産後のMRIで判明した“アスリート級”出産実話 元なでしこジャパン選手が分娩時の「いきみ」が原因で…
- マイナビウーマン |
出産を無事に終え、いよいよ始まる赤ちゃんとの新生活。 喜びと不安が入れ混じり、ママは心も体も毎日大忙しですよね。
妊娠・出産=現役引退……そんな女子サッカー界の常識を覆し、WEリーグ初の「ママプロサッカー選手」として活躍する元なでしこジャパンの岩清水梓選手。そんな岩清水選手による出産・子育てエッセイ『ぼくのママはプロサッカー選手』(小学館クリエイティブ)より一部抜粋して、連載(全5回)でお届けします。
第3回の今回はトレーニング再開を目前に骨折が判明した際のエピソード。
出産から1ヶ月半ほどが経ち、産後の体の評価を受けにJISS(国立スポーツ科学センター)を訪れた岩清水選手。産後から感じていた恥骨のあたりの痛みを伝えると……
重い腰をやっと上げたら骨折していた話
写真:佐野美樹
『ぼくのママはプロサッカー選手』より
出産を終えてからしばらくは、小さな命との生活に、責任感、緊張感、幸福感、疲労感など、ありとあらゆる感覚や感情を持っていかれていた。もう、それはそれは目まぐるしくて、適応するのに必死の毎日だった。だから、自分の体の異変にまではあまり気が回っていなかった。
退院してから、そういえばいつも痛いな……と思っていた箇所があった。
産後の私の1日はといえば、基本的にはソファにずっと埋もれるままの日々。体は出産のダメージがなかなか癒えず、動くこともままならず、ほぼ一日中、座っている状態だった。そして、連日悩まされていた夜の睡眠時間確保との戦いに、静かに備えるのだった。
それは、いわゆる産後の単なる一般的な痛みだと思っていた。夜中に起き上がるときに毎回、痛みが走る。なんだろうな? と思いつつも、上体を起こすときはいつも、体を横にしてから手で支えて起き上がり、ことなきを得ていた。もしかしたら、恥骨のあたりかな? と、アスリート特有の感覚でなんとなく見当はついた。それでも「まぁ、そのうち治るのかな」と、あまり深く気にしてはいなかった。
出産から1カ月半ほど経ったころ、産後の体の評価を受けにJISS(国立スポーツ科学センター)を訪れた。そこには産前プログラムを紹介してくれた、なでしこのドクターである土肥美智子先生と、産後もお世話になるトレーナーの中野江利子さんもいた。
早速、恥骨のあたりがずっと痛いという話をすると、MRIを撮ることになった。映像では、恥骨が白く写っている。それを見て先生は言った。
「もしかしたら、骨折かもしれないね」
骨折……どうりで痛いわけだ。しかし、どうしてこんなところを骨折したのか?
思い当たるとすれば、ただ一つ。あの「分娩台で勝手にイキんでいた事件」しかない。
ここからは推測だけど、子宮口がなかなか開かなかった時間帯に、力を入れまくって無理やり産道を通そうとしていたのが、おそらく原因だろう。アスリートだけに、一般の人よりも骨盤回りの筋肉は絶対的に鍛えられている。しかもサッカーはボールを蹴る、走るなど足腰回りは特に強度の高い使われ方をしているため、きっと普通の人より筋肉がガチガチに強いのは間違いない。その強固な筋肉と私の「無理やり」が、恥骨を広げて痛めつけてしまったというわけか……。なんてこった! そろそろまとまった睡眠も少しずつ取れるようになってきたし、トレーニングを始めてみようかなって思っていた矢先に!
でも、「まぁ、どこが痛みの原因なのかわかってよかったよね」ということで、トレーナーの中野さんから、その症状を踏まえてこれからのトレーニングを組んでいきましょうと提案してもらい、その日はJISSを後にした。しかし、この痛みがまた、思いのほか厄介なものだった。
写真:佐野美樹
『ぼくのママはプロサッカー選手』より
出産からそろそろ2カ月、ようやく体を動かす気力が湧いてくるようになってきて中野さんに連絡を入れると、先日の検査結果を踏まえたメニューを用意してくれていて、まずは復帰に向けたトレーニングのためのトレーニング、いわゆるリハビリのような“慣らし運転”から始めることになった。当時は緊急事態宣言中でもあったので、オンラインでの遠隔トレーニング。妊娠と出産で凝り固まった体をほぐしていくところからのスタートだった。
それなのに、せっかく湧き上がってきたやる気とは裏腹に、それを阻むように、なにをやるにもいちいち“あの痛み”が邪魔をする。それまでは体をほとんど動かしていなかったので、日常生活でその痛みに悩まされる場面はあまりなかったのだが、いざ体を動かすとなると、しっかり存在感を発揮する。むしろもう、痛くて存在感しかない。この恥骨回りが、運動するのにこんなにも重要な役割を果たしていたなんて。アスリートなのにちゃんとわかっていなかった自分をちょっと反省もした。
つまり、結局のところ、なにをするにもベースとなる動きにこの恥骨の骨折が響き、思うようにトレーニングが進まないのだ。中野さんに「これできる?」と聞かれ「ちょっとこれは痛くてできない」と返す。すると「じゃあ、これだけならどうかな?」と言われて、ようやく「それならなんとかいける」と少しだけ前に進む。
体にグッと力を入れるのが痛いから、なにをするにも基本ができない。おかげで全体的なスタートが遅れることになってしまった。
だからと言って、焦りを感じていたかというと、答えはノーだ。このころの私は、「半年で復帰? そういえば、そんなこと言ってたね~」くらいのライトさで、焦りなどまったくなかった。その辺は私の図太さとポジティブさを本当に褒めてあげたいと思う。恥骨骨折は自然治癒しか方法がないし、もうしょうがない、と割り切っていた。もちろん、痛くなかったらもっといろいろと前倒しで復帰へ向かえたのかな、とも思うけれど、こればっかりは、もう仕方がない。
ただ、振り返ってみて、もしこの出産が無痛分娩だったらどうだったのだろう? とは少し考えることがある。陣痛の長い痛みや、出産後のダメージが最小限で済んでいたのなら、復帰も早くなったのかな? とか、もし帝王切開だったら、腹筋を切ってしまうから復帰に時間がかかってしまうかも、という話は聞いていたけれど、体全体のダメージを考えたら、イキむこともないから恥骨の骨折もなかったな、とか。
結果論になってしまうけれど、どれが最良だったのか。
ただ一つ、わかったことといえば、イキむ力も“アスリート級”だったから、骨折しちゃったんだろうな、ということだろうか。
著:岩清水 梓『ぼくのママはプロサッカー選手』(小学館クリエイティブ)より再編集/マイナビ子育て編集部
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