渋谷パルコ、大阪ヘップファイブ…転落巻き添え事故　遺族は賠償請求できない？　法律の意外な“落とし穴”

　2025年1月11日、渋谷パルコ（東京都渋谷区）前の路上で通行人が転落した人の巻き添えになる事故が発生しました。2024年8月にはJR横浜駅（横浜市西区）直結の商業施設、2020年10月には商業施設「HEP FIVE（ヘップファイブ）」（大阪市）でも通行人が巻き添えになりました。

　後を絶たない転落巻き添え事故ですが、もし施設から転落した人とたまたま近くの路上を歩いていた人が接触し、歩行者がけがをしたり、死亡したりした場合、けがをした本人やその家族は、転落した相手側に賠償請求できるのでしょうか。刑事責任や民事責任の所在について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

相手側が相続放棄や限定承認した場合は賠償請求できない

Q.建物から転落した人が路上にいた人と接触し、相手をけがさせたり、死なせたりしてしまった場合、どのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。

牧野さん「まず刑事責任や民事責任を考える上で、建物から転落した人に通行者をけがさせたり、死なせたりする上で過失があったかが重要になります。

例えば、命綱を付けずに建物で工事作業をしていた人が転落して歩行者と接触した結果、けがをさせたり、死なせたりしたという過失が認められる場合、刑法211条の業務上過失致傷罪や業務上過失致死罪に該当する可能性があります。この場合、転落した人が生きていれば5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金を科せられる可能性があります。

接触した相手がけがや死亡したことについて過失が認められる場合は、民法709条の不法行為により、接触した相手が被った損害の賠償責任を負う可能性があります。

一方、通行人が巻き添えになっても構わないと考え、建物から自死する目的で転落した人が、通行人をけがさせたり、死なせたりした場合、重大な過失があると見なされ、刑法211条の重過失致死罪や重過失致傷罪に当たる可能性があります。転落した人が生存していた場合の刑罰は5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。

けがや死亡したことに過失が認められる場合には、民法709条の不法行為により接触した相手が被った損害の賠償責任を負う可能性があります。

転落した本人が生存している場合、本人がこれらの刑事責任、民事責任を負いますが、転落した本人が死亡した場合は、本人が亡くなっている以上、刑事責任を負いません。ただし、民事の損害賠償責任については相続人が放棄しない限り、相続人に損害賠償責任が相続されます。この場合の相続人は通常は家族です」

Q.では、もし建物から転落した人と接触した人がけがをしてしまったり、亡くなったりしてしまった場合、けがをした本人や家族は、転落した本人またはその家族に対し、賠償を請求することができるのでしょうか。もし損害賠償の支払いを断られた場合、提訴は可能なのでしょうか。

牧野さん「けがや死亡したことに故意もしくは過失が認められる場合、民法の不法行為により、転落した人に損害賠償を請求することができます。転落した本人が死亡した場合は、先述のように相続人が放棄しない限り、相続人に損害賠償責任が相続されるため、相続人に対して損害賠償請求をすることが可能です。

転落した人やその家族（相続人）に任意に損害賠償の支払いを断られても本人が生存している場合は本人に、本人が死亡した場合は相続人に対し、民法709条の不法行為に基づく損害賠償を請求する民事裁判を提起することが可能です。

ただし、相続人を提訴する場合、相続人が損害賠償債務を法的に承継していることが必要です。相続人が相続放棄または相続によって得た財産の限度で被相続人の債務を引き継ぐ『限定承認』（民法922条）をした場合、提訴をしても請求が棄却されます」

オトナンサー編集部

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