「郊外のほうがいい」 50万都市の駅前“砂漠”状態のまま2年 新アリーナ計画で急浮上の適地とは?
- 乗りものニュース |

「松山砂漠」の代わりに目を付けたのは…
2024年9月、高架化され71年ぶりに新装となったJR松山駅は50万人弱の人口を抱える四国最大の都市・松山市の玄関口ながら、駅前再開発が進まずに「松山砂漠」と揶揄されています。大きな誤算となったのが、男子プロバスケットボールリーグ(Bリーグ)球団「愛媛オレンジバイキングス」の本拠地の誘致失敗でした。
高架化されたJR四国予讃線松山駅の西口は高架化後2年近く閑散としたまま。奥にアリーナを建設する計画が挫折した(大塚圭一郎撮影)
代わりの移転先として急浮上したのが、松山市近郊のレジャー施設です。2026年4月に愛媛県を訪れた際、この施設内にある宿泊施設に泊まった筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は、所在地が「北の大地」にあるスポーツ施設の立地に似ていることに気づきました。鉄道の新駅を開業すれば「駅近」に生まれ変わるポテンシャルを秘めているのです。
松山市は2026年3月13日に松山駅前の再開発構想「松山駅周辺まちづくりプラン」を発表。その目玉と位置づけたのが、愛媛オレンジバイキングスの本拠地となるアリーナの建設計画でした。
計画では、松山駅西口と直結した約9250平方メートルの敷地に5000席規模の多目的アリーナを設け、音楽ライブなども開催できるように設計。大規模災害に備えて防災機能を持たせ、避難所や物資の集積拠点として活用するとし、公設民営で運営する場合の事業費を200億円と見積もりました。
ところが、わずか1か月半後の2026年4月30日、アリーナ建設計画は挫折しました。
愛媛オレンジバイキングスを傘下に抱えるソフトウエア企業、サイボウズの青野慶久社長がこの日の記者会見で、採算性が優れたアリーナを建設するには正方形の約1万平方メートルの敷地が求められる、長方形で1万平方メートルを下回る松山駅前の予定地では「いい図面をつくれなかった」と、撤退を表明したのです。
代わりの移転先として松山市に隣接する松前町(まさきちょう)も名乗りを上げる中、青野氏は7月6日、松山市近郊の別の自治体にあるレジャー施設を候補地として挙げました。
前身はあの「ウェルサンピア」
その施設とは、愛媛県伊予市にある「ウェルピア伊予」です。敷地面積は東京ドーム約2.5個分の約11万7000平方メートルあります。施設は高さ50mの展望タワーを備えており、遠くからでも場所が分かるランドマークの役割を果たしています。屋上には、360度のパノラマを楽しめる展望ラウンジも。
JR松山駅東口に2026年4月時点に掲げられていた「松山駅周辺まちづくりプラン」(大塚圭一郎撮影)
敷地内には野球場や体育館、テニス場、ゴルフ練習場、プール、多目的グラウンドなどもあるため、市民の憩いの場となっています。
ウェルピア伊予は1981年にオープンし、当初の名称は「愛媛厚生年金休暇センター(ウェルサンピア伊予)」でした。社会保険庁(現・日本年金機構)が年金保険料を元手として建設し、厚生年金保険加入者の福祉増進をうたって日本各地に設けた厚生年金福祉施設「厚生年金休暇センター(ウェルサンピア)」の一つでした。
しかし、厚生年金休暇センターはバブル崩壊後に利用客が減少し、維持費もかさんだことで巨額の赤字を出す施設が続出。2005年10月1日に各地の厚生年金休暇センターの所有権を引き継いだ独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構(解散済み)は5年以内に段階的に廃止・売却の手続きを進め、旧ウェルサンピア伊予も売却先を探すための入札が2008年1月に実施されました。
落札したのは伊予市で、2008年4月から引き継ぎました。その際、名称が「ウェルピア伊予」に変わりました。
