史上最速の旅客機「コンコルド」実は本気出してなかった!? 特別装備を「あえて使わない」納得の理由とは
- 乗りものニュース |

マッハ2への加速を支えた“戦闘機みたいな装置”
旅客機は、現代一般的なターボファンエンジンのものでは、音速に満たない程度の「亜音速」で飛ぶことが一般的です。しかし航空業界の歴史においては、音速の約2倍で飛行した超音速旅客機が存在します。「コンコルド」です。その4基のエンジンには、戦闘機のアフターバーナーと同じ仕組みを持つ「リヒート」が備わっていました。なぜ旅客機にこの装置が必要で、しかも飛行中ずっと使わなかったのでしょうか。
ブルックランズ博物館に展示されているコンコルド。イギリス最初の生産機で、商業運行は行なわず、各種試験や世界各国でのプロモーション飛行に使用された(布留川 司撮影)。
コンコルドは、イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機です。1976年に定期便へ就航し、最高速度はマッハ2.04、飛行高度は約1万8000mという驚異的な性能を誇りました。この性能により、ロンドン―ニューヨーク間を3時間半弱で結びましたが、商業運航は2003年に終了しています。
旧ソ連にもTu-144という超音速旅客機がありましたが、旅客便としての運航は約7か月で終了しました。これに対し、コンコルドは約27年間にわたって運航され、長期の本格的な商業運航を実現した唯一の超音速旅客機となりました。
その飛行を支えた重要な装置のひとつが、ロールス・ロイスとフランスのSNECMAが共同開発した「オリンパス593」エンジンに備わる「リヒート」です。これは戦闘機で一般的にアフターバーナーと呼ばれる装置と基本的に同じもので、イギリスではリヒートという呼称が多く使われました。
リヒートは、エンジンの排気に燃料を追加で噴射して燃焼させ、一時的に推力を約2割も増やすことができる装置です。では、なぜ旅客機であるコンコルドにこのような強力な装置が必要だったのでしょうか。
その理由は、機体の特性にありました。デルタ翼を持つコンコルドは、離陸するためには非常に高い速度を必要とします。そのため、重量の大きな機体を一気に加速させるためにリヒートの強力な推力が不可欠でした。
また、もうひとつの重要な役割が、音速を突破する際の加速です。航空機が音速に近づくと、衝撃波によって空気抵抗が急激に増加します。この抵抗の壁を突破するためにも、リヒートによる一時的な推力増強が必要だったのです。
速さと引き換えの「騒音」と「ソニックブーム」
とはいうものの強力なリヒートですが、「コンコルド」が実運航されているなかでは、実のところずっと使われることはありませんでした。その主な理由は、騒音と燃料消費の問題です。
リヒートの作動中は大量の燃料を燃焼させるため、エンジン音も一段と大きくなります。このため、離陸後は空港ごとに定められた騒音軽減手順に従い、速やかにリヒートを停止してエンジン出力も絞っていました。
さらに、コンコルドの超音速飛行には「ソニックブーム」という別の騒音問題が伴いました。これは超音速で飛ぶ航空機から生じる衝撃波が地上へ届き、爆発音のような大音響を発生させる現象です。超音速で飛行している間は経路に沿って発生し続けるため、騒音や建物への影響が懸念されました。このため、陸上での超音速飛行は厳しく制限され、定期便では主に海上へ出てから音速を超える運用がなされていました。
大西洋路線では、海上の加速地点へ到達してからリヒートを再び作動させて音速を突破。このときも、マッハ0.95付近からマッハ1.7まで加速する約10~15分間に限って使用されていました。
リヒートを使わなかったもうひとつの大きな理由が、強烈な燃料消費です。公表されている機体全体の燃料消費量は、1分間に約427Lにも達します。
特に重量が大きい離陸時には、滑走開始から高度1000フィート(約300m)に達するまでの間に、リヒートによって約1トンもの燃料を消費したとされています。
こうした燃費の問題に加え、コンコルドは定員が約100人と少なく、特殊な機体やエンジンの整備にも莫大な費用が必要でした。その速さと引き換えに運航コストは非常に高くなり、運航終了時のロンドン―ニューヨーク間の往復運賃は、一人あたり7000ポンド(当時のレートで約150万円)近かったといいます。
イギリスのブルックランズ博物館では、展示されているコンコルドの機内で、映像と音声を使った疑似フライトを体験できます(入館料とは別にツアー料金が必要)。当時の客席に座り、超音速飛行の様子を追体験することで、この機体がどのように飛んでいたかを知ることができます。
ロンドン―ニューヨーク間を3時間半弱で結んだコンコルドですが、その速さには大量の燃料と騒音、そして高額な運賃が伴いました。リヒートは超音速旅客機の夢を実現した装置であると同時に、その速さに必要なコストの大きさを象徴する装置でもあったのです。
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