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航続距離“ほぼ無限”! ソ連が夢見た「原子力飛行機」なぜ実現しなかったのか

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  • 乗りものニュース
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なぜ「原子力飛行機」が必要だったのか

 1950年代、原子力は「夢のエネルギー」とされ、一度の燃料補給で何年も稼働できるその特性から、様々な分野への応用が構想されました。そのひとつが、事実上無限の航続距離を持つ「原子力飛行機」です。アメリカだけでなく、当時のソ連でも開発計画が進められていましたが、実現には至りませんでした。ソ連では一体どのような計画が進んでいたのでしょうか。

Large figure1 gallery6原子炉搭載口を開いて飛行するTu-95LAL(画像:ロスアトム)

 そもそも、1950年代は米ソ冷戦が激化した時代です。両国は核兵器を実用化しましたが、まだ大陸間弾道ミサイル(ICBM)の技術が成熟していなかったため、核兵器の運搬は戦略爆撃機が担っていました。

 アメリカとソ連は太平洋や大西洋を挟んで数千kmも離れており、相手国を爆撃するには長大な航続距離を持つ爆撃機が不可欠でした。そこで注目されたのが、燃料補給なしで長期間飛び続けられる原子炉を動力源とするアイデアです。これにより超長距離爆撃が可能になると考えられ、米ソはそれぞれ独自に原子力飛行機の研究を推し進めていきました。

 ソ連での研究は、ソ連科学アカデミーが主導して始まりました。当初は、取り込んだ空気を原子炉の熱で膨張させて推力を得る「原子力ラムジェットエンジン」とも呼べる方式が検討されました。しかし、この開放式エンジンは放射能を帯びた空気をまき散らすという致命的な欠点があったため、安全な閉鎖式が採用されることになります。

 しかし、研究者たちの前に最大の難題が立ちはだかります。それは「放射線」です。原子炉の重量は50~60tにもなり、その3分の2は放射線を遮蔽する材料で占められると試算されました。軽くしなければ飛べない航空機にとって、これは大きなジレンマです。

 乗員の許容放射線量は1回の飛行あたり500ミリシーベルトと見積もられましたが、これは当時の原発職員の年間許容量の10倍にあたる高線量でした。研究の結果、原子炉を全方位から保護するのは不可能だと判明し、コックピットのみを重点的に保護する方針が採られました。

2つの設計局、それぞれのアプローチ

 1955年、ソ連は複数の航空機設計局を計画に参画させます。そのうちのひとつ、ミヤシシチェフ設計局は、超音速爆撃機M-50をベースにした「M-60」や「M-30」を設計しました。M-60は、パイロットが潜望鏡やカメラ映像を頼りに操縦するという構想でしたが、技術的困難から廃案に。後継のM-30も設計段階から先に進むことはありませんでした。

Large figure2 gallery7ツポレフ設計局で組み立てられるTu-95LALの胴体。実際には旅客機型のTu-114がベースとなった。(画像:ロスアトム)

 一方、ツポレフ設計局は、アメリカがB-36爆撃機に原子炉を搭載して飛行させたという情報を得て、同様の実験機開発を命じられます。そこで、既存のTu-95M戦略爆撃機をベースとし、実際に原子炉を搭載して飛行させる「空飛ぶ原子実験室」として、「Tu-95LAL」と名付けられた機体の開発をスタートさせました。

 Tu-95LALの原子炉格納場所とコックピットの間には、厚さ5cmの鉛板と厚さ20cmの特殊な複合材でできた隔壁が設けられ、乗員を放射線から守る工夫がなされました。搭載された原子炉は、原子力潜水艦などでも使われる「加圧水型軽水炉」でした。

 地上での実験を重ねたTu-95LALは、1961年5月、ついに飛行試験に臨みました。実際に空中で原子炉を動かし、飛行中の振動やG(重力加速度)が与える影響、そして乗員や計器が浴びる放射線量などが詳細に測定されました。

 しかし、この試験で深刻な事実が次々と明らかになります。

判明した深刻な影響

 わずか2日間の飛行で、パイロットが50ミリシーベルトの放射線に被ばくしたことが判明。これ以降、飛行試験に参加できるのは、すでに子供がいる40歳以上の男性のみに制限されました。

Large figure3 gallery8Tu-95LALに搭載される原子炉(画像:ロスアトム)

 さらに、着陸した機体からは多量の放射線が放出され、許容レベルに下がるまで数日を要したといいます。また、高高度で使う酸素マスクの酸素が放射線の影響で一部オゾン化するという問題も発生しました。

 Tu-95LALは1961年8月までに34回の飛行試験を実施し、貴重なデータを収集しましたが、それより先に計画が進展することはなく、実用化には至りませんでした。

 原子力飛行機の開発計画が中止された最大の理由は、墜落事故が発生した際に広範囲が放射能で汚染されてしまうという、拭いがたいリスクでした。緊急時に原子炉をパラシュートで切り離す案も検討されましたが、危険性を根本的になくすことはできません。

 また、実用化までに少なくとも10億ルーブルが必要という莫大なコストも障壁となりました。国防費を惜しまなかったソ連でさえ、過剰な投資と判断されたのです。

 そして決定打となったのが、ICBMの性能向上でした。乗員を被ばくのリスクにさらし、莫大な費用をかけてまで原子力爆撃機を飛ばす必要がなくなったのです。その後もアントノフAn-22輸送機をベースにした原子力対潜哨戒機の試作なども行われましたが、これも1972年に計画が破棄され、ソ連の原子力飛行機は夢のまま終わりました。

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