東京はなぜ高層化したのか? 先鞭をつけたのは中曽根元首相だった
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「アーバンルネッサンス構想」で経済活性化
2019年11月29日(金)、中曽根康弘元首相が、101歳で死去しました。
1982(昭和57)年から1987(昭和62)年までの約5年間にわたって首相を務めただけあり、その死は大きく報道されています。国鉄の分割民営化をはじめとする行政改革や日米の外交関係で存在感を発揮した中曽根元首相は、政治家を引退した後も国政に多大な影響を及ぼしました。
中曽根元首相が及ぼした政治的な影響は、国政だけにとどまりません。現在の東京の街並みは、中曽根内閣の政策が如実に反映されているのです。
第一次中曽根内閣が発足したのはバブル景気の前夜です。バブル期は日本全国の不動産価格が急上昇しました。特に東京都心部の土地は、常識では考えられないほど高騰しています。
当時、東京の都心部はまだ高層ビルが少なく、そのために土地の有効活用ができていないという指摘が相次いでいました。そうした状況を改善するべく動いたのが、中曽根内閣です。
第一次中曽根内閣は「アーバンルネッサンス構想」を掲げました。その構想を端的に表現するなら、東京の高層化です。2階建てのビルが20階になれば、単純計算で10倍の床面積を創出できます。床面積が10倍になれば、オフィス機能が10倍になり、経済が活性化すると考えられたのです。
中曽根内閣は山手線の内側にあたるエリアを原則として5階建て以上にするとし、東京の高層化に取り組みました。そうした政策も追い風になり、日本は“バブル”絶頂期を迎えます。
東京駅は25階建てのビルになった可能性も
東京の高層化を推進した中曽根内閣ですが、東京駅の赤レンガ駅舎もそのターゲットにされました。
東京駅赤レンガ駅舎が立つ千代田区丸の内界隈は、日本有数のオフィス街です。しかし、当時は違いました。丸の内のオフィスビル群は高層ビル化していなかったのです。丸の内のオフィスビル群が高層化していなかった理由は、1960年代に起きた社会問題が背景にあります。
当時、丸の内に自社ビルを構えていた東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)は、老朽化したビルの建て替え計画を発表。東京海上火災保険が発表した新しい社屋計画は、地上30階建てで高さが120m超という巨大なビルでした。
今般、120mを超える高層ビルは珍しくありません。しかし、当時は前例がない高層ビルだったこともあり、計画には“待った”がかけられます。
同ビルが問題視されたのは、ビルの高さだけではありません。皇居に近接する丸の内というエリアだったことも問題を複雑化しました。皇居に近接する丸の内に高層ビルが竣工すれば、ビルの高層階から皇居が丸見えになるのではないか? という疑義が呈されたのです。こうした経緯から、東京海上火災保険の新しいビルは計画変更を余儀なくされました。
そうした過去があったため、丸の内にはビルの高層化をためらう空気が生まれたのです。まして、東京駅は列車の乗降場であり、喫緊に高層化する必要性がありません。そうしたことから、東京駅は低層のまま放置されていたのです。
東京の高層化を推し進める中曽根内閣は、当然ながら東京駅にも高層化を求めました。中曽根内閣の意向を受け、国鉄でも東京駅の高層化を模索する動きが広がります。中曽根内閣の意を受けた自民党の大物議員も東京駅の建て替え計画に言及し、特に金丸信副総理からは、赤レンガ駅舎を25階建てのビルに建て替える案が飛び出しています。
また、丸の内の大地主でもある三菱地所も高層化に賛成の立場でした。そのため、丸の内一帯に広がる三菱グループのビルは次々と高層化していったのです。
高層化の波から救ったのは、バブル崩壊と国鉄の分割民営化
丸の内一帯のオフィスビルが高層化していく中、東京駅の建て替え計画は二転三転します。東京の顔、もっと言ってしまえば日本の顔でもある東京駅ですから、軽率に建て替え計画を決めることはできません。
長い時間をかけて計画が練られたことは想像に難くありませんが、その熟議が結果的に赤レンガ駅舎を高層化の波から救うことになります。
建て替え計画が話し合われている間に、国鉄が分割民営化されます。さらにバブル崩壊という追い打ちもあり、わざわざ莫大な資金を投じるほどのプロジェクトではないとの判断が下されたのです。
中曽根内閣が取り組んだ高層化は、現在も引き継がれています。今後も東京のビルはどんどん高層化していくことでしょう。しかし、東京の顔でもある東京駅は、紆余曲折を経ながらも開業当時とほぼ同じ姿を保っています。
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