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「新型戦車求む!」 欧州の戦車大国がタッグ組んだ“新型戦車の共同開発”…なのに足並みそろわないワケ 「ウチの本音は…」

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どうなる欧州の戦車事情のこれから

 現在進行形のロシア・ウクライナ戦争では、多数の戦車が撃破される映像が連日のようにネット上に投稿されました。その結果、「戦車はもう時代遅れ」「ドローンの前では無力だ」といったという声が上がっています。M1エイブラムス、レオパルトなど西側が誇る主力戦車のウクライナへの供与がニュースになりましたが、今やほとんど存在感がなくなってしまいました。戦車不要論が再燃したようにも見えましたが、実際に戦車を放棄した国はありません。むしろ、次世代戦車の需要が高まっているという矛盾した状況になっています。

Large figure1 gallery6フランスの第3.5世代戦車ともいわれたルクレール。構造が独特で複雑、高価なので輸出は振るわなかった。ドローン対策を施した最近の姿(画像:仏軍事省)

「戦車はディナージャケットのようなものだ。いつも必要なわけではない。しかし必要な時に他のものでは対応できない」と、2019年にオーストラリア軍のカスリン・トゥーヒー少将が語った比喩は言い得て妙です。戦車は万能の兵器ではありません。しかし、必要な局面では他の装備による代替ができない存在でもあります。欧州が進める次世代戦車計画「MGCS(Main Ground Combat System)」は、まさにその現実を象徴するプロジェクトです。

 MGCSは、将来の欧州各国で共通運用される「欧州標準戦車」を目指した構想です。ドイツの主力戦車「レオパルト」と、フランスの「ルクレール」をルーツとする次世代主力戦車を共同開発する計画としてスタートしました。2018年6月にフランスのパリで開催された兵器展示会「ユーロサトリ」で、独クラウス・マファイウエッグマン(KMW)と仏ネクスター・ディフェンス・システムズが、レオパルト2A7の車体とルクレールの砲塔を組み合わせたキメラのようなデモンストレーター「EMBT(European Main Battle Tank)」を展示して、独仏の協力体制をアピールしました。

 当初は2035年の量産開始が想定されていましたが、現在では2040年代の配備が有力とみられています。ただし、計画自体は停滞しているわけではありません。2025年4月には、開発主体となる「MGCS Project Company GmbH」がケルンでKNDSドイチュラント、KNDSフランス、ラインメタル・ランドシステムーネ、タレスの4社共同出資によって正式に設立されました。

 出資比率は各社25%ずつ、独仏で50%ずつとなっています。ドイツ連邦カルテル庁の承認を得て法的設立という手続きに進み、共同声明や覚書から構造化された実務段階への移行を示しています。しかし、このMGCSに対するドイツとフランスの切迫感は、驚くほど異なっています。

 フランス陸軍の主力戦車は、国産の「ルクレール」です。1990年代設計の第3世代ともさらに進んだ第3.5世代ともいわれ、ベトロニクス(車両電子工学)と呼ばれる電子機器を設計段階から実装して高度なデータリンクシステムを備えます。また、エンジンはディーゼルとガスタービンの複合機関V8Xで「ハイパーバール」という独創的なシステムで、小型ながら高出力を実現しています。

 しかし、保有数は215両(2023年時点)で、複雑高価な構造と部品不足や整備負担が慢性化も相まって稼働率は50~60%程度に留まるとされています。さらに深刻なのが国内産業基盤です。KNDSフランスは2008年にルクレールの生産を終了しており、以降17年間にわたり装軌式戦闘車両を新規製造していません。

フランス「このままじゃまずい」! 一方のドイツは「勝ち組」って?

 新型戦車 の設計開発となると、実に35年ものブランクがあります。このままでは、戦車を設計・製造する技術そのものが失われる「ロストテクノロジー」になる可能性が現実味を帯びています。イギリスが新型装甲車「エイジャックス」の開発で苦しんでいますが、工業先進国であっても一度失われた重装軌車両の製造能力を取り戻すのは容易ではありません。

Large figure2 gallery7ドイツのレオパルト2最新バージョンA8。需要に供給が追い付かず、価格も中古のF-16戦闘機より高騰しているとも言われる(画像:KMW)

 フランスはMGCSが完成するまでの間、ルクレールを近代化改修した「ルクレールXLR」で戦力をつなぐ方針です。これは単なる延命ではなく、デジタル化やネットワーク対応を含む近代戦仕様への改修です。2024年12月、フランス装備総局(DGA)は、2030年までに160両、2035年までに残り40両の改修を完了させると決定しました。

 ただし新造ではないため、生産ラインは再稼働せず、戦車のロストテクノロジー化を防ぐ根本的な問題解決とはいえません。国防費は増額されていますが、原子力潜水艦や次世代戦闘機といった空海軍の大型事業との予算配分競争も厳しいのですが、フランスがMGCSに強い期待を寄せるのは、国産戦車技術を未来につなぐために他なりません。

 一方のドイツは、まったく異なる状況にあります。主力戦車「レオパルト2」シリーズは欧州各国で引く手あまたで、最新型の「レオパルト2A8」も好調な受注を獲得しています。改修・新造ラインはフル稼働を続けており、事実上、現在の欧州で唯一の戦車供給国となっています。戦車産業という点では、ドイツは完全に「勝ち組」です。

 メーカーのラインメタルはMGCSに参加しつつも、独自の戦車開発を進めています。将来的な「レオパルト3」構想もあり、MGCSが遅れても当面困る状況ではありません。それでもドイツがMGCSを続ける理由は、戦車そのものよりも

・将来技術への先行投資
・欧州防衛産業基盤の維持
・フランスとの政治的・外交的協調を示す
――といった長期的視点にあります。

 MGCSは、ドイツにとって「今すぐ必要な戦車」ではなく、アメリカやロシアを見据えた技術と政治を統合する戦略プロジェクトと位置付けられているのです。最近ではアジアから韓国という新しい競合相手も参入してきています。

 戦車は「ディナージャケット」のような存在です。日常的に着るものではありませんが、必要な場面で代わりはありません。フランスにとってMGCSは、失われかねない戦車製造技術を救うための「最後の一着」です。一方のドイツにとっては、当面困らないものの、将来に備えて用意しておく「上質な勝負服」といえるでしょう。

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