AIが仕事を奪うのではなく、AIを使える人に奪われる レバテックIT転職フェアで特別講演会
- J-CAST ニュース |

IT人材不足が深刻化する中、エンジニアと企業の出会いを提供する「レバテックIT転職フェア」が2026年7月26日、開催された。会場となった東京国際フォーラムには77社がブースを並べ、特設ステージでは特別講演が行われた。
生成AIの急速な進化と普及により、エンジニアに求められるスキルとキャリアのあり方が大きな転換点を迎えている。そこで、サードスコープの取締役 COOでSNSフォロワー約11万人の生成AIインフルエンサー・伊東和成氏が「生成AI時代のキャリア戦略」について、そして競技プログラミングコンテスト「AtCoder」を主催するAtCoderの代表取締役社長・高橋直大氏が「生成AI時代を生き抜くエンジニアの条件」をテーマにそれぞれ講演した。
「『考える』+『動く』―人間の仕事を代行するAI」に
まず演壇に立った伊東氏は、IT業界における生成AIの現状を解説した。従来の生成AIは、プロンプトによってテキスト生成や編集をするという作業を繰り返して成果物をつくるレベルだった。つまり、「思考や提案はできるが、操作や実行はできない」というレベルに止まっていたのだ。
「しかし現在のAIエージェントは、〈『考える』+『動く』〉が可能になり、人間の仕事を代行するAIへと変貌しました。つまり条件に応じて判断と実行を行い、1つのプロンプトを与えるだけですべての成果物をつくってくれ、なおかつエージェント同士の連携も可能になったのです」
こうした生成AIの進化にともなって、要件定義と仕様の説明、実装、テストなどをAIで生成できるようになり、大幅に開発工数が減ったという。簡単にプロダクトができるようになったのはいいことなのだが、そのプログラムが業務内で有効活用されているのかというと、疑問符がつくケースがあると指摘する。
「そこで必要になってくるのが、客先や現場の人たちとミーティングして、課題をヒアリングし、そこで出てきた課題を仕様書に落とし込む能力を持つエンジニアです」
最近、大手企業の中でもホットなキーワードになっているのがFDE(Forward Deployed Engineer:前線展開エンジニア)だという。
「FDEとは、会社の業務課題を特定して、AIで試作品などプロトタイプをつくったり、業務・運用まで設計したり、あるいは改善して成果を図ったりしながら横展開を図っていく、そして業務で成果を出すまで伴走するエンジニアです」
他業種での経験をエンジニアとして生かせる可能性
では、今後、評価されるエンジニアの条件とはどういうイメージだろう。伊東氏は次の3点を挙げた。
1、AIが動きやすい環境を作れるエンジニア。たとえば「タスク分割」。複雑な作業を適切な大きさに分けて、AIの精度を高めるスキルを備えたエンジニアである。
2、「何を作るか」と「なぜ作るか」を常に意識して、実際に使われるプロダクトを完成させるエンジニア。
3、「掛け算」で希少性を作れるエンジニア。たとえば「業務知識×AI」だ。金融、医療、製造、物流といった業界の業務がわかるエンジニアは、AI導入の即戦力になれる可能性がある。また「ビジネス×AI」では、営業、マーケティング、採用といった経験者がAI活用推進の中心人材になりうる。さらに「教育・伝達×AI」という掛け合わせでは、技術を「教えられる」「広められる」スキルのある人が社内研修や組織展開の場面で貴重な人材となる。
なかでも教育人材の必要性は、データ上でも明らかになっている。伊東氏によれば、生成AIを導入する日本企業の割合は、34.5%に止まっているという。これは2026年に公開された帝国データバンクが1万社を対象にしたアンケート結果だが、注目すべきは大企業は46.5%が導入しているのに、中小企業は32%、小規模企業は26%と大きな差があることだ。これは世界的にみてもかなり少ない数字だという。
「さらに興味深いのは、導入企業が課題としているのが、AIを使いこなせる社員とそうでない社員の間で業務成果の格差が広がっていることです」
一口にエンジニアといっても、他業種からの人材も含めてかなり広い人材、能力が必要とされているのだ。
競技プログラミングではNO.1のAIでも社長業は「不可能」
次に壇上にあがったのはAtCoderの高橋氏。AtCoderは、プログラミングコンテストをオンラインで毎週開催している。高橋氏自身、Google Hash Codeという世界大会での優勝をはじめ、ICFPCという国際会議が主催するプログラミングコンテストでも7回優勝するなど、輝かしい戦歴を持っている。
そんな高橋氏が、「AtCoder World Tour Finals」という大会で、OpenAIのAIと人間が対決したエキシビションマッチを通して考えたことを次のように語る。
「2025年大会で(エキシビション参加した)OpenAIは2位(に相当する得点)だったんですが、(1年後の)2026年大会ではOpenAIが全問正解。完全にわれわれ人間がボコられました。ところが業務の現場におけるAIはそれほどの存在感がないのです。AIはアルゴリズムでは世界一のはずなんですが、非エンジニアがAIで最適化プログラムを構築したという話は聞いたことがありません」
さらに高橋氏は、AIに「社長はお前がやれ。そして俺に指示を出せ」という課題を出す実験を行ったことがある。パソコンには社長業に必要なすべての情報が集まるようにしたのだが......。
「あまり社長をやれる感じはしなくて、プログラミング能力としては『ジュニアエンジニア』レベルでした。つまり、指示した課題を遂行する能力はすごく高いのですが、人間のように自発的に動くことは難しい。『指示待ち社員』のような印象を持ちました。将来的にAIはもっと進化するとは思いますが、現状では、このあたりにITエンジニアの生きる道が示唆されていると思いました」
すなわち、AIにいかに指示を出せるか、いかに使いこなすかで、仕事の内容や質が変わってくると、高橋氏は予測する。
「AIを使うことにより、従来の10倍のタスクが可能になるだろうと言われています。いまあなたが所属する会社が、ITのそうした動きに対応しようとしない場合どうなるのか。もしAIを使いこなし、10倍の速さで仕事をする会社が現れてしまったら、太刀打ちできず、あなたの会社は潰れてしまう危機に立たされます。つまり、AIが人の仕事を奪うというよりは、AIを使える人に奪われることに気をつけた方がいいというわけです」
仕事領域に対するこだわりを捨て、担当業務を拡大する
最後に高橋氏は、AI時代の生き残り方に触れた。強調するのは、「自分の主戦場はここだ」とこだわらないことだ。
「業務の範囲を広げて、扱う領域を10倍にしましょう。かつて10人でやっていた仕事を、自分1人でやりましょうというようなイメージでいければ素晴らしいと思います」
高橋氏は、今後ITエンジニアの仕事をAIが浸食していく流れは変わらないとしつつ、それでもITエンジニアとして生き残る道についてこう話した。
「これからのエンジニアは、AIに複数のタスクを非同期で任せて監督したりする仕事を任されるようになるので、それに耐えられる頭脳が必要です。くれぐれも練習と勉強を怠らないようにしてほしいです」
日々進化し続けるAIの実力をチェックしながら、エンジニアが自分の立ち位置を考える状況は今後も続きそうだ。
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