソースが限られているのに、溢れそうになるほど忙しいことが問題なのであり、私たちが職場や公共交通機関などの現場で、争わさせられているのも悲しいことだなと思います。
――SNSは相手の実態が見えないからこそ炎上しますし、だからこそ「発言しづらい場所」と捉えている人もいそうですよね。結局、リアルでもネットでも、自分の気持ちを話すのが怖くなっていく。
でも私は、自分の気持ちを喋るのが怖いと思わせられる世の中こそが異様だろうと思っています。一方でSNSが全てではないというのも事実で、子ありの人も、子なしの人も、ネットにはアップしない生活や、想いがあります。
子育てしていても、子どもに対してネガティブな感情が出ることがあると思いますし、その気持ちを表に出すことが許されないつらさは、「子どもを持つことに前向きになれない」と言いにくいことと共通する部分があると思います。属性で「わかり合えない」と線を引くのではなく、面と向かって対話をしていくということが重要なのではないでしょうか。
――「産むor産まない」に限らず、現代を生きる私たちは、さまざまな生きづらさを抱えています。月岡さんは今回の書籍をどんな風に読んでほしいですか。
産むことが怖いと感じるのは、産むと決めた人、とくに女性にのしかかる責任が重すぎるのもあると思っています。現代は、産まないという選択肢が選べなかった時代よりは自由であることは確かです。
本の中には、子どもを持たないことを不安に感じていないという女性も登場しているのですが、幸せのパターンを自分の引き出しにたくさんストックしていくことで、気づくと人生の選択肢も増えているということもあるでしょう。
SNSやネットでは極端な意見ばかりが目立ってしまうテーマですが、実際の人間の感情や事情はもっと複雑で、属性でひとくくりにできるものではありません。本書を読んで、様々な人の様々な人生のあり方に触れて、「こうでなくてはならない」という呪縛から少し解放された気持ちになってもらえたら嬉しいです。
――ありがとうございました。

『今世は母になりません 子どもを持たない私たちの本音と幸せ』

月岡ツキ/太田出版
価格:1,980円
ページ数:192ページ
女性向けWEBメディア『マイナビウーマン』で累計330万PVの大人気連載がついに書籍化! 妊活、流産、不妊治療、キャリアの不安、実母の呪い……"子なし"既婚女性11人のノンフィクション。産まない理由とは?
「まわりを納得させるために生きているわけじゃない」連続テレビ小説『虎に翼』脚本家・吉田恵里香との特別対談も収録!
30代女性から圧倒的な支持を集めるPodcast『となりの芝生はソーブルー』話し手であり重版で話題の『産む気もないのに生理かよ!』著者・月岡ツキの最新刊。月岡ツキが、子どもを持たない選択をした一般女性11人に匿名インタビュー。
──彼女たちの話を読めば、この世界には「既婚子なし女性」という人がいるわけではなく、ただそれぞれに自分の選択した人生を真剣に生きている人たちがいるだけだ、とわかっていただけるのではないかと思う。(「はじめに」より)
環境的・社会的背景、夫との話し合い、家族・親戚・友人との関わり方の変化、幸福や葛藤など赤裸々な本音を引き出し、著者の主観を交えて綴る。もし子どもを持たなかったら、どんな人生を歩むのか? 今の彼女たちの姿は、あなたの10年後の未来かもしれない。「子どもを持つ・持たない」の選択に悩みと不安を抱える全女性に届けたい、人生のリアル。
(取材・文:ミクニシオリ、撮影:大嶋千尋、編集:錦織絵梨奈/マイナビウーマン編集部)
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