ところが今や開業から約45年が経過し、施設が老朽化しています。伊予市は大規模改修に約67億円が必要との試算を公表。施設の運営に意欲のある企業に意見を聞くサウンディング調査(対話型市場調査)を2026年7月10日に開始し、参加する意向を示したのがサイボウズでした。
徒歩圏内に3駅!ただし…
ウェルピア伊予について、サイボウズの青野社長は「アリーナ建設に適した魅力的な候補地の一つとして関心を寄せている」とのコメントを発表。確かにウェルピア伊予の敷地内であれば、整地すれば正方形の約1万平方メートルのアリーナを建設することは可能です。
伊予鉄道郡中線の新川駅。停車中なのは3000系(元京王電鉄3000系)の電車(大塚圭一郎撮影)
ただし、課題となるのは道路渋滞を防ぐことができ、輸送力がある鉄道でアクセスしにくい点です。徒歩圏内に3駅あるものの、どの駅からも徒歩20分程度の距離にあり、内野手と外野手の間にぽとりと落ちるテキサスヒットのような中途半端な場所なのです。
グーグルマップによると、最寄り駅のJR予讃線鳥ノ木(伊予市)からが徒歩18分、松山方面の隣駅の伊予横田(松前町)からが19分、伊予鉄道郡中線の新川駅(伊予市)からが22分です。
筆者の宿泊時は新川駅からウェルピア伊予へ、帰路は鳥ノ木駅へそれぞれ歩きました。新川からは川に沿った道を東進し、突き当たった交差点からは県道23号伊予川内線をさらに東へ向かえばウェルピア伊予の入口に着きます。ただ、駅付近の道が狭いため、試合観戦の大勢の歩行者が行き来するのには向いていません。
一方、鳥ノ木駅からは北上して戸建て住宅が多く建ち並ぶ「鳥ノ木団地」を抜け、突き当たる県道23号を右折すればウェルピア伊予に到着します。もっとも、途中で道順がやや分かりにくくなるのが難点です。
道路の広さと道順の分かりやすさでは、伊予横田駅が最も優れています。駅から県道219号砥部伊予松山線を南下後、交差点で差しかかる県道23号を右へ進めばたどり着きます。
だから「まるでエスコン!!」
どの駅からも徒歩で20分程度かかる現状は、アリーナの立地には不利なのは否めません。ところが、ウェルピア伊予は逆転可能な“ウルトラC”を秘めています。
というのも、敷地に沿ってJR予讃線が延びており、もしも新駅を設置すれば「駅近」の場所に一変するのです。
この立地は、プロ野球パ・リーグ球団「北海道日本ハムファイターズ」の本拠地の球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」(北海道北広島市)をほうふつとさせます。現在は約2km離れたJR千歳線北広島駅でシャトルバスに乗り換える必要がありますが、球場の隣接地では2028年夏ごろの開業を目指して千歳線の新駅「北海道ボールパーク駅(仮称)」が建設中です。開業すれば球場までの距離はわずか約300mとなり、4分で歩けます。
そんな「北の大地」を手本にしてウェルピア伊予の隣接地に新駅を設ければ、アクセスが飛躍的に改善します。ただし、新駅建設にかかる巨額の予算をどのように拠出するのかに加え、新駅の位置は1.8kmしか離れていない伊予横田―鳥ノ木の間のため駅間距離が短いことがマイナスに働く可能性もあります。
したがって、アリーナの建設地がウェルピア伊予に決まった場合でも、新駅建設には高いハードルが残ります。プロ野球ほどの観客動員数にはならないため新駅設置までは踏み込まず、試合開催日にウェルピア伊予と伊予横田駅の間でシャトルバスをピストン輸送するのが現実的な解決策になるかもしれません。
先行きは不透明ですが、アリーナ建設が現実味を帯びた場合には、新駅設置の可能性を含めて公共交通機関のアクセスをどのように改善させるのかが大きな検討課題になるのは確実です。今後の行方を、試合観戦のようにしっかりと注視していきたいと思います。
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